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落花
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狂気の夏は終わることなく、わたくしはその熱風に目もくらむような日々をおくることになりました。
深夜に胸騒ぎをおぼえて坊ちゃまのお部屋の近くに行きますと、やはり襖は半分ほど開けられております。なんということでございましょう。あの男が今夜も坊ちゃまのお部屋に侵入して、坊ちゃまを辱しめているのでございます。
「ああ……いや、だ、いや!」
「しっ! 坊ちゃん、静かに」
恐怖と緊張をおさえながら、わたくしは、やはり坊ちゃまのことが心配で足をすすめました。須藤が坊ちゃまに何をしているのか、気が気でなりません。
そっと、室内をうかがいますと、坊ちゃまは先日とおなじように四つん這いされておりました。下肢はむきだしで、豆電球だけに落とした薄明かりのもと、妖しいほどにその華奢なお身体をふるわせておられます。脱げきれないパジャマが腕にからみついているのが、縛られているように見えます。
「よ、よせ……!」
「しっ……。ほら、もう半分まで入っていますよ」
「くぅ……」
なんとういこと! 須藤は、先日とおなじように指を坊ちゃまのお身体に入れているのでございます。
「は……ああ」
ああ、どうすれば、いったい、どうすれば、よろしいのでございましょうか?
一度ならず二度まで、そして三度までもこのような無体を坊ちゃまに強いて、須藤という男はどこまでひどいのでございましょう。
「ほうら……もう二本は大丈夫でしょう?」
「ああ、無理だ」
いや、いや、と坊ちゃまが切ながって首を振られると、かぼそいお身体が電球のもと、雪柳色に照り輝いて、夜目にも狂おしいほどになまめかしく艶やかにのたうちます。
「無理だなんて、誰の口が言っているんですか? 坊ちゃんのここは、俺の指を二本ともうまそうに呑んでいきますよ。ほうら」
「ああ……ん。ああ……」
いつもの気位や高慢さはどこへいったのか、坊ちゃまは、聞いているわたくしの方が恥ずかしくなるような甘い声を出されています。
「練習の甲斐がありましたね。ちゃんと昼間もご自分の指で練習されたんですね?」
「……」
ぴしゃり、という肉を打つ音がまた薄闇に響きます。
「あっ!」
「訊かれたことには、ちゃんと答えないといけないでしょう?」
すすり泣きが響いてまいります。お可哀想に。今まで松林家の跡取り息子としてだいじにされ、人一倍自尊心たかく育てられた坊ちゃまに、これは本当に屈辱的な仕打ちでございます。
「坊ちゃん、練習したんですか?」
「あっ、した、ちゃんとしたから」
「それでいいんですよ」
「ああ……」
「いいですか? 明日からは昼間にも二回、いえ三回は指を入れてちゃんと練習するんですよ。指、二本ですよ」
「ううう……」
竜樹坊ちゃまは布団につっぷして泣かれてしまわれました。けれど、そうすると、いっそうお尻がたかくあがり、須藤のまえに、まるでもっと触ってほしいと訴えるようにお腰を突き出すことになってしまいます。
「……坊ちゃん、可愛いですね」
武骨そうな指で、愛しげに坊ちゃまの柔らかい肌を撫であげると、須藤はまるで花の香でも嗅ぐように、そっと坊ちゃまの臀部に顔をよせます。
「うう……。うっ……」
ぴちゃ、ぴちゃ……。
湿った、淫らな音が響いてまいり、わたくしは気を失うかと思いました。
「あ、やめ、やめろ、そこ……駄目」
湿った音は止みません。
「そこ、いや、須藤、そこは……いやだぁ……。あ、やめ、やめ、入れないで」
舌を侵入させていることが察せられ、わたくしは自分の浴衣の裾が揺れているのに気づきました。
もう、これ以上はいられません。逃げなければ、ここから去らなければ、と思うのに、今もまた身体はその場に根が生えてしまったかのように、一歩も動くことができません。
わたくしは、尚も二人から目を離せないでいるのでございます。
これは、いったいどういうことなのでございましょう。こんなときですが、わたくしは不思議な心持ちになってまいりました。
どんな淫書艶画よりもすさまじく濃厚な世界が襖一枚むこうで展開しているでしょうに、不思議なことは、それは、その光景は、美しいのでございます。浅ましく、えげつなく、畜生のような真似をしていても、それでも、なぜか薄い光のもとにあぶり出される二人の姿は、奇妙に美しいのでございます。
それは、竜樹坊ちゃまも須藤も美しいからでございましょうか。少女と見まごうばかりに美しい坊ちゃまと、危険な魅力をもつ須藤のような美青年がからみあうと、醜い行為をしていても、蠱惑的に見えるのが美の力なのかもしれません。
「ああ、もう、須藤、やめて」
「坊ちゃん、本当に可愛いなぁ。坊ちゃんの方が、奥様やお姉さんより綺麗ですよ」
「……ああ!」
須藤は四つん這いにさせていた坊ちゃんを引きずり起こすようにして仰向けにさせると、あらわになった下肢へと手をやります。
「いや」
あわてて両手で前をかくそうとする坊ちゃんの仕草は、かえっていっそう淫靡に見えます。その手も、須藤がまるで幼児をたしなめるように、ぴしゃりと打ち、隠すこともゆるさず、ふたたびあらわにさせると、検分するようにじっくりと眺めております。
夜目にも坊ちゃまは白いお顔を沸騰させるほどに赤く染められ、すすり泣かれていらっしゃいます。つねの驕慢そうな態度は消え失せ、まるで頼りない幼子のような風情にわたくしの胸は針でつかれたように痛みますが、なすすべもございません。
首をふって羞恥に泣く坊ちゃまの前を、須藤は念入りに調べ、時折指で悪戯しているようでございます。
「も、もう……やめろ、やめて」
「ここで止めたら、あんたが辛いだろう。そら、じっとしていろよ。今夜は特別に俺が奉仕してやる」
言うや、須藤は坊ちゃまの下半身に顔をうずめました。
「はあ……!」
坊ちゃまはのけぞるようにして、天井に顔を向けられました。パジャマのボタンはすべて外されているので、白い肌に野苺ような突起が光っているのがまる見えでございます。
「ふう……ん、ああ……だめ、だめぇ……」
そう抗う声はどこか甘く、桜色の唇からは淫らに唾液がもれております。
のけぞる顔も胸も薄紅色に燃え、あろうことか、なんと坊ちゃまは、腰を須藤にされるがままにまかせて、片手でご自分の胸を揉むような真似をしていらっしゃいます。もう片方の手は須藤の浴衣の肩あたりを、ひきちぎらんばかりに引っ張っております。
「あ……ううん……いやぁ……」
須藤の頭をはさんでいる足をつっぱるようにし、坊ちゃまは何かに耐えるような苦し気な顔をされております。けれど胸を愛撫する手の動きも、いやいやと振る首の動きも早くなってまいりました。
はぁ、はぁ、と浅ましく犬のように喘ぎ、耳の下あたりまで伸ばしてある榛色の髪先に汗を光らせる坊ちゃまのお姿は、生まれながらの淫婦のようで、はしたないことこのうえございません。
わたくしのなかで何かが壊れていく気がしました。
「ん……んん……須藤、いや、いや……あっ、だめ、もう、だめ……だめだぁ! ああー!」
いっそう激しくのけぞる坊ちゃまのお顔は、汗と涙でしとどに濡れておりました。けれど、感極まってとろけていく表情に、わたくしはたしかに落花の音を聞いた気がしました。
しばし、海底でまどろむような沈黙が過ぎると、やがて先に身を起こしたのは須藤の方でございました。
「坊ちゃん、上出来ですよ」
ぐったりとしている坊ちゃまを抱き起こすと、幼子をいたわるように肩を抱き、背をさすり、須藤は薄闇に笑いました。
「もうすぐ、ですよ。もうすぐ坊ちゃんは、後ろで充分楽しめるようになりますよ。それまで楽しみに待っています。そうだ、次は、坊ちゃんのために玩具を用意してきますね」
