【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第5章 辺境の地へ

3 動揺

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 どのくらいの時間が過ぎたのだろう。ソファーに腰掛けて、うたた寝をしていたルイーズが、目を覚ましたようだ。部屋の中を見ると、リアムがベッドで横になり、夕寝をしている。ルイーズは立ち上がり窓際に寄ると、外はすでに夕闇が迫っていた。

 その時、部屋のドアをノックする音がした。部屋へ案内してくれた侍女が、ルイーズとリアムを呼びに来たようだ。そろそろ晩餐の時間だろうか。

「はい、どうぞ入ってください」
「失礼いたします。晩餐の準備が整いました」
「分かりました。少し待っていただけますか。弟を起こしてきます」
「かしこまりました」

 眠っていたリアムを起こすと、ルイーズが身なりを整えてあげているようだ。その後、侍女に案内され、二人は晩餐の用意がされた部屋に向かう。
 部屋の前に着くと、そこは食堂ではなくゲストルームだった。部屋の中に入ると、そこには、エリーが一人で、皆が来るのを待っていたようだ。侍女に促されて、席に着くルイーズとリアム。案内してくれた侍女は、お辞儀をして部屋から出て行ったようだ。

「待たせてしまってごめんなさい。エリー、一人で待っていたの?」
「そうなの。部屋に案内されて、しばらくしてからレアさんが来たの。そのあと、エマちゃんはレアさんと部屋を出ていったまま、戻ってこなかったわ」
「何かあったのかしら?」

 ルイーズとエリーの会話を聞きながら、何やら考えている様子のリアム。

「ご家族に何かあったのでしょうか。こちらへ来る途中に、エマさんから聞きましたが、この屋敷にはリオンさんとレアさんの御父上と妹君がいらっしゃるそうです。お二人に何かあったのかもしれませんね」

 リアムの告げた内容もだが、言い方を聞いた二人は驚いたような表情だ。数日間だが、旅に出てからのリアムは、言葉遣いや物言いに変化が表れてきたようだ。ルイーズとエリーは同じことを思ったのだろう。ルイーズはリアムに向き直った。

「皆さんがきたら、聞いてみましょう」

 しばらくすると、三人の料理が運ばれてきた。どうやら、食事を運んだ二人の侍女が、食事の準備と給仕を行うようだ。ルイーズとエリーの二人は、運んできた塊肉を切り分ける侍女を見ると、その様子を興味深そうに見ていた。
その後、食事も終わりデザートも食べ終えた三人は、ゲストルームを後にした。

 三人は、エリーの部屋にエマがいるかを確認したが、まだ戻っていないようだ。ルイーズは、リアムが眠たそうな顔をしているのを確認すると、エリーを自分たちの部屋に誘った。

「エリー、私たちの部屋でエマさんが戻るのを一緒に待つのはどうかしら?」
「ええ、そうさせてもらおうかしら」

 どうやら三人で、エマの戻りを待つことになったようだ。


 ♦


 紺色の帳が降りた頃、部屋を控えめにノックする音が聞こえた。ルイーズはソファーから立ち上がり、ドアに近づき扉を開けた。

「ルーちゃん、遅くにごめんなさい。置手紙を見たわ。エリーと一緒にいてくれてありがとう。」

「エマさん……どうぞ、中に入ってください」

「ありがとう。そうさせてもらうわ」

 疲れた表情のエマを見たルイーズは、部屋の中に入るように誘ったようだ。

「エマさん、今ハーブティーを淹れますから、隣の部屋で待っていてください。エリーもそこにいますから」
「ありがとう。リアム君は?」
「リアムは、先に休ませてもらっています」
「そうよね、もうそんな時間だったわね……」

 エマを心配するルイーズは、部屋に併設された小さなキッチンでハーブティーを淹れた。そのハーブティーを差し出すと、エマは一気に飲み干した。

 エマが落ち着いたころ、その様子を見ていたエリーがエマに話し掛けた。

「エマちゃん、様子がおかしいわ。何かあったの?」

「……レアが部屋に訪ねてきたでしょう? あれから、私はレアに連れられてリリーちゃんの部屋に行ったの。そうしたら……、リリーちゃんがベッドで横になっていたから、病気かと、その部屋にいたリオンさんとレアに聞いたの。だけど、二人とも分からないって言うばかりで、動揺しているし、理由もわからないし……リリーちゃんの容態も気になるし……」

 いつになく、歯切れの悪いエマの様子とレアの妹の状態を聞いて、言葉も出ないルイーズとエリー。ルイーズは、なんとか気持ちを立て直すとエマに尋ねた。

「妹さんの容態は、そんなにひどいのですか? もし辛そうなら、お医者様には診てもらったのですよね?」

「それが……クレメント家の侍医は、レアのお父様の遠征に同行しているそうなの……」

「そうですか……」

「エマちゃんは、少し休んだ方が良いわ。食事はしたの?」
「食べていないわ」

 元気のないエマを見て、休ませようとするエリー。その近くでは、何か食べられるものがないかキッチンを物色するルイーズ。

「エリー、ここには何もないから、スープや軽食がないか調理場で聞いてくるわ」

「ルイーズありがとう」

 エリーに頷くと、ルイーズは部屋を出て調理場に向かった。



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