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52、人質
しおりを挟む自分がどこに幽閉されているのか、四乃宮郁美にはわからなかった。
暗い。周囲は闇に包まれている。どこか屋内に連れ込まれたのは間違いないが、頭を強打された影響か、部屋の様子まではハッキリと判別できない。
意識を取り戻した時には、すでに肢体は拘束されていた。古びた頑丈な椅子に座らされ、手足を括り付けられている。手首と足首に食い込むオレンジの髪は、〝妄執”の縛姫のものに違いない。その強度はワイヤーの鋼線ほどはありそうだった。
右の太もも裏が、焼け付くように疼いていた。ガラスの破片で切り刻まれた傷は、かなり深くまで達しているらしい。緊縛されていなくても、この負傷では自力で逃げ出すのは難しいだろう。
意外なことに、衣服は脱がされずに済んでいた。
上は白黒ボーダーの長袖Tシャツ。下は真っ白なミニスカート。血で汚れてはいるものの、衣装自体は今朝自宅マンションを出たときから変わっていない。妖化屍に捕まるようなことがあれば裸に剥かれるものと覚悟していたが、少し予想と違っていた。
だが、素肌を晒していないからといって、必ずしも女子大生は辱めを逃れているわけではなかった。
「・・・んッ・・・ぁあ・・・ッ・・・」
濡れた桜色の唇から、吐息が漏れる。
セミロングの茶髪を垂らし、郁美は美貌を俯かせている。うっすらと開いた瞳は、焦点があっていなかった。吐息にこもる、艶やかな響き。美しき虜囚は、感じているのだ。
横縞のシャツを盛り上がらせる、左右の乳房。
Dカップはあろうかという芸術的な稜線のトップに、なにか白い物体が貼りついていた。よく見ればそれらは、ふたつの乳首の先でモゾモゾと蠢いている。
美乙女の胸を這いずるモノの正体は、蛆虫であった。
シャツの下に隠された突起を気に入って、数匹の蛆虫が左右それぞれの乳房の先端に群がっている。生地越しにでも、乳首のわずかな凹凸を感じているようだった。ブニョブニョの腹を、争うようにして屹立した突起に擦りつけている。這うたびにシャツの下が硬く尖っていくのが、下等な蟲でも面白いようだった。
言うまでもなく、蛆虫の飼い主は地獄妖・骸頭であった。
「こちらのオメガヴィーナスの妹は・・・他愛無いものじゃわい。所詮、ただの小娘じゃのう」
皺だらけで背の低い怪老の手には、スマホが握られていた。絵本に出てくるような魔法使いが、現代を象徴する多機能携帯を操る姿は、ちょっとしたジョークのようだ。
誰と会話しているのか、郁美に気にする余裕はなかった。蛆虫が生み出す微細な刺激は、悪寒以上に甘い痺れを胸の頂点から注いでくるのだ。
「なに、殺しはせん。オメガヴィーナス相手に、唯一最大といっていい大切な人質じゃからのう。始末するのは姉を地獄に落したあとじゃ・・・今は蛆虫をたからせておるだけで、ヒクヒクと震えておるわい」
骸頭の口調に含まれた蔑みに、郁美の秀麗な眉がピクリと反応する。
悔しかった。蛆虫に乳首をたかられ、嫌悪感よりも愉悦を感じてしまっているのは確かだが・・・姉の宿敵、そして両親の仇に嘲笑されるのは我慢ならない。
大きなアーモンド形の瞳に力をこめる。顏を持ち上げた郁美は、キッと鋭く妖老を睨み付けた。
知らず、はあはあと、半開きの口から甘い喘ぎが漏れていた。肉体は胸への愛撫に感じてしまっているが、気持ちだけが不気味な妖魔たちに反抗している。
「なに、その眼は? まだ自分の立場がわかってないようねェ」
見向きもしない骸頭の代わりに、椅子の前に立ったのは、顏が陥没した熟女であった。
