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リュセ

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 いくら政略結婚とはいえ、相手を思いやれない人と婚約していただなんて……。
 他にも、もっと辛い思いをしてきたのだろう。

「俺たちが言えることじゃないけど、ブサイクなくせして、恋人が何人もいるビッチだ」
「それに、二十五にもなって礼儀作法も知らない人間だ。一生関わりたくない」
「私もいくらシュヴァリエを後継者にしたいからと言って、アレの行動に目を瞑っていた日々を思い出すと……」
「そうだ、お前が甘やかすからっ!」
「っ、仕方がなかったんだ……。だが、これからはそうはいかない。そうだろう? シュヴァリエ」

 すっと目付きが変わったジャスティン様に問いかけられて、力強く頷いたシュヴァリエ様。
 僕が不安に思うようなことはないみたいだ。



 それからジャスティン様に、卒業後はすぐにライトニング公爵家に来ないかとお誘いを受けた。
 公爵夫人の仕事を学ぶためでもあるけど、一番は多忙なシュヴァリエ様との時間を確保するためだ。

 了承するに決まっているのに、若干不安そうな目をするシュヴァリエ様が可愛すぎるっ。
 そして僕の両親は、まだ婚約したばかりなのに嫁に出した気分になったのか、号泣していた。
 たぶん、嬉し泣きなんだと思う。

 その後はシュヴァリエ様とダンスを踊ったんだ。
 練習した甲斐もなく、浮かれる僕は終始ふらふらだった。
 それでも完璧にリードしてくれるシュヴァリエ様は、僕を軽々と抱き上げて回っていた。
 夢のような時間に、僕はただただシュヴァリエ様に見惚れていたことは言うまでもない。

 ステップを間違えたとしても、頼もしいシュヴァリエ様がフォローしてくれるとわかって、僕は不安が綺麗さっぱりと消え去って、純粋にダンスを楽しんでいた。





 ──婚約して一週間。

 仕事終わりのシュヴァリエ様と、ダンスとお茶をする日々を送る僕は、大好きな人の敵を独自調査していた。

 ミイルズ・ブレイク。
 男爵家出身、二十五歳。

 この歳まで独身なのは、日本では普通のことだけど、ミラジュー王国では行き遅れ。
 間違いなく性格に難ありだ。
 そして、恋人が六人もいることが発覚。
 僕の両親が話していたことは真実だった。

 でも様々な理由で重婚が認められているミラジュー王国では、恋人が何人いても咎められない。
 ただ、婚姻後は厳しい監視がつく。
 産まれてくる子どものためだ。
 誰の子かわからなくなっては、乗っ取りなんかも考えられる。

 DNA鑑定が出来ればよかったのだけど……。
 というより、そもそも重婚しなかったらいいのだけど、子を産める男性が少ないんだ。
 神から子孫を残す役割を与えられたとされる人たちは、みんな大切に扱われている。
 そしてずっとチヤホヤされていた人たちは、必然的に重婚する道を選ぶんだ。

 だからジャスティン様も、ミイルズさんには強気に出られなかったみたいだ。
 でも僕からすると、貧乏なのに金遣いが荒いミイルズさんは、お金持ちのシュヴァリエ様をキープしていた性悪野郎だ。


「もう、この人のことは、ミイルズ・って呼んでもいいかもしれない……」


 憤慨する僕の周囲では、ふくよかなオジ様集団(四十代)が、うんうんと頷いている。

 ライトニング公爵家から派遣された方々だ。
 みんなすごく優しい人ばかりで、すぐに仲良くなることができたんだ。
 ただ、ジャスティン様が選び抜いた人たちの顔面偏差値は、物凄く低かった。
 ちなみに、もれなく全員既婚者だ。

 僕のモブ顔仲間であるジャステン様は、抜かりないお方だった。

 そして警戒していたミイルズさんは、何度か僕のところへ突撃してきたらしい。
 でも優秀な護衛の方々に返り討ちにされたそう。
 それで僕に近付くのは無理だと判断したのか、今度はシュヴァリエ様を付け回しているらしい。
 
 ……ミイルズさんは、かなりメンタルが強い人だとわかった。
















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