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捜査は難航していた⑵
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この町一番の繁華街の片隅に、新しく出来たアウトドアショップは、小洒落た喫茶店が併設された煉瓦造りの建物の中にあった。
入り口の間取りやショーウィンドウは、前に入っていた高級鞄店のなごりか、どこそこ格式のある風情を醸しているが、店の外に 焚き火台や一人用の簡易なテントなどの商品が値札付きで展示されているので、比較的入店しやすい印象だ。
ヴィクトーとニコラは、教えてもらったその店舗までやって来ていた。
店内は、先ほどの店と同様に、雪山登山用の登山靴やアイゼンなどの装備品、ダウンジャケットなど季節の商品が、所狭しと展示されていた。
ファッション性を重視しているのか、店に来ている客層も、若者が多い様に見える。
かくいうニコラも、その品揃えにそわそわしていた。
スポーツ全般を好む彼にとって、興味深いものが多くあったから。
「結構良い感じですね。ここ。後で個人的に来ようかな」
「どうぞ、ご自由に。やはり、キャンプ系の道具は、隅に追いやられているようですね」
「係長は、ウィンタースポーツとか、しないんですか?」
「する様に見えますか?」
「見えないです」
「では、質問する必要がなかったですね」
「いや。意表をついて……とか?」
「ほう?」
半眼になっている上司に、ニコラは苦笑いを返す。と、そこに、モスグリーンのエプロンをかけた中肉中背の店員が近寄って来た。
「あっはっは。仲良しですね。今日は、何かお探しですか?」
穏やかな雰囲気のその男に、ヴィクトーは会釈し、警察手帳を提示する。
「失礼。私、こういうものでして」
「おっと。警察の方? こちらで何か、お探しでしたか?」
「ええ。最近こちらで、ナイフを購入した方がいないかと思いましてね? もしお時間いただける様でしたら、是非捜査協力を」
「係長。依頼する人の顔じゃないです」
「失礼な。笑顔じゃないですか」
「口だけ笑ってたら、怖いですよ」
鋭い視線に、つい後ずさっていた店員は、続く会話に表情を緩めた。
「私は、ここの店長でして、もちろん協力させて頂きます」
「ありがたい。まずこちらは、刃渡り十センチほどのナイフを取り扱っておりますでしょうか?」
「ナイフ類はこちらに」
案内されて、二人は店の奥にある会計スペースの横に通された。
鍵のかかる棚に、装飾の施されたナイフが展示されている。
店長の男は、手で示しながら説明を始めた。
「こちらは、ヴィンテージなど、多少値の張るもの。それ以外は、下のショーケースですね」
「良いものですね。ナイフは、この店では、それなりに出るものですか?」
尋ねるヴィクトーに、少し考えてから店長は答える。
「このシーズンは少ないですが、それでも数本は出ていますよ。ここ最近ウィンターアウトドアを楽しまれる方もいらっしゃいますしね」
「購入した方を、覚えていたりは……」
「ヴィンテージを買われた方は、こちらに名簿が有ります。この店の開店が秋口ですから、まだ数件しかないですけどね」
「拝見します。念の為、控えさせて頂いても?」
「警察の方ですしね。外部に漏らさないなら、大丈夫ですよ」
ヴィクトーは頷き、名簿に視線を走らせた。
丁寧に購入日まで添えられたその名簿を見る限り、買われたのは、いずれも二ヶ月以上前の様だった。
ヴィクトーは、簡単にメモを取る。
「さすがに、ヴィンテージ以外は分かりませんよね?」
「そうですね。在庫を見れば、月に売れた本数くらいは、分かるでしょうが」
「今月と先月だけで良いので、調べていただけませんか?」
「分かりました。事務室から帳簿を持って来ますね」
気さくな笑顔で頷いて、店長は一度奥に下がり、帳簿を見ながら戻って来た。
「どうやら、ここ二ヶ月は売れてない様ですが……あ、待って下さい? 年末、新商品との入れ替えで、旧商品を在庫処分したんですよ。
確か、このメーカーのキャンプナイフ、旧モデルを特売コーナーに回したはず……担当の者に確認して来ますね」
パタパタと小走りで駆け出す店長。
ヴィクトーとニコラは、顔を見合わせる。
「協力的な方ですね」
ヴィクトーが呟くと、罰が悪そうにニコラは苦笑する。
「とても、疑っていたなんて言えないですよ」
「人が良く献身的ですから、女性にはモテそうです。何か運動をやっていそうな体格ではありますが……身長は私より少し低そうですね」
「少なくとも、大男って感じじゃないですね」
そこに、小柄な店員を引き連れて、店長は小走りで戻って来た。
「在庫限りで半額にしてあったナイフが、数週間前に一本売れていたそうです。こちらが、担当で……」
「お話しを伺えますか?」
尋ねるヴィクトーに、まる眼鏡の大人しげな店員は、オドオドと語った。
「ナイフの在庫処分はそれだけだったので、覚えています。買ったのは、女性の方で……」