鼻を中心に凹んでいなければ、少し小皺が目立つことを除けば、美貌のマダムといってよかったかもしれない。しかし、ソバージュをかけたオレンジの髪と、紫のルージュが悪趣味に過ぎた。なによりも異様に血走った眼が、毒々しさに拍車をかけている。
「・・・〝妄執”・・・の・・・バクキ・・・ッ・・・!」
「あんたに呼び捨てにされる覚えはないわねェッ、相変わらず生意気な小娘だこと!」
四年と半年前、初めて妖化屍と遭遇した時から、四乃宮家の姉妹と縛姫には因縁が深い。
クレーターのような陥没を顔面に刻まれたのも、縛姫はオメガヴィーナスと郁美のせいだと思っている。事実、その認識は誤りでもなかった。
〝妄執”の異名を持つ妖化屍に積み重なった憤怒と憎悪を、郁美は利用しようとする。
「こんなこと、しても・・・ムダよ・・・オメガヴィーナスは負けないわ・・・。今度はその顏・・・凹んだだけじゃ、済まないんだから・・・」
縛姫の陥没顏が、真っ赤に沸騰した。
怒りに駆られた女妖魔は、すぐにも郁美を殺しかねなかった。いや、郁美は殺されようとしたのだ。
自分が死ねば、人質としての価値はなくなる。白銀の光女神である姉を、危機に陥れずに済む。
「四乃宮郁美ィッ・・・!! 許可が下りた瞬間、あんたはこの私がバラバラにしてやるわッ・・・よ~~く覚えておくことねェッ・・・」
燃えるような視線を縛姫に向けられながら、郁美は下唇を噛んでいた。
目論見は失敗に終わった。この事態にあっては、死ぬことだけがオメガヴィーナスに対する最大の貢献だったのに・・・。
人妖・縛姫の右手には、山盛りになった蛆虫が乗せられていた。
「今はこれで勘弁してやるッ! もうしばらくの間だけ、命ある時間を楽しむといいッ!」
縛姫の手が、郁美の股間へと伸びる。
椅子に座らされた美乙女の両脚は、60度ほど開いていた。オフホワイトのミニスカの奥で、薄ピンクのショーツがチラ見えている。むろん、緊縛された脚を閉じることなどできない。
「うッ・・・!! ああッ・・・!」
瞳を見開き、郁美はブルブルと首を振っていた。
数匹が乳首にたかるだけで、こんなにも甘い刺激が押し寄せるというのに、もっと過敏な秘部に大量の蛆虫が群れ集えば・・・
ぐじゅり、と嫌な音色をあげて妖化屍の右手が太ももの間に当てられる。
「んッ!! ・・・ふくぅっ・・・!! んうぅッ!!」
唇を噛み締め、懸命に嬌声を押し殺す郁美。
だがその全身は突っ張っている。天を見上げる瞳が切なげに歪む。グッと握りしめた拳の隙間から、赤い血が滲み出てくる。
ショーツ越しに無数の蛆虫が、モゾモゾと這いまわっていた。大陰唇を細かく摩擦してくる。微細な快感が、いくつも重なって断続的に畳み掛けてくる。
蕩けた悲鳴が漏れそうなのを、ただ意地だけで郁美は抑え込んだ。じっと冷たく見下ろす女妖化屍の前で、痴態を晒すマネだけはしたくなかった。
「ヒョッヒョッヒョッ・・・おい、縛姫よ。ショック死など、間違ってもさせるでないぞ。その娘は大事な」
「わかっているわ。死ななきゃいいんでしょ?」
首を振って耐え続ける郁美を、縛姫は憎悪の視線で見詰めている。
ただ見る。醜い蛆虫にたかられ、快感を覚えてしまっている女子大生を。
自分が身悶えする様子を、漏らしてしまう嬌声を期待しているのだ――縛姫の狙いが郁美にはわかった。直接愛撫を与えられるより、『観察される』という行為はもっとも恥辱的な扱いなのかもしれない。
「こんなッ・・・のッ・・・! こんなッ・・・ことでッ・・・私はァッ!! ・・・」
「フン。じゃあこれでどう?」
虜囚の身でありながら、尚も反抗的な郁美に縛姫の眼が細まる。
再びその右手には、山盛りの蛆虫。今度はボーダーシャツの襟元を開けると、内側に腕を滑り込ませる。
