103 / 140
第103話 夏あと
しおりを挟む
いよいよ開幕。
千野達の最後の夏大会は灼熱のまま、始まった。
初戦は無名の弱小校を大差で破り、二回戦、三回戦と破竹の勢いで勝ち進んだ。
そして四回戦は私立の名門高校だ。
甲子園に行くほどではなかったが、東京では知らない者がいないほど有名な学校だった。
祐輝はスタンド席でメガホンを叩きながら兄貴分の最後の夏を心から応援していた。
ここまで勝ち進んだのも祐輝が初戦の前日に言った言葉が影響しているのか。
だが相手は私立の名門。
試合が始まると「これが名門だ」と言わんばかりにエース大川の投球に食らいついてくる。
プロ注目選手だった大川を相手に引けを取らない。
蝉の鳴き声が祐輝達の応援に花をもたらしている。
試合は1対0のまま、最終回を迎えようとしていた。
1点でも取れば同点で延長。
2点取れば9回裏を抑えて勝利。
0点なら負け。
先頭打者が三振に倒れると次の打者も内野フライに倒れた。
ツーアウトを迎えると練馬商業ベンチから重苦しい雰囲気が漂い、相手高校ベンチからは勝利のムードが漂い始めた。
しかし祐輝はスタンドからじっと見つめていた。
1対0でツーアウトという状況において打席へと歩いていく漢の背中を。
千野が打席に入った。
野球の神様が「最後に足掻いてみせろ」と言っているかの様だ。
千野が3年間このメンバーを引っ張ってきたのだ。
3年間の集大成は千野が決める。
ホームランを打てば試合は振り出しに戻る。
祐輝の表情には不安の頭文字すらなかった。
「打つに決まってるだろ。」
「早く引退しろ・・・」
2年生が小さな声でつぶやくと祐輝は今にも殴り掛かりそうな表情で睨みつけた。
「気持ちはわかりますよ先輩」と淡々と2年生に向かって話しているが祐輝の表情は険しさを増していく一方だ。
そして次の瞬間には体が勝手に動いていた。
「不謹慎な事言ってんじゃねえよ。 同じ立場なら嬉しいのか?」
祐輝は2年生の胸ぐらを掴んでいた。
スタンドが騒然となっている中で祐輝は2年生を座らせると千野の背中に向かって叫んだ。
「まだ終わってねえぞ!!!」と。
すると千野はバットを高々と上げて打席へ入った。
打席から祐輝に向かってバットを向けた。
「打ってこいよおおおお!!!!!」
もう自分にできる事はこれしかない。
連戦で疲労が溜まる大川の代わりにマウンドに立つ事もできない。
できる事は信じた兄貴分の背中を叩いて応戦する事しかできない。
そう考えると祐輝の瞳には涙が溜まっていた。
打席に入った千野に投じられたストレート。
フルスイングでバットを振り切ると快音と共に外野へと飛んでいった。
スタンドは総立ちになり打球を見ているがレフト線を切れてファール。
そして2球目もストレートが投げられるとヘルメットが地面に落ちるほどのフルスイングで空振り。
ツーストライクに追い込まれた。
野球はここからだ。
千野を信じる祐輝はじっと見ていた。
そして3球目。
相手投手が投げたボールはふんわりと曲がるカーブだった。
タイミングがずれた千野のフルスイングはバットに上手く当たらずに外野にふらふらっと上がった。
そして試合は終わった。
その時祐輝は。
滝のように涙を流していた。
千野達の最後の夏大会は灼熱のまま、始まった。
初戦は無名の弱小校を大差で破り、二回戦、三回戦と破竹の勢いで勝ち進んだ。
そして四回戦は私立の名門高校だ。
甲子園に行くほどではなかったが、東京では知らない者がいないほど有名な学校だった。
祐輝はスタンド席でメガホンを叩きながら兄貴分の最後の夏を心から応援していた。
ここまで勝ち進んだのも祐輝が初戦の前日に言った言葉が影響しているのか。
だが相手は私立の名門。
試合が始まると「これが名門だ」と言わんばかりにエース大川の投球に食らいついてくる。
プロ注目選手だった大川を相手に引けを取らない。
蝉の鳴き声が祐輝達の応援に花をもたらしている。
試合は1対0のまま、最終回を迎えようとしていた。
1点でも取れば同点で延長。
2点取れば9回裏を抑えて勝利。
0点なら負け。
先頭打者が三振に倒れると次の打者も内野フライに倒れた。
ツーアウトを迎えると練馬商業ベンチから重苦しい雰囲気が漂い、相手高校ベンチからは勝利のムードが漂い始めた。
しかし祐輝はスタンドからじっと見つめていた。
1対0でツーアウトという状況において打席へと歩いていく漢の背中を。
千野が打席に入った。
野球の神様が「最後に足掻いてみせろ」と言っているかの様だ。
千野が3年間このメンバーを引っ張ってきたのだ。
3年間の集大成は千野が決める。
ホームランを打てば試合は振り出しに戻る。
祐輝の表情には不安の頭文字すらなかった。
「打つに決まってるだろ。」
「早く引退しろ・・・」
2年生が小さな声でつぶやくと祐輝は今にも殴り掛かりそうな表情で睨みつけた。
「気持ちはわかりますよ先輩」と淡々と2年生に向かって話しているが祐輝の表情は険しさを増していく一方だ。
そして次の瞬間には体が勝手に動いていた。
「不謹慎な事言ってんじゃねえよ。 同じ立場なら嬉しいのか?」
祐輝は2年生の胸ぐらを掴んでいた。
スタンドが騒然となっている中で祐輝は2年生を座らせると千野の背中に向かって叫んだ。
「まだ終わってねえぞ!!!」と。
すると千野はバットを高々と上げて打席へ入った。
打席から祐輝に向かってバットを向けた。
「打ってこいよおおおお!!!!!」
もう自分にできる事はこれしかない。
連戦で疲労が溜まる大川の代わりにマウンドに立つ事もできない。
できる事は信じた兄貴分の背中を叩いて応戦する事しかできない。
そう考えると祐輝の瞳には涙が溜まっていた。
打席に入った千野に投じられたストレート。
フルスイングでバットを振り切ると快音と共に外野へと飛んでいった。
スタンドは総立ちになり打球を見ているがレフト線を切れてファール。
そして2球目もストレートが投げられるとヘルメットが地面に落ちるほどのフルスイングで空振り。
ツーストライクに追い込まれた。
野球はここからだ。
千野を信じる祐輝はじっと見ていた。
そして3球目。
相手投手が投げたボールはふんわりと曲がるカーブだった。
タイミングがずれた千野のフルスイングはバットに上手く当たらずに外野にふらふらっと上がった。
そして試合は終わった。
その時祐輝は。
滝のように涙を流していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる