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一学期

とある日の誕生会直前

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 遥と順、ドドは仁の誕生会が開かれる予定のホテルへとやって来ていた。同じ年頃の男たちであふれかえるホテル前……どういうわけか、会場いっぱいになるまで参加者が集まり、かなり大変なことになっていた。
 仁いわく、何故か塾の人達も知っており招待することになったらしく知らない男子や女子も参加することになり……更にそのことを知った遥のクラスメイトや同じ男子校に通う者たちがめちゃくちゃ気合を入れておしゃれをしてきていた。

「……見たことはあったけど入ったことない場所だよなここ……オレ変じゃない? つまり出されたりとかないよな」
「順はいつもと変わらないから安心しろ。他の奴らは全力で色気づいてて、面白いことになってるな」
「塾に行っている子たちだから、真面目な子が好きなんじゃないかと思って引率に着ていた先生の手伝いを率先してやる人、むしろ反抗して調子に乗って早速ちょっかいをかけようとしている人……女子の参加は1割にも満たないので男たちに群がられそうですね」

 ドドの冷静な分析に当てはまらない順と遥はさくさくと受付へと行って名前を告げるとエレベーターまで案内された。仁の好意で先に会場に入ってもいいということになっているので他の人達に悪いなと思いながらも遥たちは一足先へ会場へと向かう。
 会場は1人の高校生の誕生日を祝うだけとは思えないほど広く、料理を乗せるためのテーブルもかなりの量が用意されていた。立食形式なので椅子などは端っこに最低限しか用意されていない。

「よかった、来てくれたか……もう現実感がなさ過ぎて僕は夢の中にいるんじゃないかと思っていたが、見知った顔があると安心するな」
「おう、今言う事でもないが……誕生日おめでとう」
「と、そうだったぜ! おめでとう! クラスで軽い出し物もしてやるから期待してろよな」
「聞きたくなかった……さっき、担当の人に聞かれた流す予定の音源がまだ届いていないっていうのはそれか……」
「げっそうだった。ちょっといってくるわ」

 順はやっちまったなんて表情をしながら、その担当を探しに行ってしまう。お誕生会ということで軽くプログラムが用意されていた。仁としては食事したらすぐに解散でもよかったみたいだが……担当の人がせっかくだからと出席者に声をかけて軽い出し物やらをやることに決まったのである。
 その出し物の中に遥の手紙の朗読もあるのは言うまでもないだろう。

「人生で一回あるかないかの体験だし、ここまで来たら楽しんだらどうだ?」
「そう簡単に楽しめる性格ではないって知ってるだろ。さて、僕も最終調整だ……頑張ってくるよ」
「おう、頑張ってこい。応援してるから」
「あぁ、期待しててくれ」

 仁はこの面倒な状況を両親の手を借りず1人でなんとか回していた。これは仁の希望でもある。楽しむことはできないが、自分の経験にしてしまおうという勉強好きな仁らしい選択をしていた。きっと将来、小学校や中学校、高校の時の同窓会も仁が主催者になるのだろうと遥は確信した。

「それで……ドド、この状況はどこまで織り込み済みだ?」
「正直、想定外です。確かにこのホテルを抑えたのはボクですし、ここに来るように仕向けたのもボクですが、この人数がかかわるとは思っていませんでしたよ。ボクは恋愛してほしいんですから、できれば3人きりにしたいんですから」
「この会場で3人きりにするなよ。こんな広い所で3人だけって何するんだよ。おにごっことかか」

 何がどうしてこうなったのかはわからないが……遥としては親友の誕生日をここまで盛大に行えるのであれば苦労した甲斐がある。これからも課題は厄介だがドドに付き合ってやろうという気も起こる。

「でも、期待しててくれって言ってましたけど……ひょっとして仁様、遥様にこの大きなステージで告白をっ!?」
「ん、んなわけあるかっ。ふ、普通に料理とかを期待しててくれって事だろ」

 ドドの言葉にどきりとする遥……とっても不整脈である。そんなことはない、ないはず、恋愛的高感度100いってないんだよな? そうなんだよな? 誕生会がはじまるまでずっと悶々としてしまう遥だった。
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