黄金郷の夢

文月 沙織

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毒園の花 四

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 アベルは今、室の中央に立たされ、両手を天井に吊りあげられていた。室の天井にも滑車が取り付けてあったことをアベルはこのとき初めて知った。その恰好で、腰に帯布いちまい巻かれただけの姿で女人二人のまえに晒されているのだ。さらに女たちの後ろには、ひどく大柄な宦官が二人。アベルの背後にはエリスとアーミナがいる。都合、五人の異国人に無防備な姿で取り囲まれていることになる。
 大きな格子窓は全開にされており、夕暮れまえののどかな風が吹き込んできてアベルの胸をくすぐる。
 アベルは目を伏せた。 
 乙女のように恥じ入る風情のアベルを、アイーシャは逆に貪欲な好色漢のようなねばつく目で見ている。
「まぁ、女よりも肌理こまやかな肌ね」
 実際、ここ数日の過酷な境遇でやつれはしたものの、アベルの磨き抜かれた玉のような美しい身体はその美質をすこしも失くしてはいなかった。
「てっきり、陰間のようになよなよした男だと思っていたけれど、まぁ……すごいわ。うっすらと肉が割れているのね。でも、すっきりとして、しなやかで」
 こんなことを面と向かって女人に言われたのは勿論初めてだ。いや、そもそも異性に身体を眺められた経験そのものが初めてなのだ。アベルは女たちの視線が痛く、身をよじっていた。
 しかも……体内の連珠はまだそのままなのだ。巻かれた布のおかげでかろうじて隠されてはいるが、それを知られたら、と思うと身が縮こまる想いだ。
「あら、どうなさったの? そんなにお顔を赤らめて」
「ご容赦ください、アイーシャ様。伯爵はちょうど調教の途中だったのです。陛下との初夜に向けてお身体を鍛錬中だったもので」
「あら」
 エリスのわざとらしい説明にアイーシャは、サライアという侍女と目を見交わして肩をすくめて笑った。女独特の甲高い、底意地の悪さをふくめた笑い方である。主が主ならサライアもまた、エリスと気が合うだけあって性悪なところがあり、生涯奉公の身の上からか、晴れることのない憂さをため込んでおり、そのはけ口を求めていたようだ。 
 女たちの笑い声に耳朶を焼かれながら、アベルは唇を噛んだ。
 これほど完璧な男としての身体を持つ自分が、宦官や女たちのまえで嬲りものにされているのだ。 
「本日お伺いしましたのは、いずれ陛下の〝妻〟となられる伯爵様のことが心配で、およばずながら、調教のお手伝いをさせていただきたいと思いまして。ふふふふ……。お祝いにお贈りした木馬を、ご立派に乗りこなせるようにしていただきたいですわ。ふふ、あの木馬を提案したのは私ですのよ」
 言われて、アベルは最初の夜の褥の贈り主がアイーシャという筆頭寵姫だということを思い出した。
(この女が……アイーシャ)
 頬が羞恥と怒りに燃えてきた。
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