オメガスレイヤーズ ~カウント5~ 【究極の破妖師、最後の闘い】

草宗

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39、純潔

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「ッッ・・・――やッ・・・た!!」

 細かくなった水滴が、霧雨となってキャバクラの店内に降り注いだ。
 オメガセイレーン必殺の一撃、〝水砕龍みさいりゅう”。水天使の名に相応しい大技の炸裂に、郁美の歓喜の叫びが響く。
 なんとか身体を起こそうとする女子大生を、走り寄った影が抱き締めた。
 
「え!? ・・・司具馬?」

「今のうちに、逃げるぞ。郁美」

 ミニスカから生えた太ももの裏に、突き刺さった酒瓶を司具馬は一気に引き抜いた。
 秀麗な美乙女の眉が、奔る激痛に曇る。もちろんこの場合、ガラス瓶を抜くのは郁美のためだ。
 
「くゥ”ッ!! ・・・どうしたの!? なんでそんな、怖い顏を・・・」

「オレは以前にも、あの〝水砕龍”という技を見たことがある」

 両腕で、司具馬は負傷した女子大生を抱き上げた。いわゆるお姫様だっこの態勢。
 その表情は沈痛と緊迫に彩られていた。
 
「さっきとは、まるで威力の違う技だった。すでに絵里奈さんは・・・終わっているんだ。恐らく今のが、オメガセイレーン最後の一撃だろう」

「そんッ・・・なッ!?」

 郁美の叫びに呼応するように、なにかが崩れる音色が重なる。
 青のスーツとフレアミニ、そしてケープとを纏った水の美神が、カラになったプールの底にうつ伏せに倒れていた。
 腰までに届くストレートヘアーが、しっとりと濡れて輝いていた。
 
「・・・逃げ・・・て・・・」

 美貌をプールの底に押し付けたまま。
 セイレーンは静かに、言葉を発した。もはや顏をあげる力すら、蒼碧の水天使にはなかった。
 
「私のことは・・・いいから・・・郁美ちゃん、は・・・逃げるのよ・・・」

「できませんッ!! そんなことッ・・・絵里奈さんも一緒にッ!!」

「残念だが、六道妖のふたりを相手に、郁美と絵里奈さんの両方を逃がすことはできない。オレにできるのは、どちらか一方を守るので精一杯だ」

「だったらッ!! オメガスレイヤーの絵里奈さんを守るのが当然じゃ・・・」

「オレの役目は郁美を守ることだ。そしてなにより、絵里奈さんはもう・・・」

「そうじゃ。オメガセイレーンは、すでに我らの手に堕ちた」

 不意に湧いた声に、ようやく郁美は気付いた。そぼ降る水飛沫のなか、横たわる水天使の傍らに、ふたつの影が立っていることに。
 骸頭と縛姫。ふたりの六道妖は生きていた。ほとんど無傷で。
 本来の〝水砕龍”ならば、この二体を一気に殲滅することもできただろう。しかしオメガセイレーンは、あまりに〝オーヴ”に力を奪われ過ぎた。
 
「まさか、あの状態から反撃してくるとは驚いたけど・・・所詮、限界だったようねェ」

 縛姫のオレンジ色の髪が、意志をもったように長く伸びていく。横臥するセイレーンに、シュルシュルと絡みつく。
 セイレーンの全身に絡みついた無数の髪は、青色のスーパーヒロインを頭上高く掲げた。
 しなやかな四肢を大の字に広げ、水天使が空中で固定される。
 
「フン・・・どうやら、オメガヴィーナスの妹を助けるために力を使い果たしたようねェ・・・まあ、構わないわ。二兎を得るのが理想だったけど、私たちの第一目標はオメガスレイヤーの殲滅。当初の予定通り、今回はオメガセイレーンの処刑で満足するとしようかねェ・・・」

「キヒヒヒィッ・・・!! 有効な人質をみすみす逃すのは勿体ない気もするが、〝オーヴ”がオメガスレイヤーに通用するとわかった今は、些末な問題じゃて! ここは確実に、セイレーンを始末するとしようぞ!」

 〝百識”の骸頭は、再び魔法使いさながらの杖をその手にしていた。
 尖った先端を、宙に浮いたセイレーンの背中にピタリとつける。
 
「ヌシの最後の抵抗に免じて・・・オメガヴィーナスの妹は見逃してやるわい。貴様の命と引き換えにのう」

「ィッ!! ・・・司具馬ッ! お願い、絵里奈さんを助けてェッ!! このままじゃ、本当にオメガセイレーンがッ・・・!!」

「・・・無理だ。わかっているはずだ。オレの力では、妖化屍二体を相手になにもできない」

 極細の髪の網に緊縛されたオメガセイレーンの姿が、郁美には磔にされた救世主にも見えた。
 死が迫りながら、藤村絵里奈は美しかった。
 表情に怯えはなく、青のスーツに包まれた肢体は、妖艶さを増したかのようだった。大の字に身体に、淫靡さがあった。
 もはや抵抗の力はなく、処刑されるのを待つ身であることは・・・オメガセイレーン自身が理解していた。
 
「・・・いいのよ・・・郁美、ちゃん・・・あなたは・・・逃げて・・・」

 虚ろに視線を彷徨わせながらも、しっかりとした口調で絵里奈は言った。
 
「私の藤村家は・・・『征門二十七家』のなかでも下級・・・私は勉強もできなければ運動も苦手な・・・なんの取り柄もない、ただの女だったわ・・・。けれど、水との相性がよかったおかげで・・・なんとかオメガセイレーンとして、やってこれた。こうして自分の城も・・・持つことができたの」

 ギリギリと、オレンジの髪が青色の天使を締め付ける。
 全身の骨が悲鳴をあげるなか、微笑みながらセイレーンは語り続けた。
 
「まあまあの、人生だったわ・・・。私にすれば、出来過ぎかもね」

 ナンバー1にまで登り詰めたキャバ嬢は、柔らかに笑ってみせた。
 
「あなたと、司具馬ちゃんの役に少しでもなれて・・・よかったわ。後悔のない、最期よ」

「あれほど反オメガ粒子・・・〝オーヴ”を浴びても、こやつはなかなか滅びなかった。〝オーブ”だけでは、オメガスレイヤーを絶命させるには至らぬかもしれぬのう」

 鋭い杖の剣先をセイレーンに突きつけながら、骸頭はボツリと呟く。
 〝百識”の異名を持つ妖魔は、殺菌に対するデータについても調査済みであった。一説によれば、人間の掌に付着した雑菌は、数百万から一千万以上。例えば石鹸で1分間手洗いしてみても、それらの雑菌は半分ほどしか死滅しないという。消毒・殺菌を繰り返すことで、それらの数をゼロに近づけることはできるが、完全な無菌状態というのは、現実には不可能と言われている。
 
 オメガ粒子の正体も菌である以上、同様のことが言えるはずだった。
 つまり、抗生物質である〝オーヴ”で、限りなくゼロに近づけることはできるが・・・完全に死滅は不可能。わずかにでもオメガ粒子が残存していれば、今回一時的にセイレーンが復活したように、時間とともに増殖するのだろう。
 
「オメガスレイヤーを始末するには・・・〝オーヴ”以外の要素も必要ということじゃなあ」

 皺だらけの怪老が、クシャクシャに顏を歪ませた。
 笑っていた。オメガスレイヤー唯一の天敵ともいうべき〝オーヴ”以外に・・・この妖魔は、打倒究極戦士の手段を知っているというのか!?
 
「ッッ・・・!! 骸頭、お前は・・・」

 無意識のうちに、司具馬は眼を見開いていた。
 
 そんな、まさか。
 まさか、そんなことが・・・あるわけがない。当然ではあるが、オメガスレイヤーの秘密は『水辺の者』内でも秘中の秘。司具馬にしても、つい1年ほど前に、実績を認められようやく『五大老』から直接教えられたのだ。
 
 そんなオメガスレイヤーにまつわる重要事項を・・・いくら〝百識”とはいえ、知っているわけがない。
 
「純血・純真・純潔。それが、オメガスレイヤーになる者の条件だそうじゃのう? さしずめ、オメガ粒子との相性をよくするのに、必須な要素というところか」

 衝撃に、司具馬の全身が硬直した。
 
「逆にいえば、それらの条件を崩してやれば・・・鋼鉄の戦士も脆くなるのではないか? ん?」

 人妖・縛姫が紫のドレスの袖口を振る。緑色の大蛇が、波を打って長く伸びた。
 大の字で緊縛されたセイレーンの右胸。青のスーツを丸く盛り上がらせた膨らみに、ガブリと噛みつく。二又に裂けた舌先で、チロチロと頂点の突起を舐める。屹立していく乳首に、細かな震動を与えていく。
 
「ひィう”ッ!? んう”ッ・・・!!」

「純潔というからには・・・やはり処女なのかしらねェ~ッ!? とてもそうは見えないけど」

 縛姫の嘲りにあわせるように、大蛇はゴキュゴキュと、右の美乳を吸引する。
 
「んふう”ゥッ――ッ!! ふああ”ッ・・・あああ”ッ~~ッ!!」

「ふふふッ!! 美味しいわよ、セイレーン! 量は少ないけど、搾りカスのように積もった濃厚な生命の味を感じるわァ! お前たちがやけに性的な攻撃に弱く見えるのは・・・純潔というキーワードに、やはり関係しているのかしらァッ~~ッ!?」

 ゴキュウウウッ・・・ゴキュウウッ・・・ゴキュウウッ・・・!!
 
 大蛇が嚥下するたび、宙空に捉えられた肢体が、ビクビクと痙攣した。
 生命力を吸われる苦痛のみでなく、バキュームによる快感も、セイレーンの身を焦がしていた。究極と讃えられた戦士が、首を振って悶絶している。叫ぶ口から、涎の飛沫が飛び散った。
 
「あふうう”ゥッ~~、ふああ”ッ・・・!! くあァ”ッ、す、吸わないッ・・・でェ”・・・!!」

「そして純血というからには、大量の血を失うことは死に繋がるのではないかな?」

 ドシュウウウウッッ!!!
 
 骸頭の杖が、背中から胸の中央まで。磔状態のオメガセイレーンを、一気に貫いていた。
 焦げ跡で描かれた『Ω』のマーク。その中心に、木製の杖が飛び出している。
 
「があああ”あ”ッ――ッ!? ア”ッ・・・!!」

 一瞬の間を置き、胸と背中から、同時に鮮血が噴き出した。
 
「ィッッ!! 絵里奈ッ・・・さッ・・・!!」

 ブチッ!! ブチブチイィッ!! ビリビリィィッ――ッ!!
 
 セイレーンを串刺しにしたまま、杖の剣が肉を切り裂いていく。『Ω』の模様に沿って、水天使の胸中央を引き裂く。
 ブシュブシュと、凄まじい量の鮮血がセイレーンの前後で華を咲かせた。蒼碧の水天使が深紅に濡れていく。
 
「ぎゃああア”ア”ア”ッ――ッ!! うがああア”ア”ア”ッ~~~ッ!!! ウア”あああ”あ”ァ”ッ――ッ!!」

「いやああアアッ――ッ!!! もうやめてぇェッ~~ッ!!!」

 司具馬は己が、何を見ているのかさえわからなかった。胸に抱いた郁美の絶叫さえ、遠くに聞こえた。
 眼前の凄惨な処刑ショーだけが、打ちのめすのではない。骸頭が放った台詞が、脳裏から離れない。
 純血・純真・純潔。
 そう、その3つの言葉こそ、オメガスレイヤーになる者の重要なキーワード。3つの要素が揃わなければ、オメガ粒子は宿る者を選ばないという。
 
 問題は、なぜ妖化屍の骸頭が、その秘密を知っているのか?
 
 知識でどうとか、なるものではない。〝オーヴ”のように、研究の成果として発見した、ということも有り得ない。3つの言葉の並びが、司具馬が『五大老』から教えてもらったものとまるで同じになるのは、不自然すぎる。
 考えられる答えは、ひとつしかなかった。
 
 誰かに、教えてもらったのだ。『水辺の者』の、誰かに。
 それも、下級兵士などではない。この秘密を知るような、地位のある者から・・・骸頭はオメガスレイヤーの秘密を手に入れたのだ。
 
 裏切り者がいる。『水辺の者』のなかに。
 
 しかし、「純血・純真・純潔」のワードを知る者は、『水辺の者』のなかでも限られたエリートのみだ。
 聖家のように家柄も高く、実績を数多く残したような・・・それほどの俊英など、数えるほどしかいないはずだった。
 
「あッ!!」

 閃光が、司具馬の脳裏を貫いた。
 青年の大脳にある海馬は、今朝の記憶を呼び起こしていた。四乃宮家の一室で、挨拶を交わした美しき女性。
 父親が現『五大老』を務める家柄。そして、最強の破妖師オメガヴィーナスの護衛を任されるほどの実績の持ち主・・・
 
 浅間翠蓮。
 
「マズイッ・・・!! ならば・・・天音が危ないッ!!」
 
「フフフッ!! これでお前の純潔を散らせばッ・・・もはや生きる力は残っていないだろうねェッ、オメガセイレーンッ!!」

 もう片方の腕から、緑の大蛇が〝妄執”の縛姫より放たれた。
 開かれたセイレーンの股間に、ズボリと埋まる。
 大蛇は陰唇を割り裂き、膣道の奥へと進んだ。固い鱗が、ピンクの肉襞を摩擦する。
 
「んひいイイ”ィ”ッ・・・!! くはああ”あ”ッ~~ッ、アア”ッ――んん”ッ!!」

「さようならッ!! オメガセイレーンッ!!」

 ガジュウウウッッ――ッ!!
 
 水天使の肉壺を埋めた大蛇が、奥にある子宮にかぶりついた。
 噛み砕く。牙を立て、グジュグジュと咀嚼する。
 
「はぎゅウ”ウ”う”ッ―――ッ!!! ぎゅああア”ッ、ウギャアアア”ア”ア”ッ~~ッ!!!」

 セイレーンが絶叫するたび、抉り描かれた血染めの『Ω』マークから、赤い飛沫が噴き出した。
 子宮に噛みついたまま、緑の大蛇が挿入を繰り返す。右の乳房から、ゴキュゴキュとエネルギーを吸引していく。
 大の字で拘束された蒼碧の水天使は、絶叫を轟かせることしかできなかった。犯され、奪われ、切り刻まれて・・・成す術なく妖艶な美姫は蹂躙されていく。
 
「あふうう”ッ、くふッ!! ・・・んんあああ”ア”ッ、アア”ッ・・・アアア”ア”ァ”ッ―――ッ!!!」

 グボグボと、抜き差しされる大蛇が、淫靡な濁音を放つ。
 オレンジの網に捕獲された水天使は、本物の昇天を迎えようとしていた――。
 
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