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第5章 辺境の地へ
1 出発
しおりを挟む女学院が長期休暇に入り、待ちに待ったクレメント家に向けて旅立つ出発当日の早朝。ブラン家には、ルイーズを迎えに来たリオンとレア以外に、思いもよらない人物二名が玄関の前で待っていた。
呆然とするルイーズは、我に返ると目の前まで進んできた二人に話し掛けた。
「お見送りに来てくれたの?」
「違うわ」
「私たちも一緒に行くことにしたのよ」
エリーとエマの言葉で、一緒に行くことを今知ったルイーズは、戸惑った様子だが嬉しそうだ。
「私は嬉しいけど……」
少し離れたところで、馬の手綱を引くレアに視線を向けると、微笑みながら頷いている。その横には、いつもの無表情とは違う優しい笑みを浮かべたリオンがルイーズを見ていた。
「あんな表情もできるのね……」
「エマちゃん、失礼よ」
ルイーズの側でその様子を伺っていたエマが、リオンの表情を見ながら呟くと、エリーがすぐさま注意をした。ルイーズは、そんなやり取りにも気づかずに、リオンをじっと見つめている。
そんな彼女たちの側にレアが近づいてきた。
「リアムはどうした?」
「リアムはまだ寝ているかと……リアムが何か?」
何故レアがリアムを気にするのか、と不思議に思いながらも答えるルイーズ。
「この間、リアムが『僕も辺境に行きたいです』と、私たちに言ってきたんだ」
此方に歩き近づいてきたリオンが、ルイーズに答えた。
「リアムが辺境に……」
リアムがそんなことを言うとは思わなかったのだろう。ルイーズは驚いているようだ。その時、リアムが玄関から飛び出してきた。急いできたのだろう。まだ、後頭部の髪が跳ね返っている。
「おはようございます! 皆さんすみません! 遅くなりました」
朝は中々起きられないはずなのに、頑張ったのであろうリアムの様子を感じたルイーズは、リアムの寝癖を整えなている。
「おはよう、リアム。話は聞いたけど、辺境に行きたかったの?それで、行けることになったの?」
「おはようございます、姉上。リオンさんとレアさんには、辺境に行きたいと思っていることを伝えました。僕のことも連れていってもらえるように頼みました」
「そうだったの。でも、お父様は辺境行きを許してくれたの?」
「リオンさんに、父上と母上、それからミシェルを説得できたら連れて行ってくれると言われたので、頑張りました」
「そうなのね。それで説得は成功したの?」
「はい。父上も母上も許してくれました。ミシェルは……、辺境から帰ってきたら、毎日おままごとに付き合うことを約束しました」
「……そう、私も付き合うわ」
ルイーズは初め驚いた様子だったが、リオンが両親を説得してまで自分の希望を伝えるなど、初めてのことだったので感動したようだ。
「リアム、良かったな」
「はい。お世話になります。よろしくお願いします」
兄弟の会話を見守っていたリオンが、嬉しそうに笑うリアムの頭を撫でながらほほ笑んだ。
出発の時刻になり、皆が馬車に乗り込み始めた。ルイーズとリアムは、玄関前で見送りをしてくれるトーマスとローラ、そしてモーリスの三人に声を掛けた。
「こんな早くから見送りをしてくれてありがとう。私とリアムが留守の間、どうかミシェルのことをお願いします」「ミシェルのこと、よろしくお願いします」
ルイーズに続き、リアムも皆にミシェルのことをお願いした。今回は自分の希望を優先したが、毎日一緒に過ごしているミシェルのことがやはり気がかりなのだろう。
「お嬢様、リアム坊ちゃま。どうぞ楽しんできてくださいね! ミシェルお嬢様のことは、私ローラにお任せください。この機会に、ミシェルお嬢様との仲を深めるつもりですから!」
「そうですよ、お二人とも楽しんできてくださいね」
「ローラ、モーリスありがとう」「ありがとう」
二人に感謝の言葉を告げていると、トーマスが声を掛けてきた。
「ルイーズお嬢様、リアム坊ちゃま。あちらの窓をご覧ください。」
窓に向かい手を向けるトーマス。そこには、ルーベルトとエミリーの姿が見えた。二人はルイーズとリアムに控えめに手を振っている。
「お父様……お母様」「父上、母上」
「昨夜は旦那様と奥様、そしてミシェルお嬢様はご一緒にお休みになりました。本当はお二人の見送りに出たかったようですが、ミシェルお嬢様がぐずってしまわれるからと、あちらでお見送りをなさるとおっしゃっていました」
「トーマスありがとう。お父様とお母様にも『お見送りありがとうございます。行ってきます』と伝えてください」
「かしこまりました。ルイーズお嬢様」
トーマスにお礼を伝えて、窓際に立つルーベルトとエイミーにも手を振ると、ルイーズとリアムはエマとエリーのいる馬車に乗り込んだ。
馬に乗るリオンとレアは、馬車の護衛をするようだ。前方を守るリオンと、後方を守るレアは手慣れた様子だ。その二人に守られながら、少し長めの馬車の旅が始まった。
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