アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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87話 もう一人の足踏み

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 最後の患者の診察を終え、エドウィンは大きく伸びをした。
 ラコ村から離れた場所にある村にて、健康診断を実施していた。村民全員の体調を診た彼は、カルテの束をまとめた。

「よし、この村での検診は終わりだ」
「次の村でラストだよな。疲れてない?」
「疲れてるに決まってるだろ、ちょっと休ませろ」

 エドウィンはため息交じりに馬車へ乗り込んだ。ハローは苦笑しつつ、馬を走らせた。
 ラコ村近辺はエドウィンが医師として健康管理している。春になるとエドウィンは村々を訪れて、村民達の健康診断を行っているのだ。

「冬の間は体調を崩す奴が多いからな、経過を見とかないと死人が出るかもしれないし」
「医療知識を持ってるのはエドだけだから、責任重大だね」
「はーあぁ、誰か手伝いに来てほしいけど、こんな辺境に来るような物好きは居ないからな。一人寂しく頑張りますよ」
「精一杯手伝わせてもらうよ、先生」
「むさい看護師なんざごめんだっての」

 エドウィンは鼻で笑った。
 ハローは銃を構え、周囲を警戒した。魔物や野盗からエドウィンを護衛するのが彼の役目なのだが。

「魔物はともかく、野盗が全く出てこないな。気配もない」
「マサガネが戦力として、大量にかき集めたからだろ。殆どを作戦のために無駄死にさせてたし、生き残った奴らも大将の殉職と同時に逃げ出した。多分この辺りにゃもう殆ど居なくなったんじゃないか」

 結果的には、治安の改善に繋がったわけだ。ハローは複雑な気持ちになり、

「ウルチか……最後まで自分勝手な奴だったよ」
「悪い、嫌な奴を思い出させたな」
「いいさ、本当の意味で死んだわけだし、いずれ忘れるよ。それに、過去から抜け出さないといけないしね」

 エドウィンは目を見開き、小さく笑った。

「そうだな、やる事やっちまったんだ、責任取らないといけないもんな」
「元から取るつもりで結婚したに決まってるだろ。それに今は後悔より、楽しみの方が大きいよ。不安も、ないわけじゃないけどさ」
「ま、そうだな」

 エドウィンは先日の魔物との戦いを思い出した。
 ハローの心の傷は順調に癒えているが、まだ完治出来ていない。先日の魔物騒動でハローはまた、修羅の顔になっていた。
 ハローの心にはまだ、キグナス島で植え付けられた激しい憎悪が残っている。それが無くならない限り、ハローは真の意味で地獄から解放されないのだ。

 ……まだこいつは、自分が幸せになっていいのか悩んでいる。だったら僕も、意固地になるのをやめるべきだろうな。
 親友が幸せになる姿を見れば、こいつも考えを改めるだろうし。

「はぁ~、ぼちぼち僕も関係を深めますかね」
「どうしたのさ、急に」
「どこぞのアホたれと付き合うのも疲れて来たからな、僕も女の一人でもひっかけてみようかと思ってさ」
「そっか、ありがとう。今まで付き合ってくれて」
「お前が責任を感じる必要はない、僕が勝手にやっただけだ。それで、植林はいつ頃だ」
「来週にはやる予定だよ。ナルガにも手伝ってもらわないとね」
「大事な儀式だしな、覚えてもらわにゃ困るか。……ダメだ、疲労の限界だ。到着まで寝かせてくれ」

 エドウィンは目を閉じた。彼が眠れるよう、ハローは少しだけ速度を落とした。
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