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17、家族
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「うああ”ッ!! ・・・アア”ッ・・・!!」
「ホーッホッホッホッ!! 頼りない姉を嘆くことねェッ!! オメガヴィーナスには、バラバラになった妹と対面させてあげるわァッ~~ッ!!」
絡みついたオレンジの髪が、郁美の四肢を捻じる。
手足だけではなかった。胴体、そして首までをも、ギリギリと逆方向に回していく。
肩、肘、股関節、そして頸椎とがメキメキと悲鳴をあげた。ブレザーと白シャツ越しに、美少女の脇腹に螺旋が描かれていく。
ビニル人形のオモチャを破壊するように、縛姫は女子高生で遊び始めた。
ギギギ・・・メチメチッ・・・グググッ・・・
「ああ”ア”ッ!! んぁあああ”あ”ア”ア”ッ~~ッ!! きゃああああ”ッ――ッ!!!」
「ホホホホホッ!! どこから引き千切って欲しいッ!? 腕? それとも脚? 父親たちのように胴を捻じ切るのもいいし、首を引き抜くのも楽しいわねェ~! 愛くるしい顏が苦悶に歪むのって好きよォ~!」
「ア”ッ・・・ああ”ァッ・・・!! ま、負けないッ!! 負けるもの・・・かァッ~~ッ!!」
「フフッ、どこまでもマヌケねェ~。人間のあんたには何もできないってのがわからない? お前ごときはアリを踏みつぶすように殺せるのよォッ~~ッ、いつでもねェッ!!」
「負けないのはッ・・・!! あたしじゃないッ!! おねえちゃんよッ!!」
ブチッ・・・ビビッ・・・メキメキメキッ・・・!!
「ア”ッ!! ア”ッ!! アア”ア”ッ―――ッ!!!!」
「はァ? 誰がって? いつまでもわからない、バカな小娘ねェッ! 面倒だわァ、全部一気に引き抜いてあげるゥッ~~ッ!! そら、あと3cm・・・2cm・・・1cm・・・」
四乃宮郁美の全身がバラバラになる。そう見えた瞬間。
眩い光が爆発した。
オメガヴィーナスの身体が大地から飛び起きる。地を蹴る姿が、銀と青の閃光と化した。
「ッッ!!」
全ては一瞬のうちだった。
飛び込んでくる光を、縛姫に避けられるはずもなかった。
白銀の光女神渾身の右ストレートが、女妖化屍の顔面に吸い込まれていた。
「ぷぎょオォォッッ!!」
ブチブチッ!! ブチブチブチブチィッ!!
鮮血を散らして吹っ飛ぶ縛姫。風となる。常人には見ることも不可能なスピードで飛んでいく。
郁美に絡まったオレンジの髪が、一斉に千切れる。空中から落下する女子高生は、オメガヴィーナスの腕に受け止められた。
旋風のように飛んでいった縛姫の姿は、彼方に消えて見えなくなっていた。
「うああッ・・・うわあああッ――ッ!!!」
妹をその腕に抱いたまま、オメガヴィーナスは絶叫した。
勝利の雄叫び、ではない。
激痛による苦悶、でもない。
復活の狼煙、でもなかった。
四乃宮天音が叫ぶのは、父と母を失った痛恨。
妹の郁美すらを傷つけてしまった、己の無力への怒り。
「父さんッ・・・!! 母さんッ・・・!! 私ッ、私がッ・・・!! なぜ、こんなッ・・・!!」
「ほう。まだ動けたのか。最強のオメガスレイヤーたる者、そうなくてはな」
〝無双”を冠する弁髪の武者には、白銀の女神の激情に、興味はないようだった。
「だが、たかだか父母を殺された程度でそれほど感情を乱していては、とても真の強さを・・・」
「黙りなさいッ!!」
背後の虎狼を振り返り、オメガヴィーナスは屹と睨んだ。
心優しき姉の、こんな表情を、郁美が見るのは2年ぶりのことだった。
「こんな言葉は・・・オメガスレイヤーとしては、言ってはいけないかもしれない。力を与えられた者として、相応しくないかもしれないッ・・・でも、言うわ。家族を亡くす喪失感は、重いのッ!! 身体の一部がなくなったように、大きいのよッ!!」
胡桃のような瞳が潤む。
みるみると、雫が溢れていく。
「特別なのッ・・・私にとって、父さんも、母さんもッ・・・この郁美も、特別なのッ!! だからあなたたちを、許すことはできないッ!!」
「・・・上等」
「私はッ・・・オメガヴィーナスはッ・・・!! 守らなきゃ、いけないのッ!! 倒れている場合じゃ、ないのよッ!!」
「こふッ!! かはあっ・・・!! ・・・おねえ・・・ちゃん・・・・・・?・・・」
「・・・ごめんなさい、郁美ッ・・・!! あなたまで・・・こんな酷い目にッ・・・!!」
オメガヴィーナスの瞳から、次々と涙がこぼれ落ちた。
先程まで虚空を彷徨っていた瞳。しかし今は、雫とともに強い光が戻っている。抱かれているだけでも、郁美は姉からたぎるような熱量を感じ取った。
敗北に追い込まれたと思われた光の女神は、今再び、闘いへと舞い戻ってきたのだ。哀しみを、胸に抱き。
だが、沸騰する気力とは裏腹に、天音が負ったダメージは深刻だった。いくら美貌が凛々しく輝こうとも、切り裂かれたスーツが雄弁に語っている。
「恥ずかしいことに・・・あなたの悲鳴が、私に正気を取り戻させたの・・・あなたの痛みを犠牲にしなければ、きっと私はいつまでもあそこに沈んでいたッ・・・!!」
「恥ずかしくなんてないよ! ありがとう、おねえちゃん。こんな、ボロボロになるまで・・・私たちのために闘って・・・」
「父も、母も、私は守れなかった。でも・・・あなただけは、命に代えても守ってみせるッ・・・!!」
ゆっくりと、白銀の光女神は後ろを振り返った。
巨馬に跨った虎狼が、戟を構えて待っている。
その表情は、最強のオメガスレイヤーとの再戦を、愉しんでいるようにも見える。
「ッッ・・・ダメだよ! あいつは・・・強すぎる! 一旦ここは逃げてッ・・・」
「確かに、闘いの素人である私には、荷の重い相手だわ・・・けれど、勝てない敵じゃないッ!! 少なくとも郁美、あなたを無事に守り切ることはできる」
雨上がりの強風に、青いケープがバサバサと鳴った。
両腕を腰に添えるオメガヴィーナス。自信の表れともとれるこのポーズが、追い詰められたこの状況下で尚、白銀の女神にはよく似合う。
「あの敵の・・・虎狼の武力は、私の上をいくわ。でもそれは、格闘術や武具の扱いについてのこと。最大の光線技である〝クロス・ファイヤー”を放てば、恐らく倒せるはずよッ・・・」
〝クロス・ファイヤー”。
郁美は思い出す。骸頭が生んだ〝悪魔の掌”を、一撃で消滅させた光の奔流を。
膨大な光で浄化するあの技なら、確かに極限の武を誇る虎狼といえど、防ぎきれまい。しかし・・・
「よかろう、オメガヴィーナス。貴様のこと、見直したぞ。オレの戟をあれほど喰らって立ち上がる精神力、耐久力。冷静に自他の戦力を比較する分析力。そしてなにより、勝ちたいというその気持ち。気に入った。だがッ!」
くしくも虎狼は、郁美の懸念と同じ言葉を言い放った。
「その身体で、最大の光線技を放てるのかなッ!?」
ムリだ。
オメガヴィーナスは、すでに一回、爆発的な光線を発射している。その後、スピードやパワーに明らかな翳りが見えたことから、〝クロス・ファイヤー”の消耗度は窺い知れた。
今の身体で、あれだけの光線を発射するのは自殺行為だ。虎狼を倒すことができても、四乃宮天音も無事では済まない。
いや、むしろ・・・
「できるわ。私は必ず、あなたを倒すッ!!」
オメガヴィーナス、四乃宮天音は、この闘いで死ぬつもりなのだ。
「ダメ・・・ダメッ・・・やめてぇッ――ッ!!」
少女の叫びが虚しく響く。
弁髪の妖化屍を乗せた鹿毛の巨馬が、白銀の光女神に向かって駆け出した。
「ホーッホッホッホッ!! 頼りない姉を嘆くことねェッ!! オメガヴィーナスには、バラバラになった妹と対面させてあげるわァッ~~ッ!!」
絡みついたオレンジの髪が、郁美の四肢を捻じる。
手足だけではなかった。胴体、そして首までをも、ギリギリと逆方向に回していく。
肩、肘、股関節、そして頸椎とがメキメキと悲鳴をあげた。ブレザーと白シャツ越しに、美少女の脇腹に螺旋が描かれていく。
ビニル人形のオモチャを破壊するように、縛姫は女子高生で遊び始めた。
ギギギ・・・メチメチッ・・・グググッ・・・
「ああ”ア”ッ!! んぁあああ”あ”ア”ア”ッ~~ッ!! きゃああああ”ッ――ッ!!!」
「ホホホホホッ!! どこから引き千切って欲しいッ!? 腕? それとも脚? 父親たちのように胴を捻じ切るのもいいし、首を引き抜くのも楽しいわねェ~! 愛くるしい顏が苦悶に歪むのって好きよォ~!」
「ア”ッ・・・ああ”ァッ・・・!! ま、負けないッ!! 負けるもの・・・かァッ~~ッ!!」
「フフッ、どこまでもマヌケねェ~。人間のあんたには何もできないってのがわからない? お前ごときはアリを踏みつぶすように殺せるのよォッ~~ッ、いつでもねェッ!!」
「負けないのはッ・・・!! あたしじゃないッ!! おねえちゃんよッ!!」
ブチッ・・・ビビッ・・・メキメキメキッ・・・!!
「ア”ッ!! ア”ッ!! アア”ア”ッ―――ッ!!!!」
「はァ? 誰がって? いつまでもわからない、バカな小娘ねェッ! 面倒だわァ、全部一気に引き抜いてあげるゥッ~~ッ!! そら、あと3cm・・・2cm・・・1cm・・・」
四乃宮郁美の全身がバラバラになる。そう見えた瞬間。
眩い光が爆発した。
オメガヴィーナスの身体が大地から飛び起きる。地を蹴る姿が、銀と青の閃光と化した。
「ッッ!!」
全ては一瞬のうちだった。
飛び込んでくる光を、縛姫に避けられるはずもなかった。
白銀の光女神渾身の右ストレートが、女妖化屍の顔面に吸い込まれていた。
「ぷぎょオォォッッ!!」
ブチブチッ!! ブチブチブチブチィッ!!
鮮血を散らして吹っ飛ぶ縛姫。風となる。常人には見ることも不可能なスピードで飛んでいく。
郁美に絡まったオレンジの髪が、一斉に千切れる。空中から落下する女子高生は、オメガヴィーナスの腕に受け止められた。
旋風のように飛んでいった縛姫の姿は、彼方に消えて見えなくなっていた。
「うああッ・・・うわあああッ――ッ!!!」
妹をその腕に抱いたまま、オメガヴィーナスは絶叫した。
勝利の雄叫び、ではない。
激痛による苦悶、でもない。
復活の狼煙、でもなかった。
四乃宮天音が叫ぶのは、父と母を失った痛恨。
妹の郁美すらを傷つけてしまった、己の無力への怒り。
「父さんッ・・・!! 母さんッ・・・!! 私ッ、私がッ・・・!! なぜ、こんなッ・・・!!」
「ほう。まだ動けたのか。最強のオメガスレイヤーたる者、そうなくてはな」
〝無双”を冠する弁髪の武者には、白銀の女神の激情に、興味はないようだった。
「だが、たかだか父母を殺された程度でそれほど感情を乱していては、とても真の強さを・・・」
「黙りなさいッ!!」
背後の虎狼を振り返り、オメガヴィーナスは屹と睨んだ。
心優しき姉の、こんな表情を、郁美が見るのは2年ぶりのことだった。
「こんな言葉は・・・オメガスレイヤーとしては、言ってはいけないかもしれない。力を与えられた者として、相応しくないかもしれないッ・・・でも、言うわ。家族を亡くす喪失感は、重いのッ!! 身体の一部がなくなったように、大きいのよッ!!」
胡桃のような瞳が潤む。
みるみると、雫が溢れていく。
「特別なのッ・・・私にとって、父さんも、母さんもッ・・・この郁美も、特別なのッ!! だからあなたたちを、許すことはできないッ!!」
「・・・上等」
「私はッ・・・オメガヴィーナスはッ・・・!! 守らなきゃ、いけないのッ!! 倒れている場合じゃ、ないのよッ!!」
「こふッ!! かはあっ・・・!! ・・・おねえ・・・ちゃん・・・・・・?・・・」
「・・・ごめんなさい、郁美ッ・・・!! あなたまで・・・こんな酷い目にッ・・・!!」
オメガヴィーナスの瞳から、次々と涙がこぼれ落ちた。
先程まで虚空を彷徨っていた瞳。しかし今は、雫とともに強い光が戻っている。抱かれているだけでも、郁美は姉からたぎるような熱量を感じ取った。
敗北に追い込まれたと思われた光の女神は、今再び、闘いへと舞い戻ってきたのだ。哀しみを、胸に抱き。
だが、沸騰する気力とは裏腹に、天音が負ったダメージは深刻だった。いくら美貌が凛々しく輝こうとも、切り裂かれたスーツが雄弁に語っている。
「恥ずかしいことに・・・あなたの悲鳴が、私に正気を取り戻させたの・・・あなたの痛みを犠牲にしなければ、きっと私はいつまでもあそこに沈んでいたッ・・・!!」
「恥ずかしくなんてないよ! ありがとう、おねえちゃん。こんな、ボロボロになるまで・・・私たちのために闘って・・・」
「父も、母も、私は守れなかった。でも・・・あなただけは、命に代えても守ってみせるッ・・・!!」
ゆっくりと、白銀の光女神は後ろを振り返った。
巨馬に跨った虎狼が、戟を構えて待っている。
その表情は、最強のオメガスレイヤーとの再戦を、愉しんでいるようにも見える。
「ッッ・・・ダメだよ! あいつは・・・強すぎる! 一旦ここは逃げてッ・・・」
「確かに、闘いの素人である私には、荷の重い相手だわ・・・けれど、勝てない敵じゃないッ!! 少なくとも郁美、あなたを無事に守り切ることはできる」
雨上がりの強風に、青いケープがバサバサと鳴った。
両腕を腰に添えるオメガヴィーナス。自信の表れともとれるこのポーズが、追い詰められたこの状況下で尚、白銀の女神にはよく似合う。
「あの敵の・・・虎狼の武力は、私の上をいくわ。でもそれは、格闘術や武具の扱いについてのこと。最大の光線技である〝クロス・ファイヤー”を放てば、恐らく倒せるはずよッ・・・」
〝クロス・ファイヤー”。
郁美は思い出す。骸頭が生んだ〝悪魔の掌”を、一撃で消滅させた光の奔流を。
膨大な光で浄化するあの技なら、確かに極限の武を誇る虎狼といえど、防ぎきれまい。しかし・・・
「よかろう、オメガヴィーナス。貴様のこと、見直したぞ。オレの戟をあれほど喰らって立ち上がる精神力、耐久力。冷静に自他の戦力を比較する分析力。そしてなにより、勝ちたいというその気持ち。気に入った。だがッ!」
くしくも虎狼は、郁美の懸念と同じ言葉を言い放った。
「その身体で、最大の光線技を放てるのかなッ!?」
ムリだ。
オメガヴィーナスは、すでに一回、爆発的な光線を発射している。その後、スピードやパワーに明らかな翳りが見えたことから、〝クロス・ファイヤー”の消耗度は窺い知れた。
今の身体で、あれだけの光線を発射するのは自殺行為だ。虎狼を倒すことができても、四乃宮天音も無事では済まない。
いや、むしろ・・・
「できるわ。私は必ず、あなたを倒すッ!!」
オメガヴィーナス、四乃宮天音は、この闘いで死ぬつもりなのだ。
「ダメ・・・ダメッ・・・やめてぇッ――ッ!!」
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