【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第5章 辺境の地へ

2 クレメント辺境伯爵家

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 ブラン家を出発した馬車は、王都を抜け北へと向かうようだ。通常であれば、王都から北の辺境までの道程は、馬車で5日~7日ほどかかるそうだが、今回は王都にあるクレメント辺境伯爵家のタウンハウスから、護衛と御者を兼務する三人を帯同させているため、四日の予定を組んでいるそうだ。そんな挑戦的ともいえる計画を立てられるのは、相当旅慣れた三人なのだろうか。四人が乗る馬車も、がっちりしていて、安定性も抜群だ。

「すごいわね、この馬車。特注かしら」
「本当ですね。こんな頑丈そうな馬車に乗るのは初めてです」

 エマとリアムは、自分たちが乗っている馬車にとても興味があるようだ。馬車のことを話しつつ、エマはリアムに問いかけた。

「今回、リアム君はどうして辺境に行きたいと思ったの?」
「……姉が心配で」
「そっか……お父さんもリアム君の辺境行きについては、そんなに反対はしなかったのかな?」
「そうですね。すぐに賛成はしてもらえませんでしたが、許してもらえました。それから、誰かに会ったり、何かあったらすぐに手紙を書くように言われました」
「そう……何かあったら、一緒に行動している誰かに直ぐに伝えてね」
「はい」

 エマとリアムが話をしている横では、ルイーズとエリーが窓から外の景色を眺めていた。

「ねえ、エリー」
「なに?」
「私、リオンさんに会ったことがあるのかもしれないわ」
「何か気になることがあったの?」
「うん……リオンさんを見ていると、知り合いのような……でも、何も思い浮かばないの。これも失った記憶が関係しているのかしら」

 エリーが何か答えようとしたその時、エマがエリーとルイーズに向き直って話し始めた。

「エリー、ごめんなさい。それについては、私から話しても良いかしら?」
「エマちゃんは何か知っているの?」

 エマに問いかけるエリー。

「ええ、修道院で聞いたのよ。貴女たちはその場にいなかったから、話す機会があったら伝えたかったの。ルーちゃんも、『自分のことは教えてほしい』と言っていたから」

「エマさん、教えてください。私は、忘れていることがあるなら思い出したい。記憶をなくしたのなら取り戻したい」

 ルイーズを見つめ、頷き返したエマは話し出した。

「ルーちゃんがさっき言っていたことは、気のせいではないわ。ルーちゃんは幼い頃、クレメント家の屋敷でリオンさんに会ったことがあるそうよ。その時は、お祖父様と一緒に屋敷を訪れて、しばらく滞在したとリオンさんから聞いたわ」

「そうなんですね……、全く記憶にないわ」

 エマに返事をしてから、自身に問いかけるルイーズ。

「これからクレメント家に伺ったら、今の様な気持ちになることもあると思うわ。でも来たことがあると分かっていれば、思い悩む必要もないわ。向こうに着いたら、辺境の景色を見たり、乗馬を楽しみましょう」

「はい」

 微笑みながら返事をするルイーズ。

 以前なら、心配そうな顔をしたと思われるエリーとリアムは、ルイーズを見て頷いている。二人とも、どこか落ち着いた表情だ。


 ♦


 旅の一行は、ちょうど四日目にクレメント家の領地に入った。宿泊と休憩をしっかりと取りながらも、とても早い到着だ。馬車移動の四人以外は、完全に護衛に徹していたようだ。そんな彼らの表情も、領地に足を踏み入れると一気に和らいだ。

 馬に乗ったリオンが馬車に近づいてくると、そろそろ屋敷に到着することを伝えてきた。楽しそうな雰囲気が漂う車内では、皆が馬車を降りるための準備をし始めたようだ。

 それからしばらくして、馬車が停車した。外の景色を見ていたリアム以外の三人は、屋敷の存在に気づかなかったようだ。

 窓から外を見た三人は息を飲んだ。想像していた屋敷とは違っていたのだろう。四人は、馬車から降りると辺り一帯を見渡した。珍しく、リアムがとても興奮している。他の三人は、重厚な城壁に圧倒されて足が前に進まないようだ。その様子を見ていたリアムとレアが、四人に近づき声を掛けた。

「クレメント家へようこそ」

 ハッとした表情でリアムとレアを見る四人は、その先に整列する使用人たちにもようやく気づいたようだ。長旅ということで、油断していたのだろう。四人は背筋を伸ばした。

 リアムに連れられた三人が屋敷内に足を踏み入れると、執事と思われる人物が指示を出し、多くの使用人たちが動きだした。

 侍女に案内され部屋に向かうことになった四人。すでに緊張も解けたのか、柔軟性がありそうなエマは屋敷内を興味津々な様子で観察しているようだ。その後ろから、緊張した面持ちでついていくルイーズとエリー、そしてリアム。

 今回はブラン家とシャロン家に一部屋ずつ用意されているらしい。部屋に通されてホッとするリアムとルイーズ。

「緊張したわ」
「僕もです」
 
 二人は目を合わせて頷きながら呟いた。

「世界が違いますね」
「そうね」

 晩餐に呼ばれるまでの間、そわそわした様子のルイーズと興奮状態が冷めやらないリアムは、バルコニーから見える景色を見ながら心を落ち着かせたようだ。



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