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リュセ
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しおりを挟む「は、伴侶……」と、まるで今初めて知った言語だと言わんばかりの顔で呟くシュヴァリエ様。
なにか間違ったことでも言ったのかと、僕はきょとんとするしかなかった。
「リュセ……? 伴侶とは、どういう意味かわかっている?」
「……はい?」
なぜかごくりと唾を飲むシュヴァリエ様は、僕が頭の弱い子だと思っていたらしい。
これでも僕は、学園に通っている間はずっと首席をキープしていたんだ。
といっても、貴族の子息たちにとっては、学園は人脈を広げる場でもある。
僕と同じくらい熱心に勉学に励んでいたのは、爵位を継げない次男三男の人たちだけだったのかもしれない。
それでも、文官志望の人たちと切磋琢磨していたし、僕にはシュヴァリエ様にお近づきになりたいという高い目標があった。
おかげで、他を寄せ付けない結果となっていたわけだ。
「もちろん、わかっていますよ? だから昨日、婚約者に立候補したんです」
「…………」
「っ……ま、まさか、もう僕に、飽きた……?」
「っ、飽きるだなんてありえない!!」
捨てられた子犬顔になると、シュヴァリエ様が全力で否定する。
哀れなモブなんかに、必死になって優しい言葉を紡ぐ美形のお兄様。
ここが日本なら、信じられない光景だろう。
「本当にすまない。リュセが、私の伴侶にと考えてくれていたとは思っていなくて……」
「え? でも昨日……僕は、シュヴァリエ様と死ぬまで一緒にいたい、って言ったつもりだったんですけど……」
「~~~~っ」
なぜか今になって僕の発言にクリティカルヒットしたらしいシュヴァリエ様は、口元を押さえて震えていた。
婚約者になったとしても、すぐに婚姻するわけじゃない。
互いを知る期間も必要だと思って、僕は結婚したいとは言わなかった。
でも、婚約者になるということは、結婚を前提としたお付き合いをすること。
いずれは結婚したいって気持ちが伝わっていると思っていたけど、そうではなかったみたいだ。
「遠回しすぎました……? いくら両想いだとわかったからといって、いきなり結婚のワードを出したら、引かれてしまうかと思って……」
「っ…………いや、引くなんてことは一生ない。私が生涯を共にしたいと思う人は、リュセだけだ」
「っ、シュヴァリエ様……っ」
凛々しいお顔で、生涯僕だけを愛すると誓ってくれたシュヴァリエ様。
……愛するとまでは言っていないけど、こういう時だけポジティブ思考になる僕の脳は、そう解釈した。
そんな僕の心臓には、愛の矢が突き刺さっている。
シュヴァリエ様の背景に見える薔薇が咲き乱れ、幸せ絶頂の僕は、うっとりと目惚れていた。
「青春だなぁ~。ほっこりするよなぁ~」
「……ああ。地位目当てでもいいとは思っていたが、これほどまでにシュヴァリエを想ってくれていたとは……」
「地位目当てなわけねぇだろ。愛だよ、愛ッ!」
僕たちの保護者三人がなにやら盛り上がっており、僕はブラウンの瞳を潤ませたシュヴァリエ様のお父様から、一枚の書類を受け取った。
書類の隅から隅までを確認して、すぐさまサインをする僕。
正式に、シュヴァリエ様の婚約者になった。
シュヴァリエ様と微笑み合い、手を繋ぐ。
さっそくダンスの練習をしようとすると、ジャスティン様から待ったがかかる。
「二人のことは既に噂になっていてね。もしかしたら、シュヴァリエの元婚約者がリュセさんに接触してくるかもしれない」
「っ、」
「だが、それも十年以上も前のこと。二人は政略結婚だったこともあって、ほとんど交流していなかった。それでも相手は、金のためにまたシュヴァリエにも接触してくる可能性がある。リュセさんに護衛をつけたいと思っているのだが……」
しっかり話を聞かないと、と思うのに、絶句している僕は、誰の声も届いていなかった。
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