昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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泥色の夏 二

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「あっ……、ああっーー」
 ここ数日、仁とは会話らしい会話はしていない。仁の唇からもれるのは、むなしい拒絶の声や、悲鳴のような声だけだ。
「い、いやだ、もう嫌だ……」
 望はその言葉を鼻で笑った。
「いや、いやって、言いながら、仁さん、もう三回目じゃないですか?」
 自分の言葉にひどく毒がこもっていることも自覚している。
「ほら、べたべただ。はしたない人だな、こんなに濡らして」
 濡れた手を、これみよがしに仁の鼻先に突き出してやる。
 仁の白い頬が赤く染まり、目に朝露のような涙をためて望を悲しげに睨む。うるんだ瞳は色をうしなって、薄暗い座敷のなかで青くすら見えた。
「も、もぉ、止めてくれ」
 力なく首を振りながら仁が儚い抵抗をするのを、望はせせら笑った。
「駄目だ。あなたは俺を拒むことはできない。あなたは俺の‶贄〟なのだから」
 仁は苦しげに眉を寄せるが、目には諦めと絶望がこもっている。
「ほら。今度は四つん這いになって……、いや、四つん這いになれよ」
「ああ……!」
 仁は細い両手で顔をおおう。
 それでも抗うことはできないようで、おずおずと言われたとおりの姿勢を取り、望を喜ばせた。
 白い肌がぬめるように薄暗い世界のなかで白くほんのり光る。廃水のなかにあっても真珠は光るものだと教えられたようだ。
 しなやかな仁の裸体を眺めて望は感嘆し、身をかがめて仁の尻にやさしく接吻を落とす。
「きれいだ……」
 その声に仁は恥じ入るように四肢をふるわせる。
「ほら、」
 望は、せかすように右の尻たぶを叩いた。
「うう……」
 ここ数日で、どうするかは仁に教え込んである。
 屈辱に震えながらも、仁は左脚をやや上げ、望のこのむ格好をする。
 宴の席で強いた、犬が小用を足すときの姿勢だ。
 望は舌なめずりしながら、目の前で誇り高い男が死ぬほど恥ずかしい行為をしているのを見つめていた。
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