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16、劣勢
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「おねえちゃんッ・・・ッ!! しっかりッ、しっかりしてェッ~~ッ!!」
女子高生の絶叫が、雨上がりの夜空にこだまする。
本来、四乃宮郁美の声は、耳の中でミルクのように甘く転がるものだった。聞く者の心を、蕩けさせるような。それが今は、悲しみと逼迫感に満ちている。
駆け寄った郁美の下に、スーパーヒロインになったはずの姉が転がっていた。
大の字になって動かぬ、白銀の光女神。
ビリビリに切り裂かれたスーツを纏い、オメガヴィーナスは焦点の合わぬ視線を虚空に向けていた。眼の前にある妹の顏も、映ってはいないようだ。
「・・・ぅ”・・・ァ”ッ・・・・・・くふッ・・・!!」
「フンッ・・・普通の破妖師ならば細切れになっていようが・・・さすがに硬いな、オメガスレイヤー。だが、肉は斬れずとも、あの数の打撃を喰らっては呼吸もラクにできまい」
巨馬の鞍上から、〝無双”の虎狼は吐き捨てた。
「究極の戦士がどれほどのものかと思えば・・・落胆させてくれるわ。オメガヴィーナスッ、未熟すぎるぞ、貴様ッ!! 1000体目とするには格好の獲物と思ったが・・・考え直さねばならんようだ」
右手にした戟の先を、横臥する女神に突きつける。
仰向けで呻くだけの、オメガヴィーナス。郁美が身を挺し、庇うように覆いかぶさる。
妹がいくら強く抱き締めても、金髪の美女神の視線は定まらなかった。全身を強打された激痛と脳震盪により、意識が混濁しているのだ。
「貴様は999体目で十分。今すぐに、殺してやろう」
「天音ちゃんッ!? ・・・くッ、なんてことなの!」
助力を躊躇ったことに、オメガセイレーンは激しく後悔していた。
破妖師の頂点に立つはずの白銀の光女神は、青のケープを広げて倒れ、その身体を守るように女子高生が抱きついている。奥の山道には、胴から切り落とされた中年夫妻の亡骸が転がっていた。
もっと早く助けにいっていれば、天音も郁美も、窮地に陥ることはなかった。彼女たちの両親も、きっと死なせずに済んだだろう。
オメガヴィーナスの力ならなんとかなると、どこかで過信した。危険度Sランクの虎狼の実力を、どこかで侮った。
なによりも、眼の前にいる妖化屍・骸頭を、この場から逃がすことに逡巡してしまった。
「これ以上犠牲を出すわけには・・・なによりも光属性のオメガ戦士を失うわけにはいかないわ!」
蒼碧の水天使に与えられた使命を思えば、すでに彼女は任務に失敗している。天音の父母を、守れなかったからだ。
だが、常に余裕を見せていたセイレーンが必死の声をあげるほど、事態はもっと深刻化していた。究極の破妖師であるオメガスレイヤー、それも最強の光女神が妖化屍に殺されたとなれば、妖魔とのパワーバランスが一気に崩れてしまうのだ。
骸頭のことなど、もはや構っている暇はなかった。オメガヴィーナス、そして妹の郁美を、修羅妖・虎狼の手から救い出さねば・・・
ドシュッ・・・!!
「・・・なんのつもりかしら?」
小さな棘が刺さったような痛みに、青のオメガスレイヤーは己の胸に視線を落とした。
歪曲した、黒いナイフのようなものが金色の紋章に刺さっている。
誰の手によるかは、下卑た笑いを浮かべる皺だらけの怪老を見れば、すぐにわかった。
「ヒッ、ヒヒヒッ・・・黒山羊の角を使った黒魔術じゃ。儂にもまだ、この程度はできるぞえ」
「こんなもの、オメガスレイヤーに効くと思ってるのォ? 邪魔をするなら、もう容赦はしないわよ?」
「胸の紋章が弱点ではないかと、前々から予想はしていたのじゃ。此度の接触で、確信が持てたのは収穫じゃったわ!」
上空の黒雲で、突如雷鳴が轟いた。
稲妻が、走る。天から降った雷撃は、導かれるように黒山羊の角へと落ちた。
蒼碧の水天使の胸、「Ω」のマークに電撃が流し込まれる。
ズババババッ!! バリィッ!! バチバチッ!!
「ふあう”ッ!? くああ”ッ・・・あああ”あ”ッ――ッ!!!」
オメガセイレーンの乳房を、蹂躙する高圧電流。
黄金の紋章から黒い煙が昇る。それまでの余裕がウソのように、全身を突っ張らせて青色の美天使は悶絶した。
「キーッヒッヒッヒィッ!! 天気が味方したのは、ヌシだけではなかったようじゃのう! 天からの雷撃を休むことなく浴びれば、さすがのオメガスレイヤーも堪えるじゃろう!?」
次々に稲妻が黒山羊の角へと落ちていく。黒魔術の力によって、落雷を呼び寄せているのだ。
仰け反った姿勢のまま、セイレーンは痙攣を続けた。逃げることも、倒れることもままならない。間断なく浴びせられる電撃で、スレンダーなモデル体型が麻痺している。
(し、しまッ・・・「Ω」マークへの攻撃、がッ・・・こんなに効く、なんてッ!? ・・・)
バババババッッ!! バリバリバリッ!!
「ア”ッ・・・!! ん”ゥッ・・・!! アハア”ッ・・・!!」
10億ボルトにも達するといわれる電圧が、幾度も青い美天使を襲う。セイレーンの脳内で、火花がスパークする。
死なないのが不思議なほどだった。胸を貫く稲妻に、蒼碧の水天使の瞳が裏返り、ブクブクと口泡が溢れる。
救出に向かうはずのオメガセイレーンは、完全にその動きを止めてしまった。
「虎狼どの。今がオメガヴィーナスを始末する絶好のチャンスよォ。邪魔者はあの通り、骸頭が止めてくれたわァ!」
紫のドレスを着た妖化屍が、カラカラと笑う。〝妄執”の縛姫。そう、オメガヴィーナス=四乃宮天音の命を狙っているのは、極限の武を誇る虎狼だけではないのだ。
傷ついた姉を守る、非力な妹・・・折り重なる姉妹に近づくや、郁美の後頭部をガシリと踏みつける。
「ぐうゥッ!」
「ほら、どきな! あんたの始末は後回しよォ。それとも、親と一緒で先に真っ二つになりたいのかい!?」
白銀の女神にしがみつき、懸命に守ろうとする女子高生の腹部を、縛姫は蹴り上げた。
肉を打つ、鈍い音が響く。郁美の鳩尾に、女妖魔の爪先がグボリと埋まった。
「うぐううう”う”ゥ”ッ――ッ!!! かふッ!! え”ぼオ”オ”ッ~~ッ!!」
ただでさえ、鳩尾を蹴り上げられる苦痛は息ができぬほどなのに、妖魔の怪力で抉られたのだ。
輝くような美少女は悶絶した。お腹を押さえ、涎を撒き散らしてのたうち回る。
激痛に四肢がしびれ、窒息で顏が蒼白になる。それでも郁美は、大の字のオメガヴィーナスを庇い続けた。
「このッ・・・!! 姉と同じでお前も生意気な小娘ねェッ!!」
ドボオオオッ!!
