強くて弱いキミとオレ

黒井かのえ

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公平の本音1

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 相変わらず、自分と一緒に着替えも風呂もできない薫。
 早い時間に公平は風呂に入るが、裏音羽の生徒たちのほとんどは夜の遅い時間に入る。
 一緒に入ったところで、どうせ二人なのだ。
 
 体の変化を公平以外のヤツに見とがめられる心配などないのに、薫は頑として一緒に入ろうとしなかった。
 理由を聞いても薫は「俺にもオトコのプライドっつーもんがあんだよ」としか言わない。
 困ったことに最近、公平はそんな薫にキスをしたくなる。
 
 たとえば今がそうだ。
 
 薫は公平とは時間をずらせて風呂に入ってきたばかりだった。
 体からは、まだ湯気がたっている。
 きっと髪の毛は乾かしたばかりで、ほかほかに違いない。
 天然パーマの短い髪がくるくるっとなっている。
 いかにも触り心地が良さそうだ。
 
「なんだよ?」
「は?」
「さっきからじろじろ見てよ」
 
 公平はベッドの上に横になり、片手で頭を支え、薫のほうを見ていた。
 薫は公平に背を向けていたので気づかれていないと思っていたのだが。
 
「じろじろなんて見てねぇよ」
 
 見てたけど。
 思いながら、公平はふと聞いてしまった。

「お前さぁ、俺ンこと、好きなんだよな?」
 
 聞いてしまった自分にびっくりして、体を起こす。
 薫は振り向きもせず、軽い調子で答えた。
 
「だったら?」
 
 それが気にいらない。
 本気かどうかを疑っているわけではなく、もっとこう。
 
「ふぅん」
 
 誘うというか、強引にというか。
 熱心さがあってもいいような。
 強引にこられると腹を立ててしまうかもしれないのに、矛盾している。
 けれど、平気そうな薫の態度が面白くないのも事実だった。
 
「なに、コオくん、疑ってんのかよ?」
「そういうわけじゃねぇよ」
 
 薫が振り向く。
 唇をとがらせ、むすくれていた。
 
 そうか、と思う。
 
 自分が思うほど、薫は平気ではないのだ。
 まぁ、平気ならば着替えくらい一緒にしてもおかしくはない。
 公平は内心、喜んでいる自分にまたしても驚く。
 
「キスしてぇとかって思ってんか?」
 
 ますます薫は、むうっと不機嫌そうに顔をしかめた。
 
「当たり前だろが」
 
 正直に答える薫をかわいいなと思う。
 いつでもストレート。
 直球勝負。
 そういうヤツなのだ。
 結城薫というヤツは。
 
「じゃ、しろよ」
「へ?」
 
 薫は、きょとんとした顔で棒立ちになっている。
 ベッドから立ち上がり、公平はパジャマのボタンを外しだした。
 
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、コオくん!」
 
 その手を薫がつかんで、押しとどめた。
 
「なにそれ。どういうこったかわかんねぇ。なに、いきなり」
 
 つかまれたまま無理に手を動かし、ボタンを外し続ける。
 
「マジ、無理! そんなんされたら、俺ぁ、無理だから!」
 
 手を止め、薫を見ると、ひどく情けない顔をしていた。
 
「無理ってなにが?」
「だから……」
「まさか裸見ただけでイっちまうとか言わねぇよな」
「ねぇよ!! あれから俺だってイロイロ……っ」
 
 言ってしまってから、薫はハッとした顔で口を閉じる。
 かちんと固まってしまっている薫に笑いかけた。
 
「なんだよ、イロイロって。やらしいヤツ」
「意地悪ィぞ、コオくん……」
 
 唇を尖らせる薫に、頭を軽くこづきながら言う。
 
「どんくらい俺をオカズにしてたんだ、コラ。正直に言えや」
「…………ほぼ……」
「毎日かよ、おい」
 
 黙りこむところをみると、どうやらそうらしい。
 不思議に怒りは沸いてこなかった。
 それどころか妙に微笑ましくなる。
 薫は自分に無理強いをしないため、一人エッチでなんとか夜をしのいでいるのだ。
 
「お前、そういうトコ、かわいいよなぁ」
「なんだよ、ソレ。バカにしてんか」
「してねぇよ」
 
 そっと薫の頬に手を伸ばす。
 薫は一瞬だけ公平のはだけた胸に視線を投げてから、慌てて顔へと視線を移した。
 
「別に見たけりゃ見てもかまわねぇし、触りたけりゃ触ってもかまわねんだぜ?」
 
 頬から髪に手を移し、くしゃくしゃと撫でる。
 思ったとおり、暖かく柔らかで触り心地が良い。
 
「コオくん……誘ってんのかよ」
「だったら?」
 
 急に薫が真剣な眼差しで公平を見つめる。
 こちらの真意をはかりかねているのかもしれない。
 
「俺に惚れてる?」
 
 だったら?と答えようとしてやめた。
 真剣な薫。
 真剣に応えるべきだと思った。
 
「わからねぇな」
 
 答えにみるみる苦しそうな顔になる薫。
 言葉足らずで薫を傷つける気はない。
 
「バカ、最後まで聞け」
 
 慌てて言葉をつけ加える。
 
「わからねぇけど、俺がお前に触りてぇの。キスもしてぇの」
 
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