129 / 207
2部
129話 姉
しおりを挟む
ナルガが妊娠してから、ハローの生活はより鮮やかになっていた。
家事の殆どをこなし、仕事の成果も向上して、家族サービスも欠かさない。生まれてくる新しい家族のために、それはもう駆けずり回っていた。
「おいハロー、そんなに張り切ってはバテるぞ。まだ腹が膨らんでいないから、家事くらい出来る」
「全っ然バテないよ、むしろ楽しくて仕方ないんだ。それに……旦那として嫁に恰好つけたいし。妻にはモテたいんだ」
「お前な……もういい好きにしろ、だが多少は仕事を寄越してもらうぞ」
ナルガは物凄く照れていた。妊娠をきっかけに、二人の仲はより深まっていた。
加えて、リナルドへ向けられる愛情も、より大きな物になっていた。
ハローは毎日リナルドを抱きしめ、抱っこして、時間が空いたら遊び相手を務めた。ナルガもリナルドへの愛情表現を欠かさず行っていて、リナルドは幸せで溺れそうになっていた。
同時に、こんなに幸せでいいのだろうかと、リナルドは不安を感じていた。
自分が幸せを感じる度に、少女の顔が浮かんでくる。名前を知らない少女を思い浮かべる度に、大きな罪悪感が湧き出てくるのだ。
僕だけが幸せになるなんて許されない。罪悪感のせいで、未だに笑う事も出来ない。
いつも遊んでくれるミコにも、優しくしてくれるハローとナルガにも、申し訳なくて胸が苦しくなる。幸せが苦痛になって、リナルドは少しずつ追い詰められていた。
ハローとナルガが忙しい隙に、一人で木の下に座り込み、あの少女に思いを馳せる。リナルドにとって大事な人のはずなのに、思い出そうとすると強い拒否反応が出てしまう。
「誰なんだろ……あの人……」
「あの人って?」
ミコに顔を覗き込まれ、リナルドはびっくりした。
「なんでもないよ、ミコもどうしたの?」
「リナルドを探しに来たの! アリスが美味しいの作ったから呼んでこいって!」
どうやらミコは、昼食時に遊びに来たようだ。ミコはリナルドの手を取って、ぐいぐい引っ張ってくる。勢いが良すぎて、リナルドは転んでしまった。
その拍子に、手が離れた。
『やだ! やだ! やめて! リナルドを返して!』
そしたら、あの少女の声が響いた。
脳裏に、少女の顔が浮かんでくる。いつも優しく微笑んでいたはずの少女は、泣いていた。屈強な兵士に腕を掴まれて、身動きが取れずにいる。
リナルドは必死に少女へ腕を伸ばして、助けを求めていた。でも、僕はこの後……この後……!
「あ……うあ……やだ……やだ! やだぁぁぁぁぁっ!」
リナルドは頭を抱え、悲鳴を上げた。体中が痛くなって、リナルドは悶絶し、激しく嘔吐した。
「リナルド? リナルド!? アリス! リナルドが大変!」
「何? おい、おいリナルド!?」
ナルガが駆け付け、抱き上げた。リナルドは泡をふいて痙攣し、
「たす、け……て……おね……ちゃ……」
気を失った。
家事の殆どをこなし、仕事の成果も向上して、家族サービスも欠かさない。生まれてくる新しい家族のために、それはもう駆けずり回っていた。
「おいハロー、そんなに張り切ってはバテるぞ。まだ腹が膨らんでいないから、家事くらい出来る」
「全っ然バテないよ、むしろ楽しくて仕方ないんだ。それに……旦那として嫁に恰好つけたいし。妻にはモテたいんだ」
「お前な……もういい好きにしろ、だが多少は仕事を寄越してもらうぞ」
ナルガは物凄く照れていた。妊娠をきっかけに、二人の仲はより深まっていた。
加えて、リナルドへ向けられる愛情も、より大きな物になっていた。
ハローは毎日リナルドを抱きしめ、抱っこして、時間が空いたら遊び相手を務めた。ナルガもリナルドへの愛情表現を欠かさず行っていて、リナルドは幸せで溺れそうになっていた。
同時に、こんなに幸せでいいのだろうかと、リナルドは不安を感じていた。
自分が幸せを感じる度に、少女の顔が浮かんでくる。名前を知らない少女を思い浮かべる度に、大きな罪悪感が湧き出てくるのだ。
僕だけが幸せになるなんて許されない。罪悪感のせいで、未だに笑う事も出来ない。
いつも遊んでくれるミコにも、優しくしてくれるハローとナルガにも、申し訳なくて胸が苦しくなる。幸せが苦痛になって、リナルドは少しずつ追い詰められていた。
ハローとナルガが忙しい隙に、一人で木の下に座り込み、あの少女に思いを馳せる。リナルドにとって大事な人のはずなのに、思い出そうとすると強い拒否反応が出てしまう。
「誰なんだろ……あの人……」
「あの人って?」
ミコに顔を覗き込まれ、リナルドはびっくりした。
「なんでもないよ、ミコもどうしたの?」
「リナルドを探しに来たの! アリスが美味しいの作ったから呼んでこいって!」
どうやらミコは、昼食時に遊びに来たようだ。ミコはリナルドの手を取って、ぐいぐい引っ張ってくる。勢いが良すぎて、リナルドは転んでしまった。
その拍子に、手が離れた。
『やだ! やだ! やめて! リナルドを返して!』
そしたら、あの少女の声が響いた。
脳裏に、少女の顔が浮かんでくる。いつも優しく微笑んでいたはずの少女は、泣いていた。屈強な兵士に腕を掴まれて、身動きが取れずにいる。
リナルドは必死に少女へ腕を伸ばして、助けを求めていた。でも、僕はこの後……この後……!
「あ……うあ……やだ……やだ! やだぁぁぁぁぁっ!」
リナルドは頭を抱え、悲鳴を上げた。体中が痛くなって、リナルドは悶絶し、激しく嘔吐した。
「リナルド? リナルド!? アリス! リナルドが大変!」
「何? おい、おいリナルド!?」
ナルガが駆け付け、抱き上げた。リナルドは泡をふいて痙攣し、
「たす、け……て……おね……ちゃ……」
気を失った。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる