偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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43☆疑惑

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まずい、なぁ。
ユオの記憶との融合が進みすぎたせいだ。
意識がユオに持っていかれて、不用意に過去を口走ることが増えた。

気を付けようと思わないわけじゃないけれど、異常な疲れがたびたび襲って、判断力が鈍っていく。ユオの記憶を見れば見る程、空洞から気力が吸い出されて行く気がする。

で。サフラに、完全に疑われた、とおもう。
ユオの居場所、生死、意図。ユオが消えた理由、中央にされたこと。サフラの正気を奪うそれらを、私が知っているはずだと。

執拗に触られる回数が指数関数的にふえていくのも多分そのせい。

いれてないだけで、あれは9割がた性行為です!
むしろいれた方が絶対に健全です!
出すものださないから際限なく沼るんです!

って、内心ではいくらでも説教できるのですけどもね。

も、夜になるたび、朝になるたび、真っ昼間でも。ひっつく、くっつく、しがみつく。
触れていないと呼吸できないとでもいうように。

はふ。
サフラの気を注がれ、サフラの執着を浴びて。
薄っぺらな私の中で、極彩色のユオが瞬く。

サフラが買い物に出るや起き上がって、窓という窓を全開にした。
雪山ほどではないけれど、夜の外気は冷たくて、呼吸を楽にしてくれる。

サフラに優しくしてもらえ、か。
難しい事ではない。元から優しい子だ。

サフラは、ユオに起こった惨劇が呑み込めない。
ユオの意志なら、サフラへの裏切りで、
ユオの意志でないなら、中央に苦痛の限りをねじ込まれた無惨な犠牲者で。
どちらも呑み込めないのだ。

冷たい空気がもっと欲しくてドアまで開けて。

目の前の、大人数に、驚く。

いや、相手も多分、驚いた。
5人?6人?

覆面、凶器。まさに、襲撃2秒前、というところで、踏み込むはずのドアが外側に開いたのだと思われる。

ここまできてやっと、なるほど、と思いあたった。

私は、自分のことを、サフラにしか読めない手紙、と思っていたので、第三者の視線を気にしたことがなかったのだけれど。

サフラは、皇族だろうがなかろうが、事実としてぶっちぎりの能力者だ。

そりゃ、殺したい奴から担ぎたい奴まで山といる。サフラのお気に入りが弱っちい玩具なら、それを使って、サフラを動かそうとする奴らが出てくるのは、道理というもの。

理解はできても、恐怖心は、湧かない。サフラが思うほど、私は生きていないし、むしろ彼らが心配になる。

この人達、私を殺しても、攫って行っても、無事じゃすまなくない?
あの子、常軌を逸して強いよ?って。

サフラは、私という発散先をうばわれたら激すること請け合い。
だからといって、この暴漢どもを私が説得しても、やめるわけないよなぁ、どうせ雇われだろうし。呑気にそんなことを考えているうちに。

踏み込まれ、組み伏せられ、腕をねじ上げられて。

残念ながら、今の私に、ユオだった頃の剣術の腕だの攻撃力だのはない。

イメージはできるのよ?
でも多分、イメージ通りに剣をふるったら腕の健がいかれるし、気弾を撃ったら干からびる。

ちょっとだけ、諦めちゃおうかな、と弱気が頭をよぎって、疲れの質が悪いことに気づいた。

あれだけ運動能力をちやほやされた由生だって、病気にかかったら、疲れて死んだ。人は、疲れると、ボロくて薄くて頼りなくなっていく。あの感覚をどうやら私は覚えているようだ。疲れて、疲れて、どうしてもポテチが、食べたくなった日。

殴られて、踏みつけられたのがわかるのに、私の目は、現実よりもユオの過去をみる。
心臓の裏に孔が開いて、動けないまま殴られていた時も、前世で体中の筋肉が溶け出した時も、とても疲れていた。

しっかり、しないとなぁ。

とりあえず、こいつらが、極悪人かだけでも確かめて、極悪人なら、どうなっても心が痛まないから、サフラを呼ぼう。

でも、サフラに怯えるまじめな軽犯罪者とかだったらなんとか逃がして・・・
あー、まじめなサラリーマンだった場合は?どうしよ。雇い主が極悪人だからって一蓮托生っていうのもなぁ。

疲れているせいで、思考が遅いけれど、つらつらと考えているときに。

『ユオ?』

え、サフラ?!

頭に彼の声が響いて、覚醒。やばい、またサフラを泣かすとこだった。
深呼吸、1回。
しっかり、私。本体じゃないけど、師匠の面目、おもいだせ?

ふよふよしていた現実の五感をたどたどしく呼び寄せる。
ポテチの味、イチゴポッキーの味、夕日の色、大好きな、サフラの金色。

そうして、やっとの思いで、助けを求めるという慣れない行動にでる。

「ちょうどいいところへ~。ごめん、ちょっと困っています」
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