123 / 159
アレクシの家出
1.アレクシの悩み
しおりを挟む
年も明け、クリスマスの飾りを片付け終えた、とある日の午後。
トゥーリとヌーッティは、アキとアレクシとリュリュのみんなでティータイムを過ごしていた。
トゥーリとヌーッティとリュリュとアレクシはアキの勉強机の上に、円を描くように座っていた。
アキはワーキングチェアに座りながら、机上の彼らを眺めていた。
今日のおやつは、りんごをまるごと1個使った焼きりんご。
はちみつがたっぷりとかけられた焼きりんごの、甘く芳醇な香りがアキの部屋を満たしていた。
紅茶はシンプルにアールグレイのホット。
お好みでミルクティーにもできるように、濃厚なミルクの入ったピッチャーも置かれていた。
ひとり1個ずつ用意された焼きりんごを美味しそうに頬張るヌーッティの背後には、食べ終わったあとの追いおやつとしてのビスケットが、カートン箱で1つ配置されていた。
「追いはちみつするヌー!」
ヌーッティは半分ほど残っている焼きりんごに、これでもかというほどの量のはちみつをかけた。
その光景を見ていたトゥーリは、
「ヌーッティ。そんなにたくさんのはちみつかけたら糖尿病になっちゃうよ」
と、苦言を呈した。
そんなふたりの光景を見ていたアキは苦笑していた。
リュリュは呆れた表情でため息をついた。
そんな中、アレクシだけがいつもと違う行動をとった。
「ぼくはもう行くよ」
大好物である焼きりんごを完食し終えたアレクシは沈痛な面持ちで、右足をかばうように立ち上がると、トゥーリやヌーッティ、リュリュとアキに背中を向けた。
「おみやげはたくさんでいいヌー」
ヌーッティは口周りについたはちみつを手で取りながら、アレクシに声をかけた。
「いってらっしゃーい」
トゥーリとリュリュは素っ気ない返答を返した。
「夕飯までには帰っておいで。今夜は、ばーちゃんがマカロニラーティッコを作るって言ってたよ。アレクシの好物だし、食べるだろ?」
アキは普段どおりに、夕ごはんの内容を伝えた。
他方、4人に背中を向けているアレクシは肩を震わせていた。
そして、くるりと背後へ体を向けると、
「きみたちは繊細な心のぼくの言葉の真意がわからないのかい?! ぼくは、この家から出ていくと言っているんだよ!」
「お散歩に行くなら、ちょっと先にあるファッツェル・カフェのサンドイッチも買ってきて欲しいヌー!」
「いや、だからね、ぼくは家出をするって言ってるんだよ?!」
アレクシは心底困ったような少し苛立ったような顔を、ヌーッティへ向けた。
「家で? 何で?」
ヌーッティとアレクシのかみ合わない会話にトゥーリが割って入った。
アレクシは頭をかいて、ひと息はいた。
「ぼくは、もともと『ニヒルでかっこいい』風の精霊だったのに、ヌーッティの影響で、ヌーッティの傍若無人に引っ張られて、なぜかギャグキャラに転落しつつあるんだ」
「もともと、アレクシは『アヒルでかっこいい』風の精霊じゃないヌー。赤リス姿の風の精霊さんだヌー」
「ほら、いつもこうなるんだ! まったく!」
アレクシはその場で地団駄を踏んだ。
「ぼくは、ぼく本来のかっこよさを取り戻すために、この家を出る! じゃあね!」
言い終えるが早いか、アレクシはふわりと風を操り、宙を漂いながら窓へ行くと、窓を開けることなく、外へ出ていってしまった。
トゥーリとリュリュとアキの視線は、のんきに焼きりんごを完食し終えたヌーッティに向けられていた。
「ヌーッティ。さすがに引き止めたほうが良かったんじゃないのか?」
アキはヌーッティの口周りをウェットティッシュで拭き取りながら訊いた。
「ヌーは何もしてないヌー。おやつを食べてただけだヌー」
ヌーッティの返答に3者は、がくりと肩を落とした。
「まあ、でもこれで、わたくしとトゥーリ様の仲を邪魔する者が減ったから良しとしましょう」
リュリュは微笑みながら話をまとめようとした。
「しばらくすれば、戻ってくるよ。アレクシもヌーッティと同じで、食欲には忠実だし」
トゥーリは正論を展開した。
「確かに。それもそうだな」
アキとリュリュはトゥーリの言葉に納得した。
しかし、ただひとり、腑に落ちないといった顔をした人物がいた。ヌーッティであった。
ヌーッティは考えていた。
もし、このままアレクシが本当にアキの家から出ていってしまったら、お菓子や果物がなくなるたびに、これから、毎回、ヌーッティひとりに、みんなからの疑いの目が向けられるのではないかと。
今までは、アレクシが冷凍庫のブルーベリーやキッチンに置かれたりんごを食べていたので、ヌーッティかアレクシの2者に疑いの目が向けられていた。
つまり、誤魔化せたのであった。
だが、アレクシがいなくなってしまったら、どうなるのか。
――ヌーのピンチだヌー!
