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2部

130話 自傷行為の果てに

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 知らせを受けたハローは、急いで村へ戻った。
 リナルドは診療所へ運ばれ、エドウィンの診察を受けている。ミネバに看病されるリナルドは、白目をむいて、呼吸も浅くなっていた。
 ハローは顔を青くし、エドウィンに詰め寄った。

「リナルドの容体は? 一体何がどうなってる!?」
「落ち着け、とりあえず大丈夫だ。単にショックで気絶しただけだな。なんでも、ミコが昼飯に連れてこうとしたらこうなったらしい」
「ミコ、リナルドに何があったんだ?」
「分かんない。リナルド、手を離したら、急に倒れちゃって……」
「その状況、詳しく教えてくれ」

 エドウィンはミコから状況を聞き、こめかみを掻いた。

「ミコから手が離れたのが、記憶を取り戻すトリガーになったんだろう。しかも、リナルドの記憶の中でワーストレベルに酷い記憶がな。っと、起きたぞ」

 リナルドが目を覚ました。ハローはほっとして手を伸ばすも、

「ひっ! や、やっ! 来ないでっ!」

 リナルドはベッドから転げ落ち、頭を抱えて震えた。酷い錯乱状態だ。
 ハローは怯えているリナルドを抱き寄せた。リナルドは暴れたものの、ハローに気付くと、泣きながら縋り付いた。

「恐い記憶を思い出したのか?」
「うん……」
「ああ、無理して話さなくていいよ。苦しい思い出だったんだろ。話せないくらい嫌な記憶なら、胸に仕舞ってくれ」
「……お姉ちゃん」
「え?」
「お姉ちゃんの事、忘れてた……僕、ずっと、お姉ちゃんの事、忘れてたの……」

 リナルドは涙を拭い、取り戻した記憶を話した。

「……僕、お母さんから沢山ぶたれてた。そしたら、お姉ちゃんが僕を守ってくれたの。僕が泣いたら、いつもお姉ちゃんは、僕を助けてくれた」
「母とは、リナルドに暴言を吐いていた女、だな?」
「うん。お母さんは、僕が嫌いだったの。なんでかは、分からないけど……僕いつも、お母さんに「生まなきゃよかった」って、言われてた」

 なんて酷い言葉だ。ハローとナルガは胸を痛めた。

「でも、お姉ちゃんは、僕は悪くないって、言ってくれた。辛くて、苦しくて、いつも泣いてた僕を、お姉ちゃんは抱きしめてくれた……でも。暗い部屋で、沢山の大人に囲まれて、お姉ちゃん、連れてかれちゃって……それで……それで……!」

 リナルドは歯を鳴らした。

「……僕のせいだ……僕のせいでお姉ちゃんは……僕が居たから、お姉ちゃんは……居なくなっちゃった……やっぱり僕は……居ちゃいけなかったんだ……」
「落ち着いて。居なくなった? お姉ちゃんに何があったんだい?」
「思い出せない……でも……お姉ちゃんが、居なくなったのは、思い出した……お姉ちゃんが……僕……!」
「リナルド、もういい、話さなくて。これ以上は、君が持たない」

 自身を責め、傷つけ続けるリナルドに、ハローは悲しい気持ちになった。
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