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ヌーッティ、日本へ行く!<後編>
3.ヌーッティの策略
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神と名乗る怪しい老男性と出会った夜の翌日。
ヌーッティはがんばって朝早くに起床した。
そして、アキの前で思いっきり駄々をこね始めた。
「ヌーもアキと一緒に学校に行くヌー!」
アキとトゥーリの目の前で、ヌーッティは手足をばたつかせた。
この日、アキは母が勤務する大学へ行き、母の受け持つゼミの見学をすることになっていた。
アキは首を横に振った。
「だめ。フィンランドにいたとき、学校にこっそりついて来て大変な目にあったのを忘れてないからな」
アキは頑なに拒否をした。
ヌーッティがアキの通う学校について来たときのことを、アキもトゥーリも忘れてはいなかった。
トゥーリはすくっと立ち上がると、指をポキポキ鳴らし始める。
「天龍稲妻落としとジャーマンスープレックス――どっちがいい?」
どちらを選んでもヌーッティにとっては地獄であった。
「トゥーリ。暴力はだめ」
アキがトゥーリの行動を制止させた。
けれども、ヌーッティは怯まなかった。
「学校に行くヌー! 絶対に絶対にぜーーーったいに学校に行くヌー!」
アキは大きなため息をこぼした。
「だから、だめなんだって。おうちで留守番してたらお菓子をおみやげに持ってくるから」
「ヌーはそんなことに釣られないヌー! もし、ヌーを連れて行かないなら……」
「連れていかないなら?」
「この家にあるお菓子を全部ヌーが食べちゃうヌー!」
ヌーッティの宣言にアキとトゥーリは固まった。
ヌーッティならやりかねない――ふたりはそう思った。
「トリック・オア・ヌーッティ、だヌー!」
どちらも選択したくない選択肢が提示された。
「生物兵器!」
アキとトゥーリの声が重なった。
「でも、だめ。もう学校にはついて来ないって約束しただろ?」
「アキはケチだヌー! ヌーは学校の給食になんて興味ないヌー!」
何がなんでも学校に行こうとするヌーッティの意志は固かった。
しかし、理由が理由の体裁を欠いていた。
そのときであった。階下にいる母がアキの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「とにかく、ついて来ちゃだめだからな! おみやげはちゃんと買ってくるから」
アキは立ち上がって、部屋を出ると、一階へと向かった。
部屋に残されたのはヌーッティとトゥーリであった。
トゥーリは半目でヌーッティをじっと見つめる。
「ついて行っちゃだめだよ?」
念押しでトゥーリにも言われたヌーッティは、
「そうだ! ヌーはまだ朝お菓子を食べてなかったヌー。ちょっとキッチンでお菓子を食べてくるヌー」
言い終えるや否や、ヌーッティもアキの部屋から出て行った。
「……怪しい」
トゥーリは直感した。だが、ヌーッティは戻ってこなかった。
アキは、ヌーッティが観念して諦めたと思った。諦めた腹いせにキッチンでお菓子を盛大に食べまくっているのであろうと考えた。
「いいの?」
トゥーリはアキに尋ねた。
「いいよ。キッチンのお菓子がなくなったら買ってくれば済むことだし」
アキはスニーカーを履きながら答えた。
「ほんと、アキはヌーッティに甘いんだから」
言われてアキは苦笑を浮かべた。
「じゃあ、ヌーッティのこと頼んだ。お菓子は食べたいだけ食べさせていいから」
そう言い置くと、アキは玄関のドアを開けて、外へと出ていった。
ぱたんとドアが閉まるまで、アキの姿が見えなくなるまで、トゥーリは手を振った。
「さてと。どうやってヌーッティを落ち着かせようかな」
トゥーリは肩を回しながら思案した。それから、キッチンへと向かった。
泣きながらお菓子を食べているのかとも思ったが、あのヌーッティである。アキの学校のことを忘れて、お菓子に夢中になっているだろうと、トゥーリは推察した。
「ヌーッティ!」
皆出払ったアキの自宅のキッチンに、トゥーリの声が響いた。
「ヌーッティ! お菓子なら、アキの部屋で食べて! 二階へ行くよ!」
静まり返った家のキッチンにトゥーリの声が反響する。
訝ったトゥーリはキッチンへと入り、ヌーッティを探した。
お菓子の保管してある棚をはじめに見た。けれども、ヌーッティの姿はなかった。
次に、冷蔵庫を開けて中を確認した。しかし、そこにもヌーッティはいなかった。
「ヌーッティ?」
シンクのワークトップに置かれているキッチンクロスを持ち上げた。だが、ヌーッティはいない。
「おかしいなぁ。先に二階へ行っちゃったのかなぁ?」
トゥーリはキッチンを出て、二階のアキの部屋へ向かった。
「ヌーッティ!」
されど、アキの部屋にもヌーッティはいなかった。だが、そのとき、床に無造作に置かれている小さな紙切れを一枚発見した。
トゥーリは嫌な予感を抱き、すぐさまその紙切れを手に取った。
紙には「アキがしんぱいなので、ヌーはがっこうへいきます」と、ヌーッティの字体で文字が書かれていた。
「やられた……!」
トゥーリは手にした紙切れをぐしゃりと握り潰した。
