トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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アレクシの家出

2.アレクシはホームシック?

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 アレクシが家を出た翌日の朝。
 太陽が地上に顔を出した午前9時半頃。
 ヌーッティはアキの祖母のハンカチーフをマントのようにはおり、窓を明けて、アキの部屋を出ようとしていた。
「どこ行くの?」
 勉強机の上で動画を観ているトゥーリが気づいて声をかけた。
「アレクシを探しに行ってくるヌー!」
 がたがたと窓の取っ手を開けようとしながらヌーッティは返答した。
「アキー! 開かないヌー! 開けて欲しいヌー!」
 ヌーッティは早速最初の難関に手こずっていた。
 呼ばれたアキは、クローゼットの整理の手を一旦止めると窓へ行き、取っ手を下へ押して、窓を引き開けた。
「どうぞ」
「ありがとうだヌー!」
「ところで、どうやって下りるんだ?」
 ヌーッティはアキの質問を聞くと、胸をぽんと叩いた。
「トゥーリがよく使う風の詩を歌うヌー!」
 そう言うと、ヌーッティは深呼吸をして、声高らかに歌い出した。

   トゥンネン・トゥーレン・シュントゥサナトゥ
   テイダン・トゥーリセン・アルスタ
   テッレルボ,タピオン・ネイト,
   アンナ・トゥーリア・ミヌン・トゥコニ!
   ナウタ・ティエタ・タイヴァーン・マイッレ!
   ——ヌーは知ってるヌー、風の誕生を
     ヌーはわかってるヌー、風の始まりを
     テッレルヴォ、森の主タピオの乙女よ、
     ヌーの前に風を起こせ!
     ヌーに空への道を示せ!

 ヌーッティは風の流れの変化を感じた。
 それから、勢いよく空へ向かって跳躍した。
「行くヌー!」
 だが、風はヌーッティの意に反して、小さな竜巻を起こした。
 この魔術、ヌーッティは1回も成功したためしがなかった。
 あっという間にヌーッティは竜巻に飲まれてしまった。
「ヌーッティ?!」
 心配な面持ちのアキは、竜巻の中のヌーッティへ手をのばした。
 けれども、届かなかった。
 そこへ、トゥーリがやってきた。
 トゥーリは口早に詩を歌い、
「ロプ,トゥーリ! ――風よ、止まれ!」
 吹き荒れる風に向かって叫んだ。
 すると、小さな竜巻が四方八方に消え去った。
 竜巻から追い出されたヌーッティは2階ほどの高さから、積雪の地面に落下した。
「ヌーッティ! 大丈夫か?!」
 アキが、柔らかい雪の上にうつ伏せているヌーッティへ、不安げに声をかけた。
 積もっていた雪が柔らかかったせいか、はたまた、ヌーッティの体がぽよぽよしているせいか、いずれにせよ、ヌーッティはすくっと立ち上がり、アキとトゥーリに親指を立てて見せた。
 そして、ヌーッティは庭を駆け抜け、裏手にある公園へと向かった。
 ヌーッティが真っ先に思いついたアレクシがいそうな場所は、アレクシとリュリュが出会った公園であった。
 アキの自宅から1ブロック挟んで南下した場所にあるその公園は、向かって右手に遊具のある公園と、左側にはベンチが何台か置かれている公園の2つが横並びにある公園であった。
 昨晩も降雪があったため、地面にも雪がかなり積もっていたが、ヌーッティはそれをかき分けながら、公園へと足を踏み入れた。
「アレクシがいるとすれば木の上かベンチの上だヌー」
 きょろきょろとヌーッティは辺りを見回した。
 ふと、雪がかぶさっている木の枝の根本を観たときであった。
 だらんと木の枝に寝そべった姿勢でぼーっとしているアレクシがいた。
 ――いたヌー!
 ヌーッティは心のなかで叫ぶと、こっそりと、アレクシのいる木に近づいた。
 アレクシは顔色悪く、うつろな瞳で遠くを見ているようであった。
 そこへ、ふわふわとした綿菓子のようなものがアレクシのもとへやってきた。
 ――風の精霊さんだヌー! アレクシのお友だちヌー?
 ヌーッティは目を見張って、アレクシと彼のもとへやってきた風の精霊を見やった。
 綿菓子のような出で立ちの風の精霊は、アレクシの前にやってくると、ふたりで何やら話し始めた。
 だが、ヌーッティからは距離が遠かったため、ふたりの会話を聞くことはできなかった。
 アレクシが軽く片手を振ると、綿菓子姿の風の精霊はどこかへ去ってしまった。
 そのとき、ヌーッティは閃いた。
 ――アレクシは同じ風の精霊のお友だち欲しいんだヌー!
 このままでは、アレクシが本当に家を出ていってしまうと思い込んだヌーッティは焦った。
 ひとまず、トゥーリとアキとリュリュに話して、アレクシを連れ戻す方法を考えねばと思ったヌーッティは、来た道を辿り、帰路についた。
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