【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第5章 辺境の地へ

4 案じる

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 部屋を出たルイーズは、調理場の位置を考えているようだ。侍女科の授業で習った内容を思い出しているのだろう。

(調理場は……普通は生活する空間から離れた場所だけど、こんなに大きなお城だと、地下や別棟にあるのかしら)

 ルイーズは、使用人を探しながら廊下を歩く。他家の屋敷内を勝手に動き回るのは失礼だが、使用人に中々会うことができないのだから、仕方がないだろう。

(これだけ広いと調理場も貯蔵室も大きそうだわ)

 歩いている廊下の先を見ると、別棟に続く廊下があるようだ。

(あそこまで行けば、誰かいるかもしれないわね)

 廊下の曲がり角に近づいたところで、メイドと思われる女性に会うことができた。ルイーズは、少し驚いた表情の女性に声を掛けた。

「少しよろしいですか。わたくし、本日からこちらに滞在している者ですが、食事を取っていない者に食事を用意したいのです。調理場か貯蔵室を教えていただけますか?」

「かしこまりました。何をご入用でしょうか?よろしかったらお部屋までお持ちいたします」
「ありがとうございます。よろしければ、わたくしも連れて行っていただけますか?」

「調理場に入ることはできませんが、貯蔵室にはまだ専用の係がいると思いますので、ご案内はできますが……」

「不躾なお願いをしてすみません。よろしくお願いします」

 メイドに案内され、貯蔵室にきたルイーズは、自分の想像を超えた部屋の大きさと、食料品の豊富さに驚いているようだ。きっと、料理好きのルイーズにとっては楽園のような場所なのだろう。感動した様子で辺りを見回すルイーズに、男性使用人が声を掛けてきた。

「失礼ですが、何か御用ですか」

「ジェームズさん、こちらの方は本日より滞在されているお客様です。食事をお摂りになっていない方のために、食材を必要とされています。お客様のご要望をお聞きいただけますか」

 ルイーズを案内してくれたメイドが、男性使用人に説明をしてくれたようだ。

「メアリーさん、お客様をこのような場所にお連れするのはいかがなものかと……しかし、調理場はもう稼働していないですからね。仕方がありません、今回だけですよ」

「ありがとうございます。わたくしは、ルイーズ・ブランと申します。メアリーさん、ジェームズさんとお呼びしてもよろしいですか?」

 親切に対応してくれた二人に嬉しくなったルイーズは、名前で呼んで良いか確認すると、二人とも承諾してくれたようだ。そこからは、ルイーズとジェームズが食材や食器を選び、籠に詰めていく。

「そういえば、レアさんとリオンさんはお食事をされたのかしら……」

「お坊ちゃま、お嬢様のお知り合いなのですね。お二人のお料理はもちろんご用意はしたと思いますが……今日は何やら忙しない様子で、私どももそこまでは把握していないのです」

「そうですよね。念のため食材を少し多めにいただいてもよろしいですか?」

「こちらは構いませんよ。食材が多くなりましたら、そこにあるカートに乗せて運ぶとよろしいかと」

「ありがとうございます。お借りしますね」

 思いのほか、多くの食材を貰うことができたルイーズは、それらをカートに乗せて部屋まで運んだ。部屋に着いたルイーズは、早速調理に取り掛かった。ジェームズから多めにもらった玉ねぎを使って、エマにはオニオングラタンスープとサラダ、それらが食べられないときのために林檎と蒲萄のコンポートを作るようだ。作業中も何やら考えているルイーズは、途中でスープの分量を増やした。リオンとレアのことが気になるのだろう。

(もし、いらないと言われたら、持って帰ってくれば良いわよね)

 二人の所にも持っていくつもりのようだ。料理が出来上がると、ルイーズはエマのいる部屋に急いで食事を運んだ。

「美味しそう。ルーちゃんいただくわ」
「良かった。ゆっくり食べてくださいね」

 ルイーズは、食事を始めたエマを確認すると、レアとリオンの所にも料理を持っていくことを伝えた。

「そうしてもらえると、ありがたいわ。二人も食事をしていないと思うから。部屋はそんなに離れていないから、一緒に行くわ」

「エマさんは休んでいてください。先ほど、こちらの使用人の方に、妹さんのお部屋は確認しましたから」

「ルイーズ心配だから、部屋まで一緒に行くわ」
「エリーはエマさんと一緒にいて。リアムもいるからよろしくね」
「わかったわ。ルイーズありがとう」

 リオンとレアの食事をカートに乗せて、急いでリリーの部屋に向かう。
先ほどメアリーに教えてもらったリリーの部屋の前にくると、ドアを静かにノックした。

「ルイーズ嬢? こんな遅くに何かあったのですか?」

 部屋の中からは、リオンが出てきたようだ。目の下には、薄っすらと隈の様な跡ができている。四日間も護衛をしてきて、帰ってきてからも休んでいないのなら疲れもでるだろう。

「お食事はされましたか? まだでしたら、少しだけでも召し上がってください。エマさんから妹さんのことをお聞きしました。明日の朝、また来ますから、お二人とも休んでください」
「ああ……、ありがとう。食事もいただくよ」

 ルイーズの顔を見て、少しだけ表情が和らいだリオン。ルイーズは、給仕をするのは遠慮して、リオンにカートを渡してからその部屋を後にした。


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