偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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81☆嫁入りとか

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怪我は早々にサフラが直してくれたのだけれど。
サフラも医者も、私のメンタルがひび割れているというもので。

即興で暴走を止めてくれたキルヤ様のカウンセリング・・と言っていいのかな、この人の精神誘導能力だったら洗脳だろうが心の外科手術だろうが自由自在だと思うけど・・を受けることになった。

私の感覚としては、左半身の喪失感がひどくて意識が持続できないだけで、頭が壊れたわけじゃないと思うのだけれど。

「おまえさ、嫁入りとかって、どう思う?」

部屋に来てくれたキルヤ様は、いかにも通常運転、という感じで声をかけてくる。
私のほかに、私の症状が頭の問題じゃないと思っている人間がいるとすれば、当のキルヤ様だと思う。

「余命?長くはないかと・・・」

「余命じゃなくて、嫁いり」

キルヤ様は、私がテーブルの机に移動しようとするのを軽く手をあげて止めて、私が座っていたソファに並んで腰掛けた。

「キツネの?」

「お前の。相手は俺で、目的は肩の荷下ろし」

ちゅ

気づいたときには、頬に暖かなキス。ふわふわの猫がするみたいなやつ。

いや、この人、ホントすごいよな。
今の私ってかなり他人の気配に敏感でささくれ立ってるっていうのに、イメージ猫だよ、猫。

「キルヤ様のプライベートえぐるほど重症じゃないですよ?」

「おまえな。ふつうに俺がプロポーズしてるって理解は無理なのか?」

「それが無理なのは、私のせいじゃなくてキルヤ様の素行のせいでは?」

「頭回ってんじゃねーか。仕切り直しだ、やり直し!」

何を?っておもったところで抱きしめられて、首の後ろとか、腰とかに、ちょっとだけよこしまな感じで指が這う。

カウンセリングのやり直しなのかなー、って思ったので、一応私も両腕軽くキルヤ様の背中に回してみた。

「・・・楽だろ」

そりゃこれだけ手加減されればね。触覚過敏すら発動しないし。

って、くちにだしてないんだけどな。キルヤ様の場合は、思っただけでも普通に会話が進んだりする。

「そうじゃなくて。俺は、サフラと違って、不可能を可能にしないと愛じゃないとかゴネないぞ?サフラを愛したままのお前を愛せるし、お前があきらめても壊れない」

あは。本当によくひとのことをみてるなぁ。
サフラのはしか治療めざして「嫁に行く」って選択肢を検討したことは確かにある。ずいぶん昔のことのように感じるけれど。

「キルヤ様に得がないじゃないですか」

「試すか?」

試す?

「ん、う」

猫じゃないキスが、こころに押し入ってくる。

嫌では、ない。むしろ・・
『すぐに治るからね』
あの時の、感じだ。

由生が、子どものころ。
のどが痛くて薬が飲めないのに、熱がどんどん上がって怖かった。
泣いたらもっと頭が痛くなるし、息も苦しくなるとわかっているのに涙が止まらなかった。

でも、母が、冷たいゼリーでつつんだ薬を、小さなスプーンですべらせてくれたら、つるんと入ったのだ。

えらいえらい、もう大丈夫、そう繰り返されて、触れるだけでビリビリと皮膚をひっかいて痛かった布団がすごく柔らかくなっていった時の感じ。

肌触りの良いお布団が触れた場所から、安心した体がたくさん息を吸えるようになっていく。

やわらかくて、あたたかで・・

「こらーっ」
「つかまえたぁっ」

って、あれ?
ダブった声に意識が急浮上。

かなり平和なカウンセリングをされていたはずのわたしの左手は、なぜだか大きく振りかぶっており、それをキルヤ様がつかんでいた。
推察するに、『こら』のほうが私の声で、『捕まえた』のはキルヤ様らしい。

あれれぇ?
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