青春聖戦 24年の思い出

くらまゆうき

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第102話 最後の夏へのカウントダウン

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学校生活はけんせーや仲間とふざけながらも授業を受ける毎日。


そして部活はというといよいよ3年生の甲子園への最後のチャンスである夏の大会が始まる頃だった。


7月に始まる夏の大会が迫る6月の梅雨。


雨でグラウンドが使えない日々が続いたが野球部は室内で練習をした。


だがそれは3年生とかなり近い距離に置かれるという事だった。


当然暇つぶしの対象にされて一発芸やいじめの餌食にもされた。


千野の舎弟だった祐輝はいじめられなかったが、けんせーはひたすら一発芸をやらされて、大熊や京介など他の1年生は2年生を殴るなどくだらない事をやらされていた。


1年生が先輩である2年生を殴るなんてあってはならないが、3年生の命令なら殴るしかなかった。


そんな光景を祐輝はただ見ていた。


隣では千野が筋トレをしながら「もっとやれ」と笑っていた。


水筒とタオルを持ったまま黙って見ている祐輝は複雑な感情を持っていた。


そんな日々が続いた。


1、2年生も3年生からの驚異が終わる最後の夏大会は楽しみだった。


だが祐輝だけは違った。




「兄貴ともお別れかあ。」




初めて憧れた男と共に遠征に出たり、牛丼をかき込んだ日々は楽しかった。


だがそれも間もなく終わってしまう。


そう考えると寂しかった。


しかし時間とは残酷なまでに経過していく。


梅雨が終わり、カラッとした暑さが少年達の肌をこんがりと焼き始める蝉が鳴く季節が来た。


抽選会が行われて、最後の夏の対戦相手も決まった。


くだらないいじめを楽しんでいた3年生達の表情がいよいよ真剣な眼差しになった。


明日はいよいよ開幕だ。


決戦前夜ともいえる最後の練習は軽く調整をするだけで直ぐに終わった。


その日の晩にSNSを見ると3年生達が今日までの青春を振り返って語り合っていた。




「いよいよだな。」
「もう引退かあ。」
「あっという間だったな。」





祐輝は3年生のやり取りを携帯で見ていた。


怖いだけの彼らにも青春があり、努力があった。


後輩をいじめるのは不良学校の伝統なのかもしれない。


祐輝は家でゲーム画面を止めたまま、携帯を見ていた。




「あいつらにも悪い事したかな?」
「後輩?」
「俺らの事嫌いだったろうな。」




自覚はしていた。


だが不良学校の伝統もあり、自分達も先輩にはひどい目に合わされてきた。


同じ事をしない様に後輩には優しくしようと思えないのは彼らがまだ世の中に出た事のないお山の大将だという事か。


学校では先輩で大柄に振る舞えても社会に出れば無知な若造。


彼らが苦労するのはこの先の未来だ。


だが青年達は気づかなかった。


この時は。


それでも心のどこかで後輩にしてきた悪行を思うと罪悪感を感じると同時に自分達が初戦敗退をして早く引退してしまえと後輩達が思っている事も自覚していた。




「まあ後輩に嫌われるのが俺らっしょ。」
「あいつらはいいよ。」




諦めた様な会話をしている先輩のSNSを見つめる祐輝は歴史ゲームの画面に映る織田信長を見ていた。


先輩が言う事は本当か。


偉大な存在がいなくなるという事は残された者に大きな衝撃と悲しみを与える。


本能寺で散った織田信長は想像しただろうか。


家臣達が本気で殺し合う世界線を。


偉大な殿の敵を討つ。


信長様亡き天下を治めるのはわしだ。


そんな多くの人間の感情が爆発した瞬間だった。


それがカリスマ性であり、偉大だという事だ。


祐輝は諦めかけた先輩達に「ふざけんな」と怒鳴りたかった。


書き込みに千野だけは参加していなかった事も祐輝には思う所があった。


そしてたまらず書き込みに1年坊主が割って入った。




「怖かったですよ。 でも偉大でした。 どうか最後の夏は悔いのない様に。 自分達は見ています。 強い先輩の夏を。」





1年坊主にしては上出来だった。


青年達の背中を押すという大役を見事にやってのけた。


傍観を続けた千野がやっと書き込んだ。




「つーう事だ。 勝つぞお前ら。」




最後の夏が今走り出す。
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