さらに強く、縛姫はブレザー姿の少女の腹部を蹴り上げる。
吐瀉物を撒いて、郁美の小さな身体が高く舞った。力づくで、姉の肢体から引き剥がされる。
「え”ふううう”う”ゥ”ッ――ッ!!! ぐぷッ・・・!! ァ”ッ・・・おねえッ・・・ちゃ・・・」
「ホホホッ!! 単なる人間のくせに、オメガスレイヤーの姉を心配するなんてとんだおマヌケねェッ!! 決めたわァ! カスの分際でしゃしゃり出てくる、お前から息の根を止めてやるッ! 家族を全員眼の前で殺されて、オメガヴィーナスはどんな顏するかしらねェ~!?」
内臓損傷の苦痛に、全身を引き攣らせる郁美。クリーム色のブレザーに包まれた肢体を、縛姫から伸びたオレンジの髪が捕獲する。
四肢と胴体、そして首とに巻き付いた緊縛の髪は、空中に美少女を吊り上げた。
女子高生の絶叫が、雨上がりの夜空にこだまする。
本来、四乃宮郁美の声は、耳の中でミルクのように甘く転がるものだった。聞く者の心を、蕩けさせるような。それが今は、悲しみと逼迫感に満ちている。
駆け寄った郁美の下に、スーパーヒロインになったはずの姉が転がっていた。
大の字になって動かぬ、白銀の光女神。
ビリビリに切り裂かれたスーツを纏い、オメガヴィーナスは焦点の合わぬ視線を虚空に向けていた。眼の前にある妹の顏も、映ってはいないようだ。
「・・・ぅ”・・・ァ”ッ・・・・・・くふッ・・・!!」
「フンッ・・・普通の破妖師ならば細切れになっていようが・・・さすがに硬いな、オメガスレイヤー。だが、肉は斬れずとも、あの数の打撃を喰らっては呼吸もラクにできまい」
巨馬の鞍上から、〝無双”の虎狼は吐き捨てた。
「究極の戦士がどれほどのものかと思えば・・・落胆させてくれるわ。オメガヴィーナスッ、未熟すぎるぞ、貴様ッ!! 1000体目とするには格好の獲物と思ったが・・・考え直さねばならんようだ」
右手にした戟の先を、横臥する女神に突きつける。
仰向けで呻くだけの、オメガヴィーナス。郁美が身を挺し、庇うように覆いかぶさる。
妹がいくら強く抱き締めても、金髪の美女神の視線は定まらなかった。全身を強打された激痛と脳震盪により、意識が混濁しているのだ。
「貴様は999体目で十分。今すぐに、殺してやろう」
「天音ちゃんッ!? ・・・くッ、なんてことなの!」
助力を躊躇ったことに、オメガセイレーンは激しく後悔していた。
破妖師の頂点に立つはずの白銀の光女神は、青のケープを広げて倒れ、その身体を守るように女子高生が抱きついている。奥の山道には、胴から切り落とされた中年夫妻の亡骸が転がっていた。
もっと早く助けにいっていれば、天音も郁美も、窮地に陥ることはなかった。彼女たちの両親も、きっと死なせずに済んだだろう。
オメガヴィーナスの力ならなんとかなると、どこかで過信した。危険度Sランクの虎狼の実力を、どこかで侮った。
なによりも、眼の前にいる妖化屍・骸頭を、この場から逃がすことに逡巡してしまった。
「これ以上犠牲を出すわけには・・・なによりも光属性のオメガ戦士を失うわけにはいかないわ!」
蒼碧の水天使に与えられた使命を思えば、すでに彼女は任務に失敗している。天音の父母を、守れなかったからだ。
だが、常に余裕を見せていたセイレーンが必死の声をあげるほど、事態はもっと深刻化していた。究極の破妖師であるオメガスレイヤー、それも最強の光女神が妖化屍に殺されたとなれば、妖魔とのパワーバランスが一気に崩れてしまうのだ。
骸頭のことなど、もはや構っている暇はなかった。オメガヴィーナス、そして妹の郁美を、修羅妖・虎狼の手から救い出さねば・・・
ドシュッ・・・!!
「・・・なんのつもりかしら?」
小さな棘が刺さったような痛みに、青のオメガスレイヤーは己の胸に視線を落とした。
歪曲した、黒いナイフのようなものが金色の紋章に刺さっている。
誰の手によるかは、下卑た笑いを浮かべる皺だらけの怪老を見れば、すぐにわかった。
「ヒッ、ヒヒヒッ・・・黒山羊の角を使った黒魔術じゃ。儂にもまだ、この程度はできるぞえ」
「こんなもの、オメガスレイヤーに効くと思ってるのォ? 邪魔をするなら、もう容赦はしないわよ?」
「胸の紋章が弱点ではないかと、前々から予想はしていたのじゃ。此度の接触で、確信が持てたのは収穫じゃったわ!」
上空の黒雲で、突如雷鳴が轟いた。
稲妻が、走る。天から降った雷撃は、導かれるように黒山羊の角へと落ちた。
蒼碧の水天使の胸、「Ω」のマークに電撃が流し込まれる。
ズババババッ!! バリィッ!! バチバチッ!!
「ふあう”ッ!? くああ”ッ・・・あああ”あ”ッ――ッ!!!」
オメガセイレーンの乳房を、蹂躙する高圧電流。
黄金の紋章から黒い煙が昇る。それまでの余裕がウソのように、全身を突っ張らせて青色の美天使は悶絶した。
「キーッヒッヒッヒィッ!! 天気が味方したのは、ヌシだけではなかったようじゃのう! 天からの雷撃を休むことなく浴びれば、さすがのオメガスレイヤーも堪えるじゃろう!?」
次々に稲妻が黒山羊の角へと落ちていく。黒魔術の力によって、落雷を呼び寄せているのだ。
仰け反った姿勢のまま、セイレーンは痙攣を続けた。逃げることも、倒れることもままならない。間断なく浴びせられる電撃で、スレンダーなモデル体型が麻痺している。
(し、しまッ・・・「Ω」マークへの攻撃、がッ・・・こんなに効く、なんてッ!? ・・・)
バババババッッ!! バリバリバリッ!!
「ア”ッ・・・!! ん”ゥッ・・・!! アハア”ッ・・・!!」
10億ボルトにも達するといわれる電圧が、幾度も青い美天使を襲う。セイレーンの脳内で、火花がスパークする。
死なないのが不思議なほどだった。胸を貫く稲妻に、蒼碧の水天使の瞳が裏返り、ブクブクと口泡が溢れる。
救出に向かうはずのオメガセイレーンは、完全にその動きを止めてしまった。
「虎狼どの。今がオメガヴィーナスを始末する絶好のチャンスよォ。邪魔者はあの通り、骸頭が止めてくれたわァ!」
紫のドレスを着た妖化屍が、カラカラと笑う。〝妄執”の縛姫。そう、オメガヴィーナス=四乃宮天音の命を狙っているのは、極限の武を誇る虎狼だけではないのだ。
傷ついた姉を守る、非力な妹・・・折り重なる姉妹に近づくや、郁美の後頭部をガシリと踏みつける。
「ぐうゥッ!」
「ほら、どきな! あんたの始末は後回しよォ。それとも、親と一緒で先に真っ二つになりたいのかい!?」
白銀の女神にしがみつき、懸命に守ろうとする女子高生の腹部を、縛姫は蹴り上げた。
肉を打つ、鈍い音が響く。郁美の鳩尾に、女妖魔の爪先がグボリと埋まった。
「うぐううう”う”ゥ”ッ――ッ!!! かふッ!! え”ぼオ”オ”ッ~~ッ!!」
ただでさえ、鳩尾を蹴り上げられる苦痛は息ができぬほどなのに、妖魔の怪力で抉られたのだ。
輝くような美少女は悶絶した。お腹を押さえ、涎を撒き散らしてのたうち回る。
激痛に四肢がしびれ、窒息で顏が蒼白になる。それでも郁美は、大の字のオメガヴィーナスを庇い続けた。
「このッ・・・!! 姉と同じでお前も生意気な小娘ねェッ!!」
ドボオオオッ!!
さらに強く、縛姫はブレザー姿の少女の腹部を蹴り上げる。
吐瀉物を撒いて、郁美の小さな身体が高く舞った。力づくで、姉の肢体から引き剥がされる。
「え”ふううう”う”ゥ”ッ――ッ!!! ぐぷッ・・・!! ァ”ッ・・・おねえッ・・・ちゃ・・・」
「ホホホッ!! 単なる人間のくせに、オメガスレイヤーの姉を心配するなんてとんだおマヌケねェッ!! 決めたわァ! カスの分際でしゃしゃり出てくる、お前から息の根を止めてやるッ! 家族を全員眼の前で殺されて、オメガヴィーナスはどんな顏するかしらねェ~!?」
内臓損傷の苦痛に、全身を引き攣らせる郁美。クリーム色のブレザーに包まれた肢体を、縛姫から伸びたオレンジの髪が捕獲する。
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