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松葉の心境
しおりを挟む「落ちついたねぇ」
どうだか。
梅野の言葉に松葉は内心そう思っていた。
やはり梅野はまだ子供なのだ。
二人の間の微妙な空気には気づいていない。
薫の気持ちを知っているせいかもしれないが、松葉は二人の間の空気が微妙に変化しているのを感じ取っていた。
「公平さんも穏やかだしなぁ」
安心したようにつぶやく梅野。
その意味はわかる。
二人が薫と公平を探しあてたとき、公平の手は血まみれだった。
膝をついている佐安治の周りには黒服たちが転がっていた。
ひどい状態の佐安治を一人、庇っていたのは竹沢だ。
目の上は切れ、血を流していたが、佐安治の前から退こうとしなかった。
その竹沢の体を公平は平気で蹴り上げた。
見た瞬間、二人は凍りついた。
公平にそんな真似ができるとは思ってもいなかったからだ。
今までの公平はいつも冷静で穏やかだった。
なにが公平をキれさせたかは明白。
地面に倒れていた薫。
公平にとって薫は、二人が思っていた以上に特別な存在だったのだろう。
松葉は前へ出ようとした梅野を制し、自分が前へ出た。
ヘタに近寄れば梅野でさえもぶちのめしかねない。
その時の公平はそんなふうだったのだ。
松葉はぶちのめされて当然の竹沢のことは放っておき、公平のそばを通り過ぎた。
薫のそばに膝をつき、体を助け起こした。
うめきながら意識を取り戻した薫に松葉は公平を止めるよう頼んだのだ。
小さな小さな薫の公平を呼ぶ声に、公平はネジが切れたように止まった。
意識を失っているらしき竹沢の襟首を離し、薫に向かって走りよる公平はいつもの公平に戻っていた。
「小梅、お前、公平さんのこと、怖かねぇの?」
「別に」
すこんと言われて、松葉は目を見開く。
あの姿には松葉でさえ引いてしまうものがあった。
キれた公平の姿。
思い出すと恐怖を感じずにはいられない。
「俺は公平さんのこと怒らせたりしねーもん」
やはり梅野は子供なのだ。
でも、それがちょっと羨ましい。
いろいろなわずらわしい感情に引きずられずにいられる梅野。
笑いながら、こんなふうでは梅野と色艶のある話などまだまだできそうにないなと思っていた。
薫と公平の関係が今までと変わってしまったことを知った時、梅野はどうするのだろう。
どう感じるのだろう。
その時には色艶のある話ができるようになっているだろうか。
「かわいい顔して鋭いコト言うねぇ」
「かわいいゆうな!」
梅野が怒鳴る。
松葉は怒鳴られても笑っていた。
まだ子供な梅野とじゃれあっていたかった。
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