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アレクシの家出

1.アレクシの悩み

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 年も明け、クリスマスの飾りを片付け終えた、とある日の午後。
 トゥーリとヌーッティは、アキとアレクシとリュリュのみんなでティータイムを過ごしていた。
 トゥーリとヌーッティとリュリュとアレクシはアキの勉強机の上に、円を描くように座っていた。
 アキはワーキングチェアに座りながら、机上の彼らを眺めていた。
 今日のおやつは、りんごをまるごと1個使った焼きりんご。
 はちみつがたっぷりとかけられた焼きりんごの、甘く芳醇な香りがアキの部屋を満たしていた。
 紅茶はシンプルにアールグレイのホット。
 お好みでミルクティーにもできるように、濃厚なミルクの入ったピッチャーも置かれていた。
 ひとり1個ずつ用意された焼きりんごを美味しそうに頬張るヌーッティの背後には、食べ終わったあとの追いおやつとしてのビスケットが、カートン箱で1つ配置されていた。
「追いはちみつするヌー!」
 ヌーッティは半分ほど残っている焼きりんごに、これでもかというほどの量のはちみつをかけた。
 その光景を見ていたトゥーリは、
「ヌーッティ。そんなにたくさんのはちみつかけたら糖尿病になっちゃうよ」
 と、苦言を呈した。
 そんなふたりの光景を見ていたアキは苦笑していた。
 リュリュは呆れた表情でため息をついた。
 そんな中、アレクシだけがいつもと違う行動をとった。
「ぼくはもう行くよ」
 大好物である焼きりんごを完食し終えたアレクシは沈痛な面持ちで、右足をかばうように立ち上がると、トゥーリやヌーッティ、リュリュとアキに背中を向けた。
「おみやげはたくさんでいいヌー」
 ヌーッティは口周りについたはちみつを手で取りながら、アレクシに声をかけた。
「いってらっしゃーい」
 トゥーリとリュリュは素っ気ない返答を返した。
「夕飯までには帰っておいで。今夜は、ばーちゃんがマカロニラーティッコを作るって言ってたよ。アレクシの好物だし、食べるだろ?」
 アキは普段どおりに、夕ごはんの内容を伝えた。
 他方、4人に背中を向けているアレクシは肩を震わせていた。
 そして、くるりと背後へ体を向けると、
「きみたちは繊細な心のぼくの言葉の真意がわからないのかい?! ぼくは、この家から出ていくと言っているんだよ!」
「お散歩に行くなら、ちょっと先にあるファッツェル・カフェのサンドイッチも買ってきて欲しいヌー!」
「いや、だからね、ぼくは家出をするって言ってるんだよ?!」
 アレクシは心底困ったような少し苛立ったような顔を、ヌーッティへ向けた。
「家で? 何で?」
 ヌーッティとアレクシのかみ合わない会話にトゥーリが割って入った。
 アレクシは頭をかいて、ひと息はいた。
「ぼくは、もともと『ニヒルでかっこいい』風の精霊だったのに、ヌーッティの影響で、ヌーッティの傍若無人に引っ張られて、なぜかギャグキャラに転落しつつあるんだ」
「もともと、アレクシは『アヒルでかっこいい』風の精霊じゃないヌー。赤リス姿の風の精霊さんだヌー」
「ほら、いつもこうなるんだ! まったく!」
 アレクシはその場で地団駄を踏んだ。
「ぼくは、ぼく本来のかっこよさを取り戻すために、この家を出る! じゃあね!」
 言い終えるが早いか、アレクシはふわりと風を操り、宙を漂いながら窓へ行くと、窓を開けることなく、外へ出ていってしまった。
 トゥーリとリュリュとアキの視線は、のんきに焼きりんごを完食し終えたヌーッティに向けられていた。
「ヌーッティ。さすがに引き止めたほうが良かったんじゃないのか?」
 アキはヌーッティの口周りをウェットティッシュで拭き取りながら訊いた。
「ヌーは何もしてないヌー。おやつを食べてただけだヌー」
 ヌーッティの返答に3者は、がくりと肩を落とした。
「まあ、でもこれで、わたくしとトゥーリ様の仲を邪魔する者が減ったから良しとしましょう」
 リュリュは微笑みながら話をまとめようとした。
「しばらくすれば、戻ってくるよ。アレクシもヌーッティと同じで、食欲には忠実だし」
 トゥーリは正論を展開した。
「確かに。それもそうだな」
 アキとリュリュはトゥーリの言葉に納得した。
 しかし、ただひとり、腑に落ちないといった顔をした人物がいた。ヌーッティであった。
 ヌーッティは考えていた。
 もし、このままアレクシが本当にアキの家から出ていってしまったら、お菓子や果物がなくなるたびに、これから、毎回、ヌーッティひとりに、みんなからの疑いの目が向けられるのではないかと。
 今までは、アレクシが冷凍庫のブルーベリーやキッチンに置かれたりんごを食べていたので、ヌーッティかアレクシの2者に疑いの目が向けられていた。
 つまり、誤魔化せたのであった。
 だが、アレクシがいなくなってしまったら、どうなるのか。
 ――ヌーのピンチだヌー!
 ヌーッティは、そのことに気がついた。
 口周りをアキに拭いてもらったヌーッティはすっと立ち上がった。
「みんな、アレクシに冷た過ぎるヌー! ヌーがアレクシを連れ戻すヌー!」
 ヌーッティは意を決した面持ちで、決意を固めた。
 己がための利益 (食い意地)のために。
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