ブラの生地をずらし、柔らかで瑞々しい乳房に直接、大量の蛆虫を塗りつけていく。
「はああ”ッ――ッ!? ああ”ッ、あ”ッ・・・!!」
「素肌にダイレクトで気色悪い蟲に這い回られる気分はどうだい? 反対側のオッパイにもたっぷり群がらせてやるわ」
尖った乳首を、ツンツンと何匹もの蛆虫が突いてくる。密集した蟲が蠢くたびに、吐き気を催す嫌悪感と繊毛で撫でられるような快感が湧きあがった。
刺激の強さは、生地越しの愛撫の比ではなかった。数倍、数十倍にも感じられる。
「うぐうう”ぅ”ッ――ッ!! はあ”ッ、あ”ッ・・・!! ああ”ッ・・・ま、負けないッ・・・!! こ、こんなことでッ・・・!! 負けないわッ・・・ああ”――ッ!!」
叫びながら、ガクガクと美貌が横に振られる。唾液の飛沫が、キラキラと宙に撒かれる。
言葉では否定していても、官能の波動に郁美の牝肉が悦んでしまっているのは間違いなかった。乳房と股間から流し込まれる、繊細な愛撫。桃色の熱が、じゅん、と郁美の子宮を蕩けさせる。脳は蛆虫の気味悪さに寒気を覚えているのに、肢体は疼いて火照っていく。
「あがああ”ッ――ッ!! ・・・あふう”ッ!! ・・・くふぅ”んッ・・・!! いやッ・・・いやあ”ッ・・・!!」
アーモンドの瞳に涙を浮かべ、壊れるほどに首を振る郁美を、しばし縛姫は眺めていた。
感じてはならない。叫んではならない。意地と怒りが郁美を支える全てだった。烈しすぎる快感を、ウブな女子大生は必死に耐えた。我慢しなければ、と思うほどに蛆虫が送り込む愉悦は肥大化して、郁美の女芯をじりじりと炙る。
(た、耐えられッ・・・耐えられないッ・・・!! お、おかしッ・・・おかしくなってぇっ・・・!! ちく、びッ・・・もう触れてはッ・・・いやァッ!! ・・・ふくう”ッ!! ・・・うあ”ッ・・・あ”ッ・・・!! そんな、ところッ・・・イジってはダメェッ~~ッ!! )
「はふう”ッ!! はあ”ッ!! はあ”ッ!! へあぁ”ッ・・・!! ひぐッ!! あ”ッ・・・ま・・・まけないィ”ッ・・・からぁ”ッ~~ッ・・・!!」
「腰をビクビク揺らしてる淫乱が・・・言葉だけは頑張るわねェ・・・」
『淫乱』という単語に、耐え切れず郁美が瞳をつぶる。ぶわ、と溢れた大粒の涙が頬を伝った。
淫乱などではない。並の人間に、耐えられるような刺激ではないのだ。それでも蛆虫の愛撫に反応してしまっている惨めさと相まって、侮蔑の言葉は超のつく美少女を叩きのめした。
郁美は男を知らなかった。
モテない、のではない。あろうはずがない。地域一帯の男子学生が噂にするような美貌。程よい肉付きのグラマー。性格的にも、ちょっと気の強いところはあるが、誰とも分け隔てなく接する態度が好感を集めている。
だが己が「特別な家系」に生まれたことを知った彼女は、自然と男性からのアプローチを断るようになった。両親や姉のように、これ以上妖化屍に人生を左右される者を増やしたくなかったのだ。
それでも自分が、男性から圧倒的支持を得ていることは嫌でも薄々気づいてしまう。すれ違う異性の多くが、あるいは頬を染め、あるいは欲情を剥き出しにして視線を釘づけにしてくるのだから当然だ。
数えきれぬ男たちの劣情の願いを、はねのけてきた郁美。だが今は、そんな美乙女がたかが蛆虫に清廉な肌を穢されている。淫らに悶える痴態を、因縁深き妖女に嘲笑われている。
惨めさと屈辱に、郁美はボロボロと崩れ落ちそうだった。快楽に耐え続けることだけが、美乙女の矜持をわずかに保つ最後の綱――。
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