ニコラは天を仰いだ。
推定されている容疑者の身長は、百八十センチ以上。相当大きな女性の可能性も無いことは無いが。
「なるほど。女性……」
考える様に、ヴィクトーは呟いた。
入り口の間取りやショーウィンドウは、前に入っていた高級鞄店のなごりか、どこそこ格式のある風情を醸しているが、店の外に 焚き火台や一人用の簡易なテントなどの商品が値札付きで展示されているので、比較的入店しやすい印象だ。
ヴィクトーとニコラは、教えてもらったその店舗までやって来ていた。
店内は、先ほどの店と同様に、雪山登山用の登山靴やアイゼンなどの装備品、ダウンジャケットなど季節の商品が、所狭しと展示されていた。
ファッション性を重視しているのか、店に来ている客層も、若者が多い様に見える。
かくいうニコラも、その品揃えにそわそわしていた。
スポーツ全般を好む彼にとって、興味深いものが多くあったから。
「結構良い感じですね。ここ。後で個人的に来ようかな」
「どうぞ、ご自由に。やはり、キャンプ系の道具は、隅に追いやられているようですね」
「係長は、ウィンタースポーツとか、しないんですか?」
「する様に見えますか?」
「見えないです」
「では、質問する必要がなかったですね」
「いや。意表をついて……とか?」
「ほう?」
半眼になっている上司に、ニコラは苦笑いを返す。と、そこに、モスグリーンのエプロンをかけた中肉中背の店員が近寄って来た。
「あっはっは。仲良しですね。今日は、何かお探しですか?」
穏やかな雰囲気のその男に、ヴィクトーは会釈し、警察手帳を提示する。
「失礼。私、こういうものでして」
「おっと。警察の方? こちらで何か、お探しでしたか?」
「ええ。最近こちらで、ナイフを購入した方がいないかと思いましてね? もしお時間いただける様でしたら、是非捜査協力を」
「係長。依頼する人の顔じゃないです」
「失礼な。笑顔じゃないですか」
「口だけ笑ってたら、怖いですよ」
鋭い視線に、つい後ずさっていた店員は、続く会話に表情を緩めた。
「私は、ここの店長でして、もちろん協力させて頂きます」
「ありがたい。まずこちらは、刃渡り十センチほどのナイフを取り扱っておりますでしょうか?」
「ナイフ類はこちらに」
案内されて、二人は店の奥にある会計スペースの横に通された。
鍵のかかる棚に、装飾の施されたナイフが展示されている。
店長の男は、手で示しながら説明を始めた。
「こちらは、ヴィンテージなど、多少値の張るもの。それ以外は、下のショーケースですね」
「良いものですね。ナイフは、この店では、それなりに出るものですか?」
尋ねるヴィクトーに、少し考えてから店長は答える。
「このシーズンは少ないですが、それでも数本は出ていますよ。ここ最近ウィンターアウトドアを楽しまれる方もいらっしゃいますしね」
「購入した方を、覚えていたりは……」
「ヴィンテージを買われた方は、こちらに名簿が有ります。この店の開店が秋口ですから、まだ数件しかないですけどね」
「拝見します。念の為、控えさせて頂いても?」
「警察の方ですしね。外部に漏らさないなら、大丈夫ですよ」
ヴィクトーは頷き、名簿に視線を走らせた。
丁寧に購入日まで添えられたその名簿を見る限り、買われたのは、いずれも二ヶ月以上前の様だった。
ヴィクトーは、簡単にメモを取る。
「さすがに、ヴィンテージ以外は分かりませんよね?」
「そうですね。在庫を見れば、月に売れた本数くらいは、分かるでしょうが」
「今月と先月だけで良いので、調べていただけませんか?」
「分かりました。事務室から帳簿を持って来ますね」
気さくな笑顔で頷いて、店長は一度奥に下がり、帳簿を見ながら戻って来た。
「どうやら、ここ二ヶ月は売れてない様ですが……あ、待って下さい? 年末、新商品との入れ替えで、旧商品を在庫処分したんですよ。
確か、このメーカーのキャンプナイフ、旧モデルを特売コーナーに回したはず……担当の者に確認して来ますね」
パタパタと小走りで駆け出す店長。
ヴィクトーとニコラは、顔を見合わせる。
「協力的な方ですね」
ヴィクトーが呟くと、罰が悪そうにニコラは苦笑する。
「とても、疑っていたなんて言えないですよ」
「人が良く献身的ですから、女性にはモテそうです。何か運動をやっていそうな体格ではありますが……身長は私より少し低そうですね」
「少なくとも、大男って感じじゃないですね」
そこに、小柄な店員を引き連れて、店長は小走りで戻って来た。
「在庫限りで半額にしてあったナイフが、数週間前に一本売れていたそうです。こちらが、担当で……」
「お話しを伺えますか?」
尋ねるヴィクトーに、まる眼鏡の大人しげな店員は、オドオドと語った。
「ナイフの在庫処分はそれだけだったので、覚えています。買ったのは、女性の方で……」
ニコラは天を仰いだ。
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