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第1章 ブラン家
7 ブラン家の日常
しおりを挟む手をつなぎながら部屋に入ってきたリアムとミシェル。
二人はお目当ての姉を確認すると、顔を綻ばせながらルイーズに駆け寄ってきた。
「姉上、お帰りなさい」
「ただいま、リアム。ミシェルの面倒をみてくれてありがとう」
「いえ、ミシェルはいい子にしていたので大丈夫です」
ルイーズはリアムに微笑みながら頷いた。リアムからミシェルに顔を向け、ミシェルの目の高さに合わせるように屈んでから話しかけた。
「ミシェルはおにいさまの言うことをきちんと聞けたかな」
「うんっ! にいたまのゆうことちゃんときいたよ。ねえたまのこと、おへやでまってた」
「そう、偉かったわね。今日はお部屋に行けなくてごめんね、ミシェル」
「うん、いいよ」
かわいい妹から許しをもらい、ルイーズはミシェルの頭を優しく撫でた。
♦
三人は、ルイーズの部屋を出て、母親の部屋に向かっていた。
夕食前のこの時間は、母親のところで一日の出来事を話すことが日課になっている。
今日はいつもより遅いため、話せる時間は短くなってしまった。
母親は三年前の出産の際に、出血の量が多く、二年前まではベッドの住人だったのだ。
最近では、お茶会やパーティーに参加して、貴族夫人の義務を果たしている。それらの会に参加した翌日には、またベッドの住人となる。
ルイーズは、そんな母親の姿を見るといつも悲しくなる。
回復の兆しは見えてきたが、まだまだ症状は不安定だ。
できることなら、全快するまでゆっくりしてほしい。しかし、貴族夫人としてはそうも言ってはいられないようだ。
母親は、弟がブラン子爵を継承するまでは社交活動を続けるのだろう。
母親の部屋につくと、ノックをしてから声を掛ける。
「お母様、ルイーズです」
「リアムです」
「ミシェルでしゅ!」
「三人とも入って」
部屋の中から聞こえる優しい声。
「失礼します」
ベッドのヘッドボードに背を預けて、リラックスした様子の母親。
ルイーズは、いつもその姿を見ると安心する。
「お母様、お加減はいかがですか」
「ありがとう。体調は大丈夫よ」
「それなら良かったです。夕食は食べられそうですか」
「ええ、折角だから皆でいただきましょう」
「はい、お食事はお部屋に用意していいですか」
ルイーズは、頷く母親を確認してからリアムの方に振り返る。
「リアム、今日のお夕飯はお母様の部屋で頂くと、お父様に伝えてきてくれるかしら」
「はい、伝えてきます」
「よろしくね」
「マーサ、お夕飯はお母様の部屋で取ることを料理長に伝えてほしいの、お願いね」
部屋に控えていた侍女のマーサにも、すぐさま伝えに行ってもらう。
「かしこまりました、ルイーズお嬢様」
リアムとマーサを見送った後にミシェルを見ると、少し眠たそうな表情だ。
ミシェルを抱き上げて母親のベッドに上げると、眠気眼で「かあたま……」と呟きながら、母親に手を差し出した。
受け入れようとする母親に、ミシェルを預けると、安心したのかウトウトとし始めた。
「ルイーズありがとう。いつも二人の面倒を見てくれて、本当に助かっているわ」
「二人とも、私にとって可愛い弟と妹よ。好きで面倒見ているのだもの。お母様がそんな風に思わないで。ゆっくり療養して、良くなったら皆でお出かけがしたいわ。ピクニックとか楽しそう。きっと二人も喜ぶわ」
「そうね、楽しそう。二人の喜ぶ姿が目に浮かぶわ」
「…………」
母親と話しているうちに安心したせいか、ルイーズの目からほろりと涙が頬をつたった。
「ルイーズ、もっと私のそばに来てちょうだい」
自分の側に来たルイーズの手を、そっと握るエイミー。
「私の可愛いルイーズ。いつも家族を気遣い支えてくれて、本当に感謝しているわ。
ルイーズは頑張り屋さんだから、たまには自分を甘やかしてあげて。好きなものを食べて、好きなことをして……たまには家族に我儘を言って、困らせてもいいのよ」
「……うん」
ルイーズは、母親が自分を思ってかけてくれた言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
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