夏の扉が開かない

穂祥 舞

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3 7月下旬

深夜二時のメッセージ①

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 岡本とよく話して、気持ち良く酔っ払って帰った泰生は、帰宅してからついリビングでうつらうつらしてしまった。
 次男がもう夏休みに入っていると知る家族は、薄情にも彼を起こさず先に寝ていた。だから泰生が夜中の1時過ぎに目を覚ました時、リビングの明かりとエアコン以外は全て消されていて、泰生は自分がどこにいるのか一瞬わからなかった。
 冷たい家族に少しムカつきながら、泰生は一度部屋に行く。きっと兄もそう思っているのだろうが、1つの部屋をきょうだいで使うというのは、なかなか気を遣う。小さい頃、2段ベッドで寝ていた泰生と友樹は、現在カーテンをパーテーションにしていた。
 泰生はなるべく音を立てないようにしながら、タンスから下着を出した。酔いは醒めているので、シャワーを浴びた。
 騒音対策の弱い風のドライヤーは髪を乾かすのに時間がかかり、泰生がベッドに入ったのは2時近かった。目が覚めてしまった感じがあり、音楽でも聴こうかと思った時、枕元のコンセントに繋がれたスマートフォンがぱあっと光った。
 時間が時間だけに、泰生はどきっとした。こんな夜中に連絡を寄越す友人知人は基本的にいないのだ。それで余計に気になったので、泰生はスマートフォンに手を伸ばす。
 井上旭陽からのRHINEだった。泰生の心臓がどくん、と鳴る。

「ご無沙汰しています。試験お疲れです。これが終わったら、長谷川に嫌な思いをさせたことをどうしても謝りたいと思っていました」

 旭陽のメッセージは、今すぐ泰生の目に触れる前提のものではなさそうだった。泰生がトークルームを開いたので既読通知がついたはずだが、旭陽は気づいていないのだろう、続けて吹き出しが現れた。

「もう長谷川とこれまでのように毎日顔を合わせることができないと今さら実感して、告ったことや、その後にあんな態度を取ったことを後悔しています。長谷川が俺をブロックする前に、それを伝えたかっただけです」

 泰生は耳の中で鼓動が響くのを聞きながら、言葉を探した。もう気にしていないと打ちこもうとして、そんな適当ではいけないと思い直す。もっと、自分の気持ちにより近い返事をしたい。
 石田牧師の言葉を思い出した。もし縁があるなら、絶対に関係を修復するチャンスが来る。
 これはチャンスなのだろうか。ならば尚更、真摯に向き合うべきだった。そう考えるほどには、泰生にはまだ、旭陽という友人を失うことへの未練があった。

「こんばんは。試験お疲れさまでした。ちょっと寝そびれていたので、RHINE見ました」
「告られたことはともかく、その直後の井上の振る舞いが腹立たしかったのは事実です。でもよく考えてみると、俺だって同じ態度を取るかもしれないし仕方ないと思いました。だって、自分を振った人間に、にこにこしてやる義理なんか無いから」
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