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一学期

ある日の誕生会

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 仁の誕生会が始まると場はとてもカオスなことになっていた。
 ある者たちはものすごい量を食べているイケショタと同じメニューを同じ速度で食べ惨敗し、むしろと食べさせ続けたらどうなるんだと色んなものを勧めていたり。
 ある者たちは先生を取り囲み、おしゃれなスーツを着ていることをいじっている。その中には瀧男も混じっており、それを見た遥は普通に仲のいい友達がいるんだと少し安心していた。
 しかし、やはり問題も起こっている。やって来ていた数少ない女子にがっつくように群がる男子たちだ。女子は一歩も動くことなく男子たちが取って来てくれた料理を食べている。というより動けないのだ。それをうまく利用している女子もいれば迷惑そうにしている女子もいる。
 仁は主役だというのにスタッフさんたちと次の動きの確認などをしながら、から見に来た友達と談笑もこなしていた。いや、主催者としては当然の姿勢なのかもしれない。しかし、細かい所までは気を回している余裕がない様で遥と順は心配だった。

「順、ちょっといいか?」
「んぐ? おっけぃ。任せとけ」

 友達の誕生会を嫌な思い出として帰ってほしくない。仁が主催者として立ち回るなら親友の自分たちも同じような立場に立つべきだろう。

「よぉ、お前ら楽しそうだな……そんなに食い物を渡すのが楽しいならオレにもってこいよ。オレはメロンパンでいいや……なぁ?」
「は、はひ……え、でも、メロンパンなんて」
「メロンパンな?」

 といっても遥に出来ることはない。順の迫力と脅しで女子の周りから追っ払っていく。遥は迷惑そうにしている女の子を見つけては順に報告する役割である。

「順、つぎはあっち、俺たちの学校の一番の不良を名乗っている奴が絡んでる」
「へぇ、それはきっとオレの知り合いだな……みたことねぇやつだけど、あいさつにいってやらないとな」

 見たことがないと言っていたが……あいつらは仁が生徒会長になってから絡みに来た下級生である。仁が呼んだり、選んだりした友達や知り合い以外は希望者を抽選にした結果、紛れ込むことができたのだろう。可愛そうにたぶん、そろそろ退場だ。

「ひょっとして遥さんですか?」
「ん? えーっと……そうだけど、誰だっけ?」

 絡まれて迷惑そうにしていた女子の1人が話しかけてくる。遥の女性の知り合い、顔見知りと言えば小学生か中学生の同級生ぐらいなものである。しかし、そのどちらにもこの女子はいなかった気がする。

「塾で冴木さんと一緒の望月っていいます……ごめんなさい、冴木さんは塾で遥、遥としか言ってなくて……名字の方を知らなくていきなりなれなれしかったですよね」
「いや、それは問題な……まって、仁、塾で俺の名前連呼してるの? 怖い」

 以前、仁と一緒の塾へ入るべきかと仁に相談した時は塾はただ勉強するところだから、友達と一緒だからといって遊べるわけでもないし、静かに勉強するだけだと言っていたが……遥は困惑するしかなかった。

「休み時間の息抜きとか、塾終わりに少しお話することがあってその時に話すと遥さんの話しか聞かなくて」
「あ、あー、なるほど、そっか」
「私としては冴木さんのことをもっと知りたいなって思ってるんですけど、話を聞いてると遥さんのことが詳しくなっていくばかりで……だから、遥さんだって一目でわかったんですけど」

 目の前の女子が頬を赤らめる。いくら鈍感な男でもこの反応でわかるだろう。望月さんは仁のことが好きなのだと……遥もそれを察するのに時間はかからなかった。彼女が持っている紙袋の中には綺麗に包まれたプレゼントらしきものも見える。ちゃんと仁を祝うつもりでこの会場に足を運んでくれている人がいて遥は心の底から嬉しかった。

「仁の所いかなくても大丈夫か?」
「……悩んでるんです。振られた女からのプレゼントって困らないのかなって」

 しかし、事態は遥が思っているよりも先に進んでいたようだ。望月さんはすでに仁への告白を済ませていた。そして、振られていたようだ。
 仁はそういうことを遥に話すことはない。しかし、知らないところで仁はやっぱり女子にモテていて告白されているのだろう。自分が仁の心を奪っていることで敵わなかった恋があることを目の前で見せつけられた遥は言葉に詰まってしまう。

「そ、そっか……えっと、うん」
「なので、ぎりぎりまで、帰る時間になるまで悩もうと思います。わ、渡すことはきまってるんですけど……な、なんて言ったらいいかとかその辺りを」
「なんか、できることあったら協力するよ」

 そんな不思議な出会いのすぐあと……クラスによる出し物が始まるのだった。
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