黄金郷の夢

文月 沙織

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毒園の花 三

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「な、なに……?」
「いつまで待たせるんだよ」
 アーミナがきびしい口調で言うや、エリスを押しのけてあらわれた。背後には巨体の宦官が二人いる。一人の泥色の目をした宦官と目が合った瞬間、あの夜、ディオ王の褥にあげられたとき、自分をおさえこんだ宦官だとアベルは気づいた。
「さ、伯爵、準備してください。陛下の筆頭寵姫アイーシャ様が、ぜひ伯爵にご挨拶したいとお待ちなんですよ」
 今更に丁寧な言葉づかいで言いながらも、その黒玻璃の目には不埒ふらちなものがひそんでいることにアベルは気づいて、身構えた。身体の熱が引いていく。
「さ、早くこちらへ」
「ま、待て、こ、こんな、」
 調教を受けていたアベルは全裸にちかい恰好だ。しかも、体内では出されていないサファイアの連珠がうごめいているのだ。
「しょうがないな」
 アーミナは、さも仕方ないというふうに白い帯布をアベルの腰に巻いてやり、とりあえず下肢をかくさせてやってから、待っている宦官たちに目配せをおくる。
「な、なにをする?  おい、待て」 
 アベルはすぐそこに女のまとっている香がただよっていることに気づいて、愕然とした。異性の出現は連日の調教で麻痺しかけていたアベルの神経をさらに痛めつけるものだった。
「よ、よせ、い、いやだ! ぐふっ!」
 否という暇もなく、首枷の鎖を引っぱられ咳きこんだ。あわただしく、エリスが用意してくれた皮沓サンダルを履かされ、屠殺者のまえに引きずられていく子羊のように、強引に引き立てられた。

「お初にお目にかかります。アイーシャですわ」
 孔雀の羽でつくった扇で口元をかくしながら、アイーシャという側室は艶然と微笑んだ。
「あなたが、アルベニス伯爵様? まぁ、こんな形でお目にかかるなんて」
 気取った口調で笑う女の黒真珠のような目は、だが笑っていなかった。女は、ゆたかな黒髪を高く結いあげ、頭頂から衣と同色の薄紅のヴェールを優雅にたらし、両耳には滴のかたちをした碧石エメラルドの耳飾りをきらめかせている。
 一瞬合った目を、アベルは咄嗟に閉じた。
「まぁ……、思っていたよりも……ずっと男なのねぇ。ごらんサライア、なんて見事な腹筋かしら」
 頬が熱くなる。
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