ヌーッティは、そのことに気がついた。
口周りをアキに拭いてもらったヌーッティはすっと立ち上がった。
「みんな、アレクシに冷た過ぎるヌー! ヌーがアレクシを連れ戻すヌー!」
ヌーッティは意を決した面持ちで、決意を固めた。
己がための利益 (食い意地)のために。
トゥーリとヌーッティは、アキとアレクシとリュリュのみんなでティータイムを過ごしていた。
トゥーリとヌーッティとリュリュとアレクシはアキの勉強机の上に、円を描くように座っていた。
アキはワーキングチェアに座りながら、机上の彼らを眺めていた。
今日のおやつは、りんごをまるごと1個使った焼きりんご。
はちみつがたっぷりとかけられた焼きりんごの、甘く芳醇な香りがアキの部屋を満たしていた。
紅茶はシンプルにアールグレイのホット。
お好みでミルクティーにもできるように、濃厚なミルクの入ったピッチャーも置かれていた。
ひとり1個ずつ用意された焼きりんごを美味しそうに頬張るヌーッティの背後には、食べ終わったあとの追いおやつとしてのビスケットが、カートン箱で1つ配置されていた。
「追いはちみつするヌー!」
ヌーッティは半分ほど残っている焼きりんごに、これでもかというほどの量のはちみつをかけた。
その光景を見ていたトゥーリは、
「ヌーッティ。そんなにたくさんのはちみつかけたら糖尿病になっちゃうよ」
と、苦言を呈した。
そんなふたりの光景を見ていたアキは苦笑していた。
リュリュは呆れた表情でため息をついた。
そんな中、アレクシだけがいつもと違う行動をとった。
「ぼくはもう行くよ」
大好物である焼きりんごを完食し終えたアレクシは沈痛な面持ちで、右足をかばうように立ち上がると、トゥーリやヌーッティ、リュリュとアキに背中を向けた。
「おみやげはたくさんでいいヌー」
ヌーッティは口周りについたはちみつを手で取りながら、アレクシに声をかけた。
「いってらっしゃーい」
トゥーリとリュリュは素っ気ない返答を返した。
「夕飯までには帰っておいで。今夜は、ばーちゃんがマカロニラーティッコを作るって言ってたよ。アレクシの好物だし、食べるだろ?」
アキは普段どおりに、夕ごはんの内容を伝えた。
他方、4人に背中を向けているアレクシは肩を震わせていた。
そして、くるりと背後へ体を向けると、
「きみたちは繊細な心のぼくの言葉の真意がわからないのかい?! ぼくは、この家から出ていくと言っているんだよ!」
「お散歩に行くなら、ちょっと先にあるファッツェル・カフェのサンドイッチも買ってきて欲しいヌー!」
「いや、だからね、ぼくは家出をするって言ってるんだよ?!」
アレクシは心底困ったような少し苛立ったような顔を、ヌーッティへ向けた。
「家で? 何で?」
ヌーッティとアレクシのかみ合わない会話にトゥーリが割って入った。
アレクシは頭をかいて、ひと息はいた。
「ぼくは、もともと『ニヒルでかっこいい』風の精霊だったのに、ヌーッティの影響で、ヌーッティの傍若無人に引っ張られて、なぜかギャグキャラに転落しつつあるんだ」
「もともと、アレクシは『アヒルでかっこいい』風の精霊じゃないヌー。赤リス姿の風の精霊さんだヌー」
「ほら、いつもこうなるんだ! まったく!」
アレクシはその場で地団駄を踏んだ。
「ぼくは、ぼく本来のかっこよさを取り戻すために、この家を出る! じゃあね!」
言い終えるが早いか、アレクシはふわりと風を操り、宙を漂いながら窓へ行くと、窓を開けることなく、外へ出ていってしまった。
トゥーリとリュリュとアキの視線は、のんきに焼きりんごを完食し終えたヌーッティに向けられていた。
「ヌーッティ。さすがに引き止めたほうが良かったんじゃないのか?」
アキはヌーッティの口周りをウェットティッシュで拭き取りながら訊いた。
「ヌーは何もしてないヌー。おやつを食べてただけだヌー」
ヌーッティの返答に3者は、がくりと肩を落とした。
「まあ、でもこれで、わたくしとトゥーリ様の仲を邪魔する者が減ったから良しとしましょう」
リュリュは微笑みながら話をまとめようとした。
「しばらくすれば、戻ってくるよ。アレクシもヌーッティと同じで、食欲には忠実だし」
トゥーリは正論を展開した。
「確かに。それもそうだな」
アキとリュリュはトゥーリの言葉に納得した。
しかし、ただひとり、腑に落ちないといった顔をした人物がいた。ヌーッティであった。
ヌーッティは考えていた。
もし、このままアレクシが本当にアキの家から出ていってしまったら、お菓子や果物がなくなるたびに、これから、毎回、ヌーッティひとりに、みんなからの疑いの目が向けられるのではないかと。
今までは、アレクシが冷凍庫のブルーベリーやキッチンに置かれたりんごを食べていたので、ヌーッティかアレクシの2者に疑いの目が向けられていた。
つまり、誤魔化せたのであった。
だが、アレクシがいなくなってしまったら、どうなるのか。
――ヌーのピンチだヌー!
