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作れ! 新しいお洋服!
4.選べ! お似合いの色!
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アキとハンナとトゥーリ、そしてヌーッティの4人は、ヘルシンキ中央駅にほど近い、
ショッピングモールの向かいのビル1階に入っている手芸店へとやって来た。
こぢんまりとした店内には色とりどりの布が、本棚にしまわれている本のように立てて並べられていた。また、きらきら光るビーズに、幾色ものリボン。見ていると心躍るような気持ちにさせられる内観であった。
「アキ、楽しそうだね」
ハンナが隣に立つアキへと声をかけた。
顔をのぞき込まれるようにハンナに見られたアキは、
「裁縫は嫌いじゃないから」
言いながらハンナから顔を背けた。
「手芸屋さんってこんなに楽しい場所だったヌー⁈ どうして今まで連れてきてくれなかったヌー⁈ ずるいヌー!」
目を輝かせて頬を赤く染め、興奮した様子でヌーッティはアキに尋ねた。
「連れてきたら絶対に迷子になっちゃうから、連れて来なかったんだよ」
返答はトゥーリからであった。
呆れた面持ちのトゥーリはため息をひとつ吐いた。
アキとハンナは二人のやり取りを見て、顔を見合わせると、苦笑した。
「それじゃあ、さっそく生地を選ばなきゃだな」
そう言ってアキは先頭に立ち、布の並ぶコーナーへ向かった。
布コーナーに着くと、アキはトゥーリにどんなワンピースがいいのか尋ねた。
トゥーリは前のと同じ赤色のワンピースがいいと答えた。
「そうすると、前のより伸縮性のある生地にしたほうがいいから……えっと、これはどう?」
アキは布を棚から取り出すと、ハンナに抱えられているトゥーリに当ててみた。
「もうちょっと濃い色の赤がいい。あと、この生地より、もっと柔らかいものがいい」
トゥーリの要望を聞いたアキは手にしていた布を棚へ戻すと、数歩歩いて、柔らかでのびの良い、深い赤の布を棚から引き出した。
「これは?」
「もうちょっと、明るいほうがいい」
こうして、アキとトゥーリとハンナは布地選びに夢中になっていた。
だからこそ、気づけなかった。
アキの肩に乗っていたはずのヌーッティがいなくなっていたことに。
——時間を遡ること、布地選び開始直後。
ヌーッティはすでに飽きていた。
それもそのはず、ヌーッティの服を作るわけでもないため、ヌーッティの関心はどこへやら。
むしろ、ヌーッティは自分用の新しい一張羅——もとい、新しいリボンを見つけるべく、アキの肩から降りて、店内を探検し始めていた。
「トゥーリばっかりずるいヌー。ヌーも新しいお洋服が欲しいヌー」
ヌーッティはリボンが並べられている棚をうろうろしながらぼやいた。
「でも、おリボンだけ替えるのは何か違うヌー。やっぱり、紳士らしく裾がツバメっぽい、音楽やってる人が着ている服みたいなのが欲しいヌー」
店内をちょこちょこと駆け回り、ヌーッティはヌーッティが理想とする服を作るべく——正確には、アキに作ってもらうべく、生地を探し回った。
それに夢中であったヌーッティは気づくはずもなかった。
背後からヌーッティをのぞき見る小さな人影に。
ショッピングモールの向かいのビル1階に入っている手芸店へとやって来た。
こぢんまりとした店内には色とりどりの布が、本棚にしまわれている本のように立てて並べられていた。また、きらきら光るビーズに、幾色ものリボン。見ていると心躍るような気持ちにさせられる内観であった。
「アキ、楽しそうだね」
ハンナが隣に立つアキへと声をかけた。
顔をのぞき込まれるようにハンナに見られたアキは、
「裁縫は嫌いじゃないから」
言いながらハンナから顔を背けた。
「手芸屋さんってこんなに楽しい場所だったヌー⁈ どうして今まで連れてきてくれなかったヌー⁈ ずるいヌー!」
目を輝かせて頬を赤く染め、興奮した様子でヌーッティはアキに尋ねた。
「連れてきたら絶対に迷子になっちゃうから、連れて来なかったんだよ」
返答はトゥーリからであった。
呆れた面持ちのトゥーリはため息をひとつ吐いた。
アキとハンナは二人のやり取りを見て、顔を見合わせると、苦笑した。
「それじゃあ、さっそく生地を選ばなきゃだな」
そう言ってアキは先頭に立ち、布の並ぶコーナーへ向かった。
布コーナーに着くと、アキはトゥーリにどんなワンピースがいいのか尋ねた。
トゥーリは前のと同じ赤色のワンピースがいいと答えた。
「そうすると、前のより伸縮性のある生地にしたほうがいいから……えっと、これはどう?」
アキは布を棚から取り出すと、ハンナに抱えられているトゥーリに当ててみた。
「もうちょっと濃い色の赤がいい。あと、この生地より、もっと柔らかいものがいい」
トゥーリの要望を聞いたアキは手にしていた布を棚へ戻すと、数歩歩いて、柔らかでのびの良い、深い赤の布を棚から引き出した。
「これは?」
「もうちょっと、明るいほうがいい」
こうして、アキとトゥーリとハンナは布地選びに夢中になっていた。
だからこそ、気づけなかった。
アキの肩に乗っていたはずのヌーッティがいなくなっていたことに。
——時間を遡ること、布地選び開始直後。
ヌーッティはすでに飽きていた。
それもそのはず、ヌーッティの服を作るわけでもないため、ヌーッティの関心はどこへやら。
むしろ、ヌーッティは自分用の新しい一張羅——もとい、新しいリボンを見つけるべく、アキの肩から降りて、店内を探検し始めていた。
「トゥーリばっかりずるいヌー。ヌーも新しいお洋服が欲しいヌー」
ヌーッティはリボンが並べられている棚をうろうろしながらぼやいた。
「でも、おリボンだけ替えるのは何か違うヌー。やっぱり、紳士らしく裾がツバメっぽい、音楽やってる人が着ている服みたいなのが欲しいヌー」
店内をちょこちょこと駆け回り、ヌーッティはヌーッティが理想とする服を作るべく——正確には、アキに作ってもらうべく、生地を探し回った。
それに夢中であったヌーッティは気づくはずもなかった。
背後からヌーッティをのぞき見る小さな人影に。
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