こうして、ヌーッティはアキの学校へついて行くことに成功したのであった。
不運が降りかかるのは、アキか、はたまたヌーッティか。
ヌーッティはがんばって朝早くに起床した。
そして、アキの前で思いっきり駄々をこね始めた。
「ヌーもアキと一緒に学校に行くヌー!」
アキとトゥーリの目の前で、ヌーッティは手足をばたつかせた。
この日、アキは母が勤務する大学へ行き、母の受け持つゼミの見学をすることになっていた。
アキは首を横に振った。
「だめ。フィンランドにいたとき、学校にこっそりついて来て大変な目にあったのを忘れてないからな」
アキは頑なに拒否をした。
ヌーッティがアキの通う学校について来たときのことを、アキもトゥーリも忘れてはいなかった。
トゥーリはすくっと立ち上がると、指をポキポキ鳴らし始める。
「天龍稲妻落としとジャーマンスープレックス――どっちがいい?」
どちらを選んでもヌーッティにとっては地獄であった。
「トゥーリ。暴力はだめ」
アキがトゥーリの行動を制止させた。
けれども、ヌーッティは怯まなかった。
「学校に行くヌー! 絶対に絶対にぜーーーったいに学校に行くヌー!」
アキは大きなため息をこぼした。
「だから、だめなんだって。おうちで留守番してたらお菓子をおみやげに持ってくるから」
「ヌーはそんなことに釣られないヌー! もし、ヌーを連れて行かないなら……」
「連れていかないなら?」
「この家にあるお菓子を全部ヌーが食べちゃうヌー!」
ヌーッティの宣言にアキとトゥーリは固まった。
ヌーッティならやりかねない――ふたりはそう思った。
「トリック・オア・ヌーッティ、だヌー!」
どちらも選択したくない選択肢が提示された。
「生物兵器!」
アキとトゥーリの声が重なった。
「でも、だめ。もう学校にはついて来ないって約束しただろ?」
「アキはケチだヌー! ヌーは学校の給食になんて興味ないヌー!」
何がなんでも学校に行こうとするヌーッティの意志は固かった。
しかし、理由が理由の体裁を欠いていた。
そのときであった。階下にいる母がアキの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「とにかく、ついて来ちゃだめだからな! おみやげはちゃんと買ってくるから」
アキは立ち上がって、部屋を出ると、一階へと向かった。
部屋に残されたのはヌーッティとトゥーリであった。
トゥーリは半目でヌーッティをじっと見つめる。
「ついて行っちゃだめだよ?」
念押しでトゥーリにも言われたヌーッティは、
「そうだ! ヌーはまだ朝お菓子を食べてなかったヌー。ちょっとキッチンでお菓子を食べてくるヌー」
言い終えるや否や、ヌーッティもアキの部屋から出て行った。
「……怪しい」
トゥーリは直感した。だが、ヌーッティは戻ってこなかった。
アキは、ヌーッティが観念して諦めたと思った。諦めた腹いせにキッチンでお菓子を盛大に食べまくっているのであろうと考えた。
「いいの?」
トゥーリはアキに尋ねた。
「いいよ。キッチンのお菓子がなくなったら買ってくれば済むことだし」
アキはスニーカーを履きながら答えた。
「ほんと、アキはヌーッティに甘いんだから」
言われてアキは苦笑を浮かべた。
「じゃあ、ヌーッティのこと頼んだ。お菓子は食べたいだけ食べさせていいから」
そう言い置くと、アキは玄関のドアを開けて、外へと出ていった。
ぱたんとドアが閉まるまで、アキの姿が見えなくなるまで、トゥーリは手を振った。
「さてと。どうやってヌーッティを落ち着かせようかな」
トゥーリは肩を回しながら思案した。それから、キッチンへと向かった。
泣きながらお菓子を食べているのかとも思ったが、あのヌーッティである。アキの学校のことを忘れて、お菓子に夢中になっているだろうと、トゥーリは推察した。
「ヌーッティ!」
皆出払ったアキの自宅のキッチンに、トゥーリの声が響いた。
「ヌーッティ! お菓子なら、アキの部屋で食べて! 二階へ行くよ!」
静まり返った家のキッチンにトゥーリの声が反響する。
訝ったトゥーリはキッチンへと入り、ヌーッティを探した。
お菓子の保管してある棚をはじめに見た。けれども、ヌーッティの姿はなかった。
次に、冷蔵庫を開けて中を確認した。しかし、そこにもヌーッティはいなかった。
「ヌーッティ?」
シンクのワークトップに置かれているキッチンクロスを持ち上げた。だが、ヌーッティはいない。
「おかしいなぁ。先に二階へ行っちゃったのかなぁ?」
トゥーリはキッチンを出て、二階のアキの部屋へ向かった。
「ヌーッティ!」
されど、アキの部屋にもヌーッティはいなかった。だが、そのとき、床に無造作に置かれている小さな紙切れを一枚発見した。
トゥーリは嫌な予感を抱き、すぐさまその紙切れを手に取った。
紙には「アキがしんぱいなので、ヌーはがっこうへいきます」と、ヌーッティの字体で文字が書かれていた。
「やられた……!」
トゥーリは手にした紙切れをぐしゃりと握り潰した。
こうして、ヌーッティはアキの学校へついて行くことに成功したのであった。
不運が降りかかるのは、アキか、はたまたヌーッティか。
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