偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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80☆文鳥

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意識が浮上していく途中で、ユオは自分が、他人様の胸板に縋った状態なことに気づいた。
しかも、指が強張る程力が入っていた跡があり、頬ずりした跡があり、齧ったか舐めたか知らないけれど、唇を押し付けた跡がある!

不幸中の幸いは、相手の合意が推定できること。腕枕された上に抱き込まれているから。

そろりそろりと顔をあげると、胸板からつながる首の上に載っているのは、ねむっているサフラだった。血も出ていなくて、やけどもない。
あれぇ?と首をかしげる。

いや、抱きついている相手がサフラで、良かったのよ?もちろん。
知らないお医者さんとか、隣の病床の重症患者とかに抱きついているよりよっぽど。

でも、サフラに捨てられたのは、夢だったかな?とか、都合の良い事を考える自分がちょっとね。

右手を探してゆらしてみる。おお?動く。焼き落としたと思っていたから変な気分。胸、も引きつりはするけれど、痛覚どころか感覚ごとない。
なんとなく、心が軽い、なんて、そんなばかな。あんなに真っ暗で・・・あ、わかった、キルヤ様の夢誘導か。そういえば、何度も呼ばれた気がする。

今の私は心身ともに麻酔状態、なわけね。やれやれ、腕がいいわ。
しかも唐揚げの温度とかコンフィの温度なんてよく知ってたなあの人。

ぜんぶ、ばれちゃったんだなぁ、ってしみじみ思う。

どう、しようかな。
どう、しよう。

麻酔が効いている間に、考えないとなぁって思いはするけれど。
でも、この世界に来てからずっと、迷ったときはサフラにいい方、って決め方しかしてなかったから、もういらないと言われると、すごく馬鹿になった気がする。

ちゅ

おでこに柔らかさが降って、顔をあげると、サフラが、心配そうな顔で、私を見ていた。

「ユオ、気づいてよかった。ごめんなさい」

って、まるで、7才の弟子になったばかりのサフラみたいにストレートに謝って来る。

「・・・あ・・」

答えようと思ったら、声帯がひからびたような声しか出なくて、目をしばたかせる。

「ユオの右手から熱い油があふれて危なくて、力も薬も入れすぎちゃって。喉とかの治癒は明日以降って病院が」

なる、ほど。
鎮静剤と、サフラの治癒と、キルヤ様の精神誘導と、同時にマックスまで入れるとか、確かに医者はおののきそう。

言い訳も尽きた私が言えることは何もないし、麻酔状態の文鳥気分で『チュン』とか言いそうだから、ろくに話せない状態にほっとした。

「ごめんなさい、ユオ。僕が悪い、です。おかしくなってた。ゆるしてほしい、です」

腕枕をしたまま、私の顔が見えるように、サフラがそっと姿勢を変えると、私が顔をめり込ませていた場所に、私がつけたとしか思えないキスマークがついているのがみえた。
顔がしかまる。我ながらよくまぁ、そんなことが出来たなと。

「鎖でつないで、ごめんなさい。ひどいこと言って、ごめんなさい。嫌がらせみたいに自傷をみせて、ごめんなさい」

私が、自分にげんなりしている間に、なぜだかサフラが沢山謝って来る。

おかしな子です。
ぜんぶ、ばれて、私が生んだ醜悪な過去が疎ましいだろうに。ナイフで切り剥がしてしまいたかっただろうに。
自傷、やめてくれて。私が縋りつくままにさせてくれて。破格の待遇だと思いますよ?

「わたし、の、あいしてるが、きたなか、たから」

私の愛してるが、汚かったから。

だから、サフラが傷ついたのであって、あやまることなんて、何もないのだと。そう伝えたかっただけなのに。

サフラは、驚いたように目を大きく開けて、そこに綺麗な涙の膜が張った。

「ちがいます、そんな風に、思ったことなんてない。あなたの想いが、汚かったことなんて、一瞬もない!」

やさしい弟子のサフラは、すり替え上手の甘やかし上手。
寂しがりやのあなたが、優しい人たちに囲まれて、笑っていられたらと願った。
確かにその願いが汚かった訳じゃない。

でもそのために使った愛が、汚すぎた。
漆黒のよどみからくみ上げたそれは、この世に並ぶものがない美しい金色をくすませた。

「い、い、子」

「そうじゃなくっ、当てつけ、でした、自分で息止めて死ねないのと一緒で、ナイフで切ったぐらいじゃ僕は死なないのに、餓鬼みたいに、気を引きたくてっ」

私の真っ黒な染みのような嘘が、痛くて、苦しかったのだと、知っている。本当は、ずっと前から、知っていた。

「一度目も二度目も耐えられなかったのに、繰り返すつもりなのか、抱かれてくれるのも、三度目に耐えられるようにするためかって、馬鹿みたいに拗ねて。ユオが、あんなになるなんて、考えもしなくてっ」

「いた、くて、くるしく、した、ごめ」

一度で、終わりにするべきだった。せっかく事故にあえたなら、そこで諦めるべきだった。

「ちがうんです、ちがう。痛かったのも、苦しかったのも、あなたで。僕のは、あなたの痛みを取り除けない無力に焦れた八つ当たりです。勝手に思い上がって、勝手に絶望して。あんな、意識を失ってまで、手を、焼き落とそうとするほど・・」

手?など。心配してもらうようなことでは、ない。猟奇っぽいから、人前でしないだけで、これまで何度もちぎろうとした。左手に、なりたくて。

「へい、き。やめて、くれて、ありがとう」

ものは言いよう。ナイフで切って死ねない、どころか、爪楊枝ですら、サフラは死ねる。この子の意志を誰も邪魔することはできない。私のエゴが染みがついた、血も、力も、流れ出てしまえと願っただろうに。止めてくれたのだ。

あさましい無意識が、彼の胸にのこしてしまったキスの跡を、なぞる。

「・・・お、ゆお、ユオ!!」

ああっと、いけない、ぼひゃっとした。
サフラが、よんでいるのに。しかも、抱きしめてくれているのに。

はぁい。

声が出にくいから、一生懸命上を向く。
と、サフラが、泣いていて。

わたわたわた。

たいへんだ。

痛い?苦しい?それとも私が触ったせい?

あわてて体を離そうとすると、サフラはそれを押しとどめ、私の左手を自分の頬に押し当てて横に首を振る。

ど、ど、ど、どうしよう。
左手、ほしいの?

あげるから、泣かないで。
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