パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅨ ③

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 ――でも、それはそれで、なんか変なのかも。

 似合わないと思っているわけではないのだが、なんというか。それ以上の答えを自分の中で探すのはやめて、成瀬はまた眼下を見下ろした。

「あ……」

 集団から少し離れて歩くひとりの新入生で、目が留まった。ふわふわとした茶色い髪の毛に、一年生にしても小柄な風貌。あの子だ。

「オメガか」

 さした興味もなさそうに、向原が呟いた。ただの事実を声にしただけといったような、それ。

「今年もいるんだな。あいつ、うちの寮だろ」
「そんなに一発でわかるものなの」

 そうではないかな、とは自分も思っていた。だから目が行った。が、なにもこんなに一発で当てなくてもいいだろう。
 嫌味がにじんでしまったような気もするが、八つ当たりのようなものだ。向原が「すぐにわかる」のだということは、身を持って知っているのだから。
 気を取り直すように、成瀬は話題を変えた。

「榛名くんだよ。たしか、そう。榛名行人くん」
「おまえ、よくフルネームで覚えてるな」
「皓太と同室だったから。このあいだ様子見に行ったときに、ちょっとだけ喋った」
「へぇ、皓太と」

 どうでもよさそうな相槌に、笑みがもれる。記憶力云々の問題ではなく、向原は同じ寮の後輩だからという理由ではフルネームを覚えないだろうなと思ったからだ。
 向原は、興味のないものには、とことん興味を示さない。

「なぁ、祥平」

 ふいにトーンの変わったそれに、視線を向ける。どうでもよさそうだったものから一転した、真面目な声。一年生たちはもう見えなくなっていた。
 ちょうど二年前、自分たちが新入生だったころ。自分のほうが高かったはずの目線は、いつのまにか抜かれてしまった。

 ――あっというまだったな、なんか。

 こんなふうに、残りの三年も過ぎ去ってしまうのだろうか。そう思うと、ほんの少し恐ろしいような気もした。

「必要以上にかまうなよ」
「かまうなって、誰に? あの子?」
「それ以外に誰がいるんだよ。皓太には好き放題かまってるだろうが。篠原にもやめとけって言われてたのに」
「それ、それ。皓太にもあんまりかまわないでって言われたんだよな。なんでだろう、反抗期かな」
「おまえなぁ」

 はぐらかなすな、と暗に告げられて、成瀬は苦笑気味に頷いた。わかってはいる。必要以上にかまうつもりはないし、リスクを冒すつもりもない。けれど。

「でも、皓太の同室者だから。ほかの一年生の子よりは喋ることも多いかも」

 すでに、一度顔を合わせているのだ。幼馴染みが入寮したタイミングで部屋をのぞきに行った、そのときに。
 かわいらしい少女のような見た目を裏切る、近寄る者すべてを拒絶するようなとっつきにくい空気をまとった少年。
 皓太が扱いに困り果てているのがわかって、つい喋りかけてしまったのだ。第一印象も人当たりも良い自負はあったのに、なかなかその子のガードは解けなくて。これは幼馴染みが苦労しそうだなぁ、と気の毒に思っていたのだが、オメガならばしかたがない部分はあったのかもしれない。
 同室者となったアルファを警戒して、気を張っていたのだろう。
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