上 下
128 / 207
2部

128話 姉弟剣

しおりを挟む
 満月の夜が明ける頃、オクトは都で一番の鍛冶師を訪ねていた。手に入れた刀身を調べて貰っていたのだ。
 鍛冶師に結果を聞いてみると、彼はぼりぼり後頭部を掻き、

「勇者様、どこでこんな物を拾ったんです? 大したもんですよこいつは」
「と言いますと?」
「この剣に使われてるのは、今じゃ加工どころか製造すら出来ない超特殊金属ですよ。これが使われてる製品は世界にたった一つしかないです」
「……それは」
「勇者様の聖剣ですね」

 やはりそうか。オクトは顔をしかめた。

「こいつには魔力を貯蔵する性質がありまして、聖剣には光の魔力が宿っていますが、この剣にはどうも闇の魔力が宿っていたみたいですね。それも超高濃度の魔力が」

 高濃度の闇の魔力。やはりこの刀身は、リナルドが持っていた剣の一部で間違いない。

「聖剣との関係は、分かりますか?」
「調べた感じ、聖剣と繋がっているのは確かのようですな。どうやらどんなに離れていても、魔力を相互に供給できる術式が込められていたようです」
「なんでそんな術式が?」

「憶測になってしまいますが……この剣は、バランスをとるための物だったんじゃないですかね。何しろ聖剣に込められた魔力は凄まじくて、ちょっとでも扱いを誤れば暴発する危険がある代物です。そこで二振りの剣をリンクさせて、対となる魔力を宿して循環させる事で、剣の力を安定させていた。そんな所でしょうかね」

「成程……参考にさせていただきます。この件、他言無用でお願いしますよ」
「承知しました、まぁまぁの額も頂きましたしね。勇者様のお役に立てたのなら光栄です」

 鍛冶場を後にし、オクトは自宅に戻った。
 遺跡で得た手記に書かれていた通り、折れた剣は、聖剣の力を安定させるために造られた、対となる剣だ。
 最悪の答え合わせにオクトは青ざめる。手記を開き、狂人が編み出した最悪の製法をおさらいした。

「“武具に魂を宿す事で魔力を安定させる事は出来た、しかし今度は魔力が膨大になりすぎて、溢れた魔力によって武具自体が自爆してしまう事態が起きてしまった。そこで、対となる力を持った武具を別途用意し、リンクさせて余剰魔力を循環させる。さすれば武具から魔力が溢れなくなり、力を留められる”」

 昨日、解読できた所だ。鍛冶師が調べた、聖剣と刀身の関係性とも合致している。この錬金術師が造っていたのは、オクトの剣とリナルドの剣……。

「“光の剣は「聖剣」、闇の剣は「魔剣」と名付けよう。二振りの剣を繋ぐには、同じ血を引く魂の持ち主、つまり兄弟か姉妹が望ましい。特に男女の血縁者ならばなおの事良い。幸いにも、人売りから都合の良い検体を手に出来た。同調をより促すために、検体に苦痛を与えよう。苦痛を通して両者の繋がりをより深い物へと昇華させ、同時に剣の核となる、無尽機関も体に埋め込むとしよう”……!」

 おぞましい実験が綴られた、狂気の文章の先に記された名を、オクトは震える指でなぞった。

「“副作用で自我が、剣に意志が宿るやもしれぬが……武具の完成に比べれば些末事だ……まずは試験として、魔剣を造るとしよう。こいつに宿すは男の検体、名前は……”」

 名前は……リナルド。齢五つの幼子だ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...