トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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ヌーッティ、日本へ行く!<後編>

2.エンカウンター・ウィズ・ゴッド

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 深夜二時四十分。
 ヌーッティは目覚めた。
「トイレ行きたいヌー」
 ヌーッティはきょろきょろと周囲を見回した。
 アキは静かな寝息を立てて、眠っている。
 今度はトゥーリを見た。
 アキにぴったりと身を寄せて、心地よさそうに眠っている。
「しかたないヌー」
 ヌーッティはトゥーリのそばに寄ると、寝ているトゥーリの身体を両手でゆすった。
「起きてだヌー。ヌーは本当は怖くないヌー。けど、トイレに行きたいから、ついてきて欲しいヌー」
 トゥーリは小さなうめき声を出したものの、起きる気配はなかった。
 どうやらトゥーリは起こせないとわかったヌーッティは、眠っているアキの顔の正面に立つ。それから、アキの鼻を両手でつまんだ。
 アキの表情が変わった。
「起きるヌー」
 ヌーッティは両手に力を入れる。
 すると、寝ているはずのアキが、ヌーッティの体を片手でひょいと掴み取り、ぽいっと放った。
 ヌーッティは床にべとっと落下した。
 頭を振って起き上がるヌーッティは、
「だめだヌー。このふたりには慈悲がないヌー。ヌーはひとりでトイレに行けるヌー」
 暗い廊下を歩いて、ひとりでトイレへ行く決意を固めた。
 ドアの狭い隙間をすり抜けて(少しお腹が引っかかったが)、ヌーッティは真っ暗な廊下へと出た。
 ヌーッティはゆっくりと歩みを進め、廊下の中央に仁王立ちで立った。
「怖くなんかないヌー! 今度、お化けさんが出たら、ヌーが捕まえて、トゥオネラへ送ってやるヌー! 出てきちゃだめだヌー! 絶対に出てきたらだめだヌー!」
 支離滅裂なことを叫ぶヌーッティであった。
 そのとき、背後の空気感が変わったことに、ヌーッティは気づいた。
 冷ややかな汗がヌーッティの頬を伝い、床へと落ちた。
 ヌーッティは眉毛をきりりと上げると、
「お、お化け! この最強の小熊、ヌーが相手になるヌー!」
 勢いよく振り向いた。
「たわけ!」
 振り返ったと同時に叱責が飛んできた。
 ヌーッティは肩をびくりと震わせた。
「誰がお化けじゃ!」
 ヌーッティの正面に、白くぼやけた姿をした老男性がひとり立っていた。
「お、お化けはみんなそう言うヌー!」
 ヌーッティは心を平静に保とうと、でたらめなことを言ってのけた。
 だが、怯えながらもヌーッティは老男性をじいっと見つめた。
 足はあった。ふさふさで白い短髪に、しわしわの顔。目の色は濃い茶色で、身長はそこまで大きくなく、アキと同じくらいかと、ヌーッティは思った。
 どことなく雰囲気がアキに似ている老男性であった。
「お化け! ヌーに何の用だヌー?!」
 老男性は目を細めて威嚇するヌーッティを見据えた。
「お化けではない!」
「じゃあ、誰だヌー?!」
「え?! え、えーっと……そうじゃ! か、神! 神じゃ!」
 老男性のひとことに、ヌーッティは目をぱちくりさせた。
「髪? ふさふさだヌー!」
「違う! 神じゃ! この世のすべてを統べる、唯一無二の偉大なる創造者じゃ!」
「証拠を見せるヌー!」
 ヌーッティの返しに、老男性は言葉に詰まる。だが、ややあって、
「証拠はある! おぬしが今日こっそりとキッチンに入って、最中を盗み食いしておった。それをわしは知っておる!」
 ヌーッティの老男性を見る眼差しが変わった。
「た、たしかに、ヌーは今日最中を十個食べたヌー。でも、トゥーリやアキやあいりは知らないヌー。す、すごい! 本当に神様だヌー!」
 ヌーッティは信じてしまった。それもやむなし。ヌーッティだからである。
 目を輝かせて、ヌーッティは神と名乗る老男性を見つめる。
「神様はヌーに何の用だヌー?」
 神はこほんと咳払いをした。
「よいか、よく聞くのだ。明日、アキの身に不運が訪れる。おぬしはその不運からアキを守るのじゃ」
「アキに不運? どんなことが起きるヌー?」
「それは、わしでもわからぬ。だが、確実にアキの身に危険が迫る」
 ヌーッティはこくこく頷いて神の話を聞いた。
「じゃあ、ヌーがアキを守るヌー! ヌーはこう見えても凄腕の小熊の妖精さんだヌー!」
「よろしい。アキを守るのであれば、わしはおぬしに取り憑きはせん」
「芋ようかん、くれるヌー?」
 ヌーッティは成功報酬の交渉に出た。
「成功した場合には、梅がヌーッティに何かくれるはずじゃ」
 神は、アキの祖母である梅に報酬の支払いを託した。
「やったヌー!」
 こうして、ヌーッティは神の頼みごとを引き受けたのであった。
 そして、その明日はもうすぐやってくるのであった。
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