91 / 169
90、くっつきたい
しおりを挟む右手を掴んだ楓花をグイッと引き寄せて、天馬は力強く抱き締めた。
「天馬……ありがとう」
震える背中をゆっくりさすりながら、
ーーああ、間違えなくて良かった。
天馬はしみじみとそう思う。
気付いてあげられて良かった。
間違えなくて良かった……。
強引に同棲になだれ込んで勢いで結婚していたら、きっと楓花は後々後悔しただろう。
天馬と笑顔で過ごしながらも、心の片隅では『これで良かったのだろうか』と思い続ける。
天馬が椿と付き合っていた時のように……。
そんなのは絶対に嫌だ。
「ごめんな、楓花……気付くのが遅くて。もっと話を聞いてやれば良かったな。もっと早くに気付いてやれれば良かったな」
保護者の誹謗中傷で傷ついた楓花を可哀想だと同情はしても、それによって失った仕事については深く考えた事がなかった。
楓花の仕事に想いをめぐらせようともしていなかった。
「同棲だ結婚だって1人で勝手に浮かれて……俺は大馬鹿ヤロウだな」
天馬の胸に顔を埋めたまま、楓花がフルフルと首を横に振る。
「違うの……私が憶病なくせに、勝手に未練を持ってて……」
「それが当然なんだよな。わざわざ東京の大学にまで行って資格を取った仕事なんだ。お前って子供が大好きだもんな。天職だ。諦めることはない……いや、続けるべきだ」
楓花が顔を上げ、濡れた瞳で不安げに見つめてくる。
「私……また働けるのかな。まだ怖いし自信が無いのに……大丈夫なのかな」
「……大丈夫になるよう、俺が手伝う。言っただろ?楓花は1人じゃない」
天馬は楓花の額に口づけると、またギュッと抱きしめた。
「お前だけが頑張る必要はないんだ。どうするのが一番いいのか、これから一緒に考えていこう」
「うん……ありがとう」
ーーああ、抱きたいな……。
こんな時に不謹慎だとは思うけれど、無性に彼女を抱きたいと思った。
やっと最後の薄い壁が取り払われた。取り払ってやる事が出来た。
自分はちゃんと恋人として彼女の気持ちを汲み取ってやることが出来た……それが本当に嬉しくて感動している。
ーーだけど、今はそうするべきでは無い……よな。
天馬は楓花の身体を離し、頭にポンと手を乗せて顔を覗き込んだ。
「お腹空いてないか?何か食べに行くか? それとも甘いものでも……」
「ううん……」
予想に反して楓花が首を振った。
「それじゃあドライブでも……」
「ううん、2人っきりになりたい」
「……えっ…」
「天馬と2人きりになりたい。……ギュッてくっつきたいの……」
ウルウルした瞳で、頬を赤く染めて申し訳なさそうに言われて……頭が一瞬で沸騰した。
「駄目?……」と楓花が言い終わる前に、手首をグイッと掴んで歩き出していた。
「天馬?!」
「……マンションに行こう……すぐに抱きたい。いいだろう?」
コクコクと頷く姿を見て、フッと頬が緩んだ。
ーーああそうか、これが阿吽の呼吸か。
辻には今度本当に焼き肉を奢ってやろう。いや、たこ焼き機でも買ってやるか……。
たこ焼きパーティーをするのなら、道具は多い方がいい。
そんな事を考えながら、天馬は愛車をフルスピードで発進させた。
11
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ドクターダーリン【完結】
桃華れい
恋愛
女子高生×イケメン外科医。
高校生の伊吹彩は、自分を治療してくれた外科医の神河涼先生と付き合っている。
患者と医者の関係でしかも彩が高校生であるため、周囲には絶対に秘密だ。
イケメンで医者で完璧な涼は、当然モテている。
看護師からは手作り弁当を渡され、
巨乳の患者からはセクシーに誘惑され、
同僚の美人女医とは何やら親密な雰囲気が漂う。
そんな涼に本当に好かれているのか不安に思う彩に、ある晩、彼が言う。
「彩、 」
初作品です。
よろしくお願いします。
ムーンライトノベルズ、エブリスタでも投稿しています。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる