【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽

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第1章 ブラン家

8 姉のような存在

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 夕食後

 ルイーズは、エリーからもらったフレッシュハーブを胸に抱えて、調理場へ向かった。

「料理長、今いいかしら」

「ルイーズお嬢様、いかがなさいましたか」

「今日、友人からフレッシュハーブをもらったの。明日、食事の際に出してもらえたらと思って、持ってきたの」

 ルイーズは、料理長にフレッシュハーブを見てもらうために、紙袋を差し出した。紙袋を受け取り、袋の中を覗く料理長。

「良い葉ですね。このミントとレモングラスは、朝食の際にハーブウォーターとしてお出ししましょう」

「ありがとう。楽しみだわ」





 ルイーズが部屋に戻り学院の宿題をしていると、ノックをして部屋に入ってきた人物がいた。

「お嬢様、失礼いたします。
今日はお出迎えできず、申し訳ございませんでした」

 ルイーズのお世話をしている侍女のローラだ。母親の専属侍女で侍女長でもあるマーサの娘で、幼少の頃から姉妹のように過ごしてきた。マーサは、元々ルイーズの乳母であったため、ローラはルイーズの侍女となる前から、毎日一緒にいるのが当たり前の存在なのだ。

 今日は前々から休暇を取っており、同じ職場仲間で見習い料理人のジョージと外出していたはずだ。。

「ローラ、大丈夫よ。それに、今日は仕事もお休みのはずでしょ。ミシェルのお世話もしてくれているのだから、お休みの日ぐらいはゆっくりしてほしいわ」

「それでも、私はお嬢様の《専属侍女》を自称しているのですから。
侍女長はまだ認めてはくれませんが……」

「マーサも侍女としてのローラを認めてくれていると思うわ。でも、ミシェルの侍女が決まらないことにはね。それに、ミシェルのお世話を任せられるのはローラしかいないのよ」

「はい……。奥様と侍女長も、侍女の人数を増やすことや、ミシェルお嬢様の侍女に関してのお話し合いをなされていました」

「そう……そうよね」

「侍女としては、奥様と侍女長のご意向に従います。ですが、私個人としては、しばらくの間はこのままで様子を見ても良いのではないかと思っています。最近では、ミシェル様もご自身の思いを伝えることがお上手になってきましたしね」

「そうなのよね。今日も部屋に行けなかった私に『おへやでまってた』て言ってきたのよ。前はぐずるような仕草をしていたのに」

「えぇえぇ、分かります。その仕草も可愛すぎて、なんでもお願いを聞いて差し上げたくなってしまうのです。危険です、気を付けないとミシェルお嬢様の教育によろしくありません」

「フフッ……そうね。うん、気をつけないとね」

「さあ、お嬢様。明日はせっかく学院もお休みなのです。明日のお休みを楽しむためにも、宿題がお済みになったら、就寝の準備をなさいましょう。ところで、明日は何かご予定はございますか」

「何もないわ。一日、家で過ごそうと思うの」

「かしこまりました。明日もお庭に出るようでしたら、朝早いお時間にお声をかけさせていただきますね」

「うん、そうしてもらえると助かるわ」

「かしこまりました。それではお嬢様、夜更かしなどせずに、早くお休みになられてくださいね」

「わかったわ。おやすみなさい」

「おやすみなさいませ、お嬢様」


 ローラにミシェルのお世話も兼任してもらうようになってから、今まではローラにしてもらっていたお風呂から就寝前のやるべきことは、自分ですることにした。ローラの負担があまりにも大きいからだ。

(お母様もローラも、婚約が白紙になることをトーマスから聞いているはずなのに、話題に出さないでいてくれたわね。もし聞かれても、内容によっては返答に困るから、何も聞かずにいてくれてよかったわ)


  ♦


 翌朝、早起きをしたルイーズは、屋敷の庭園を見て回っていた。
 季節は夏ということもあり、辺り一面には寒色系の花たちが咲き揃っている。庭師トムの力作である。

 夏に合わせて植えられた東屋前のエリアでは、楚々たる風情の花たちが、清々しい朝の光に照らされている。

 夏場は水やりの時間が早いため、朝早くからトムも作業をしていたようだ。ルイーズは、トムのそばに行き話かけた。

「おはよう、トムさん」

「おはようございます、ルイーズお嬢様。何かご入用ですか」

「トムさん、この薄紫のカンパニュラを、お母様の部屋に飾りたいの」

「わかりました。用意して、マーサさんに渡しておきます」

「ありがとう。よろしくね」

 朝食の時間が近づいてきたため、ルイーズは食堂に向かう。食堂に入ると、母親が席に着いていた。顔色も良いため、ルイーズは安心したようだ。
 父親は仕事で、リアムとミシェルはまだ眠っているのだろう。

「お母様、おはようございます。今日は起き上がっても大丈夫なのですか」

「おはよう、ルイーズ。今日は気分がいいの。
それに、あたなたがくれたカンパニュラで、お部屋がとても明るくなったわ。ありがとう」

「それは良かったです」

「このハーブウォーターも美味しいわね」

「昨日、エリーからフレッシュハーブをもらったんです」

「そうなの。エリーちゃんにお礼を伝えてね」

「はい」

 窓から差し込む光の中で、母親と過ごす穏やかな朝に、幸せを感じるルイーズだった。


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