その言葉に坊ちゃまは須藤の胸に顔をうずめて嗚咽されました。
深夜に胸騒ぎをおぼえて坊ちゃまのお部屋の近くに行きますと、やはり襖は半分ほど開けられております。なんということでございましょう。あの男が今夜も坊ちゃまのお部屋に侵入して、坊ちゃまを辱しめているのでございます。
「ああ……いや、だ、いや!」
「しっ! 坊ちゃん、静かに」
恐怖と緊張をおさえながら、わたくしは、やはり坊ちゃまのことが心配で足をすすめました。須藤が坊ちゃまに何をしているのか、気が気でなりません。
そっと、室内をうかがいますと、坊ちゃまは先日とおなじように四つん這いされておりました。下肢はむきだしで、豆電球だけに落とした薄明かりのもと、妖しいほどにその華奢なお身体をふるわせておられます。脱げきれないパジャマが腕にからみついているのが、縛られているように見えます。
「よ、よせ……!」
「しっ……。ほら、もう半分まで入っていますよ」
「くぅ……」
なんとういこと! 須藤は、先日とおなじように指を坊ちゃまのお身体に入れているのでございます。
「は……ああ」
ああ、どうすれば、いったい、どうすれば、よろしいのでございましょうか?
一度ならず二度まで、そして三度までもこのような無体を坊ちゃまに強いて、須藤という男はどこまでひどいのでございましょう。
「ほうら……もう二本は大丈夫でしょう?」
「ああ、無理だ」
いや、いや、と坊ちゃまが切ながって首を振られると、かぼそいお身体が電球のもと、雪柳色に照り輝いて、夜目にも狂おしいほどになまめかしく艶やかにのたうちます。
「無理だなんて、誰の口が言っているんですか? 坊ちゃんのここは、俺の指を二本ともうまそうに呑んでいきますよ。ほうら」
「ああ……ん。ああ……」
いつもの気位や高慢さはどこへいったのか、坊ちゃまは、聞いているわたくしの方が恥ずかしくなるような甘い声を出されています。
「練習の甲斐がありましたね。ちゃんと昼間もご自分の指で練習されたんですね?」
「……」
ぴしゃり、という肉を打つ音がまた薄闇に響きます。
「あっ!」
「訊かれたことには、ちゃんと答えないといけないでしょう?」
すすり泣きが響いてまいります。お可哀想に。今まで松林家の跡取り息子としてだいじにされ、人一倍自尊心たかく育てられた坊ちゃまに、これは本当に屈辱的な仕打ちでございます。
「坊ちゃん、練習したんですか?」
「あっ、した、ちゃんとしたから」
「それでいいんですよ」
「ああ……」
「いいですか? 明日からは昼間にも二回、いえ三回は指を入れてちゃんと練習するんですよ。指、二本ですよ」
「ううう……」
竜樹坊ちゃまは布団につっぷして泣かれてしまわれました。けれど、そうすると、いっそうお尻がたかくあがり、須藤のまえに、まるでもっと触ってほしいと訴えるようにお腰を突き出すことになってしまいます。
「……坊ちゃん、可愛いですね」
武骨そうな指で、愛しげに坊ちゃまの柔らかい肌を撫であげると、須藤はまるで花の香でも嗅ぐように、そっと坊ちゃまの臀部に顔をよせます。
「うう……。うっ……」
ぴちゃ、ぴちゃ……。
湿った、淫らな音が響いてまいり、わたくしは気を失うかと思いました。
「あ、やめ、やめろ、そこ……駄目」
湿った音は止みません。
「そこ、いや、須藤、そこは……いやだぁ……。あ、やめ、やめ、入れないで」
舌を侵入させていることが察せられ、わたくしは自分の浴衣の裾が揺れているのに気づきました。
もう、これ以上はいられません。逃げなければ、ここから去らなければ、と思うのに、今もまた身体はその場に根が生えてしまったかのように、一歩も動くことができません。
わたくしは、尚も二人から目を離せないでいるのでございます。
これは、いったいどういうことなのでございましょう。こんなときですが、わたくしは不思議な心持ちになってまいりました。
どんな淫書艶画よりもすさまじく濃厚な世界が襖一枚むこうで展開しているでしょうに、不思議なことは、それは、その光景は、美しいのでございます。浅ましく、えげつなく、畜生のような真似をしていても、それでも、なぜか薄い光のもとにあぶり出される二人の姿は、奇妙に美しいのでございます。
それは、竜樹坊ちゃまも須藤も美しいからでございましょうか。少女と見まごうばかりに美しい坊ちゃまと、危険な魅力をもつ須藤のような美青年がからみあうと、醜い行為をしていても、蠱惑的に見えるのが美の力なのかもしれません。
「ああ、もう、須藤、やめて」
「坊ちゃん、本当に可愛いなぁ。坊ちゃんの方が、奥様やお姉さんより綺麗ですよ」
「……ああ!」
須藤は四つん這いにさせていた坊ちゃんを引きずり起こすようにして仰向けにさせると、あらわになった下肢へと手をやります。
「いや」
あわてて両手で前をかくそうとする坊ちゃんの仕草は、かえっていっそう淫靡に見えます。その手も、須藤がまるで幼児をたしなめるように、ぴしゃりと打ち、隠すこともゆるさず、ふたたびあらわにさせると、検分するようにじっくりと眺めております。
夜目にも坊ちゃまは白いお顔を沸騰させるほどに赤く染められ、すすり泣かれていらっしゃいます。つねの驕慢そうな態度は消え失せ、まるで頼りない幼子のような風情にわたくしの胸は針でつかれたように痛みますが、なすすべもございません。
首をふって羞恥に泣く坊ちゃまの前を、須藤は念入りに調べ、時折指で悪戯しているようでございます。
「も、もう……やめろ、やめて」
「ここで止めたら、あんたが辛いだろう。そら、じっとしていろよ。今夜は特別に俺が奉仕してやる」
言うや、須藤は坊ちゃまの下半身に顔をうずめました。
「はあ……!」
坊ちゃまはのけぞるようにして、天井に顔を向けられました。パジャマのボタンはすべて外されているので、白い肌に野苺ような突起が光っているのがまる見えでございます。
「ふう……ん、ああ……だめ、だめぇ……」
そう抗う声はどこか甘く、桜色の唇からは淫らに唾液がもれております。
のけぞる顔も胸も薄紅色に燃え、あろうことか、なんと坊ちゃまは、腰を須藤にされるがままにまかせて、片手でご自分の胸を揉むような真似をしていらっしゃいます。もう片方の手は須藤の浴衣の肩あたりを、ひきちぎらんばかりに引っ張っております。
「あ……ううん……いやぁ……」
須藤の頭をはさんでいる足をつっぱるようにし、坊ちゃまは何かに耐えるような苦し気な顔をされております。けれど胸を愛撫する手の動きも、いやいやと振る首の動きも早くなってまいりました。
はぁ、はぁ、と浅ましく犬のように喘ぎ、耳の下あたりまで伸ばしてある榛色の髪先に汗を光らせる坊ちゃまのお姿は、生まれながらの淫婦のようで、はしたないことこのうえございません。
わたくしのなかで何かが壊れていく気がしました。
「ん……んん……須藤、いや、いや……あっ、だめ、もう、だめ……だめだぁ! ああー!」
いっそう激しくのけぞる坊ちゃまのお顔は、汗と涙でしとどに濡れておりました。けれど、感極まってとろけていく表情に、わたくしはたしかに落花の音を聞いた気がしました。
しばし、海底でまどろむような沈黙が過ぎると、やがて先に身を起こしたのは須藤の方でございました。
「坊ちゃん、上出来ですよ」
ぐったりとしている坊ちゃまを抱き起こすと、幼子をいたわるように肩を抱き、背をさすり、須藤は薄闇に笑いました。
「もうすぐ、ですよ。もうすぐ坊ちゃんは、後ろで充分楽しめるようになりますよ。それまで楽しみに待っています。そうだ、次は、坊ちゃんのために玩具を用意してきますね」
その言葉に坊ちゃまは須藤の胸に顔をうずめて嗚咽されました。
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