ヌーッティは、そのことに気がついた。
口周りをアキに拭いてもらったヌーッティはすっと立ち上がった。
「みんな、アレクシに冷た過ぎるヌー! ヌーがアレクシを連れ戻すヌー!」
ヌーッティは意を決した面持ちで、決意を固めた。
己がための利益 (食い意地)のために。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【完結】やいまファンタジー、もうひとつの世界
BIRD
児童書・童話
2024.8.28 本編完結しました!
七海とムイ、ふたりの視点で進む物語。
八重山諸島の伝説の英雄オヤケアカハチが、ちがう未来に進んだ世界の話です。
もしもイリキヤアマリ神がアカハチに力を貸していたら?
もしも八重山(やいま)が琉球国や日本とは別の国になっていたら?
そんなことを考えながら書いています。
算数が苦手な小学6年生・城間 七海(しろま ななみ)。
0点をとってしまった答案用紙を海辺へかくしに行ったら、イタズラ者のキジムナー「ムイ」に答案用紙を飛ばされた。
七海はそれを追いかけて海まで入っていき、深みにはまって流されてしまう。
あわてたムイが七海を助けようとしたとき、不思議な光の円が現れた。
2人が引きこまれたのは、星の海。
七海はそこで、自分そっくりな男の子とすれちがう。
着ている服がちがうだけで、顔も体つきもそっくりな子。
七海そっくりな男の子はこう言った。
「やあこんにちは。あとはまかせたよ」
けれど七海が話しかける前に、男の子は通り過ぎてどこかへ消えてしまう。
七海たちが光のトンネルからおし出された場所は、知らない砂浜。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、知らない大人たちがあわてた様子でかけ寄ってきた。
七海は、だれかとまちがわれて連れて行かれてしまう。
そこは、七海の世界とはちがう歴史をもつ、もうひとつの世界。
七海は、ヤイマ国の第七王子ナナミにそっくりだった。
おまけに、ヤイマ国の王妃は、七海のママにそっくり。
王妃から「ナナミがもどってくるまで第七王子のフリをしてほしい」とお願いされた七海は、しばらくお城で暮らすことになる。
ひとりっこの七海に6人も兄が出来て、うれしかったり、とまどったり。
すぐ上の兄リッカとは、いちばんの仲良しになる。
七海が王子の代わりに勉強することになるのは、なんと魔術(マジティー)。
七海は魔術書を読んでみて、その内容が算数よりもずっとカンタンだと気づいた。
※第2回きずな児童書大賞エントリー
8月から本編スタートしました。
おまけとして、島の風景や暮らしや伝説なんかも書いています。
沖縄の食べ物も画像つきで紹介!
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
おとなりさんはオカン男子!
清澄 セイ
児童書・童話
中学一年生の白石ツバサは、部活見学の時にソフトテニス部のコートでキラキラ輝いていた二年生・王寺先輩に一目惚れ。友達の春と共にテニス部に入部することに。
偶然龍之介が大のお菓子好きで「お菓子作りが得意な家庭的な子がタイプ」という話を耳にして、自分とは正反対のタイプだと落ち込む。
そんな時、ひょんなことから最近越してきたお隣さんが、同じクラスのクールなイケメン甘崎君であることが判明。
なんと彼には弟が四人いて、他界した母と忙しい父の為に、家事を一手に担う「オカン男子」だったのだ。クラスでのクールで真面目な姿とは全く違うエプロン姿の彼に初めは驚くツバサだったが、何かと世話をやく真白と徐々に距離を縮めていき……。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
ワガママ姫とわたし!
清澄 セイ
児童書・童話
照町明、小学5年生。人との会話が苦手な彼女は、自分を変えたくても勇気を出せずに毎日を過ごしていた。
そんなある日、明は異世界で目を覚ます。そこはなんと、絵本作家である明の母親が描いた物語の世界だった。
絵本の主人公、ルミエール姫は明るく優しい誰からも好かれるお姫さま…のはずなのに。
「あなた、今日からわたくしのしもべになりなさい!」
実はとってもわがままだったのだ!
「メイってば、本当にイライラする喋り方だわ!」
「ルミエール姫こそ、人の気持ちを考えてください!」
見た目がそっくりな二人はちぐはぐだったけど…
「「変わりたい」」
たった一つの気持ちが、世界を救う…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる