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ヌーッティ、日本へ行く!<後編>
1.ヌーッティとおねしょ
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深夜二時三十五分。
ヌーッティは突如目覚めた。
むくりと起き上がったヌーッティはとろんとした目で周囲を見渡す。
「トイレに行きたいヌー」
尿意をもよおしたヌーッティは、体にかけていたタオルケットを布団の隅へ追いやると、布団から出て部屋のドアの前に立った。
アキは、ヌーッティたちがいつでも廊下へ出られるようにと、いつもドアを少し開けていた。
ヌーッティは軽い力でドアを引き開けると、わずかな隙間から廊下へと出た。
ひさしぶりの日本の家での滞在ではあるものの、勝手は知ったところであった。
廊下に出て、まっすぐ歩き、行き着いた突き当りにトイレがある。
問題は……
「まっくらだヌー。ヌーは怖くないヌー」
深夜の真っ暗な廊下が怖いことであった。
ヌーッティは歩みを止めて、その場でもぞもぞ足を動かした。
「ここで行かなきゃ、またおねしょしちゃうヌー」
どうやらヌーッティは、またと言われる程度でおねしょをしたことがあるらしい。
ヌーッティはつぶらな瞳で暗闇広がる空間を凝視した。
何もいない。
音もない。
辺りは不気味なほどに静まり返っていた。
ヌーッティはごくりと息を飲んだ。
「い、行くヌー」
そおっと、そおっと、ヌーッティは壁沿いに歩き始めた。
ときどき周囲を見回し、されども後ろは振り向かず、一歩一歩トイレに近づいていった。
トイレのドアが暗がりの中でも見える程度に近づいたときであった。
――ヌーッティ。
ヌーッティの背後から声のようなものが聞こえてきた。
思わず、ヌーッティは足を止める。
――こっちだよ。
かすかな声がヌーッティの耳に入ってきた。
ヌーッティは青ざめた。
顔からは血の気が引き、冷や汗がうっすらと額に滲んだ。
――ヌーッティ、こっちへおいで。
たしかに、はっきりと、その声をヌーッティは聞いてしまった。
「だ、だだだだ、だめだヌー。ふ、ふふふ、振り向いたらアウトな気がするヌー」
心なしか、ヌーッティは、周囲の空気がひんやりと冷たくなった気がした。
ヌーッティの鼓動は早まる。
心臓が耳から出そうなくらい、脈は強くなっている。
後ろを見たらアウト――ヌーッティはそんな予感を抱きつつも、しかし、背後が気になってしようがなかった。
「イチ、ニのサンだヌー。それで、後ろを確認したら、ダッシュでトイレに入るヌー」
ヌーッティは背後を見る覚悟を決めた。そして、
「イチ! ニ! のサン!」
ヌーッティは振り向いた。
そこには真っ白な靄が広がっていた。さらに、
「ヌーッティィイイイイイイイイイっ!」
白い靄の中から声が響いた。
「いやだヌーーーーーーーーーーーっ!」
絶叫したヌーッティは暗闇の中を走った。
走って、走って、ばちん! とヌーッティの頬に強い痛みが走った。
一瞬の意識障害。のち、ヌーッティは、はっと目を覚ました。
「ヌーッティ! 起きろ!」
トゥーリの声と共に、再び頬に痛みを感じた。
「トゥ、トゥーリ?!」
ヌーッティの目に、大きく手を振りかぶっているトゥーリが映った。
同時に、辺りに光が差していることにヌーッティは気づいた。
開けられた窓から、外にいる小鳥のさえずりが部屋へと入ってきていた。
目をぱちくりさせながら、ヌーッティは上体を起こす。
「ヌ? ヌヌヌ? 今は……朝?」
ヌーッティの正面のトゥーリは大きくため息をついた。
「なに寝ぼけてるの? もう、九時だよ。いい加減起きなよ」
「ヌ? ヌーはトイレに行こうとして……あっ!」
慌てた様子のヌーッティは座っている敷布団を見た。
特に変わった様子はなかった。
「おねしょしてないヌー。よかったヌー」
ほっと安堵するヌーッティに対し、トゥーリは懐疑の目をヌーッティに向ける。
「もしかして、またおねしょ……」
「してないヌー! セーフだヌー!」
トゥーリの嫌疑をなんとか晴らしたヌーッティのお腹が鳴った。
「朝ごはん、食べるヌー」
ヌーッティは口端によだれを滲ませて起き上がると、廊下へと出る。
朝ごはんは何かと考えながらスキップで階下へと向かうヌーッティは気づかなかった。
背後に白い靄がうっすらと漂っていることに。
ヌーッティは突如目覚めた。
むくりと起き上がったヌーッティはとろんとした目で周囲を見渡す。
「トイレに行きたいヌー」
尿意をもよおしたヌーッティは、体にかけていたタオルケットを布団の隅へ追いやると、布団から出て部屋のドアの前に立った。
アキは、ヌーッティたちがいつでも廊下へ出られるようにと、いつもドアを少し開けていた。
ヌーッティは軽い力でドアを引き開けると、わずかな隙間から廊下へと出た。
ひさしぶりの日本の家での滞在ではあるものの、勝手は知ったところであった。
廊下に出て、まっすぐ歩き、行き着いた突き当りにトイレがある。
問題は……
「まっくらだヌー。ヌーは怖くないヌー」
深夜の真っ暗な廊下が怖いことであった。
ヌーッティは歩みを止めて、その場でもぞもぞ足を動かした。
「ここで行かなきゃ、またおねしょしちゃうヌー」
どうやらヌーッティは、またと言われる程度でおねしょをしたことがあるらしい。
ヌーッティはつぶらな瞳で暗闇広がる空間を凝視した。
何もいない。
音もない。
辺りは不気味なほどに静まり返っていた。
ヌーッティはごくりと息を飲んだ。
「い、行くヌー」
そおっと、そおっと、ヌーッティは壁沿いに歩き始めた。
ときどき周囲を見回し、されども後ろは振り向かず、一歩一歩トイレに近づいていった。
トイレのドアが暗がりの中でも見える程度に近づいたときであった。
――ヌーッティ。
ヌーッティの背後から声のようなものが聞こえてきた。
思わず、ヌーッティは足を止める。
――こっちだよ。
かすかな声がヌーッティの耳に入ってきた。
ヌーッティは青ざめた。
顔からは血の気が引き、冷や汗がうっすらと額に滲んだ。
――ヌーッティ、こっちへおいで。
たしかに、はっきりと、その声をヌーッティは聞いてしまった。
「だ、だだだだ、だめだヌー。ふ、ふふふ、振り向いたらアウトな気がするヌー」
心なしか、ヌーッティは、周囲の空気がひんやりと冷たくなった気がした。
ヌーッティの鼓動は早まる。
心臓が耳から出そうなくらい、脈は強くなっている。
後ろを見たらアウト――ヌーッティはそんな予感を抱きつつも、しかし、背後が気になってしようがなかった。
「イチ、ニのサンだヌー。それで、後ろを確認したら、ダッシュでトイレに入るヌー」
ヌーッティは背後を見る覚悟を決めた。そして、
「イチ! ニ! のサン!」
ヌーッティは振り向いた。
そこには真っ白な靄が広がっていた。さらに、
「ヌーッティィイイイイイイイイイっ!」
白い靄の中から声が響いた。
「いやだヌーーーーーーーーーーーっ!」
絶叫したヌーッティは暗闇の中を走った。
走って、走って、ばちん! とヌーッティの頬に強い痛みが走った。
一瞬の意識障害。のち、ヌーッティは、はっと目を覚ました。
「ヌーッティ! 起きろ!」
トゥーリの声と共に、再び頬に痛みを感じた。
「トゥ、トゥーリ?!」
ヌーッティの目に、大きく手を振りかぶっているトゥーリが映った。
同時に、辺りに光が差していることにヌーッティは気づいた。
開けられた窓から、外にいる小鳥のさえずりが部屋へと入ってきていた。
目をぱちくりさせながら、ヌーッティは上体を起こす。
「ヌ? ヌヌヌ? 今は……朝?」
ヌーッティの正面のトゥーリは大きくため息をついた。
「なに寝ぼけてるの? もう、九時だよ。いい加減起きなよ」
「ヌ? ヌーはトイレに行こうとして……あっ!」
慌てた様子のヌーッティは座っている敷布団を見た。
特に変わった様子はなかった。
「おねしょしてないヌー。よかったヌー」
ほっと安堵するヌーッティに対し、トゥーリは懐疑の目をヌーッティに向ける。
「もしかして、またおねしょ……」
「してないヌー! セーフだヌー!」
トゥーリの嫌疑をなんとか晴らしたヌーッティのお腹が鳴った。
「朝ごはん、食べるヌー」
ヌーッティは口端によだれを滲ませて起き上がると、廊下へと出る。
朝ごはんは何かと考えながらスキップで階下へと向かうヌーッティは気づかなかった。
背後に白い靄がうっすらと漂っていることに。
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