トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

文字の大きさ
103 / 163
作れ! 新しいお洋服!

4.選べ! お似合いの色!

しおりを挟む
 アキとハンナとトゥーリ、そしてヌーッティの4人は、ヘルシンキ中央駅にほど近い、
ショッピングモールの向かいのビル1階に入っている手芸店へとやって来た。
 こぢんまりとした店内には色とりどりの布が、本棚にしまわれている本のように立てて並べられていた。また、きらきら光るビーズに、幾色ものリボン。見ていると心躍るような気持ちにさせられる内観であった。
「アキ、楽しそうだね」
 ハンナが隣に立つアキへと声をかけた。
 顔をのぞき込まれるようにハンナに見られたアキは、
「裁縫は嫌いじゃないから」
 言いながらハンナから顔を背けた。
「手芸屋さんってこんなに楽しい場所だったヌー⁈ どうして今まで連れてきてくれなかったヌー⁈ ずるいヌー!」
 目を輝かせて頬を赤く染め、興奮した様子でヌーッティはアキに尋ねた。
「連れてきたら絶対に迷子になっちゃうから、連れて来なかったんだよ」
 返答はトゥーリからであった。
 呆れた面持ちのトゥーリはため息をひとつ吐いた。
 アキとハンナは二人のやり取りを見て、顔を見合わせると、苦笑した。
「それじゃあ、さっそく生地を選ばなきゃだな」
 そう言ってアキは先頭に立ち、布の並ぶコーナーへ向かった。
 布コーナーに着くと、アキはトゥーリにどんなワンピースがいいのか尋ねた。
 トゥーリは前のと同じ赤色のワンピースがいいと答えた。
「そうすると、前のより伸縮性のある生地にしたほうがいいから……えっと、これはどう?」
 アキは布を棚から取り出すと、ハンナに抱えられているトゥーリに当ててみた。
「もうちょっと濃い色の赤がいい。あと、この生地より、もっと柔らかいものがいい」
 トゥーリの要望を聞いたアキは手にしていた布を棚へ戻すと、数歩歩いて、柔らかでのびの良い、深い赤の布を棚から引き出した。
「これは?」
「もうちょっと、明るいほうがいい」
 こうして、アキとトゥーリとハンナは布地選びに夢中になっていた。
 だからこそ、気づけなかった。
 アキの肩に乗っていたはずのヌーッティがいなくなっていたことに。

 ——時間を遡ること、布地選び開始直後。

 ヌーッティはすでに飽きていた。
 それもそのはず、ヌーッティの服を作るわけでもないため、ヌーッティの関心はどこへやら。
 むしろ、ヌーッティは自分用の新しい一張羅——もとい、新しいリボンを見つけるべく、アキの肩から降りて、店内を探検し始めていた。
「トゥーリばっかりずるいヌー。ヌーも新しいお洋服が欲しいヌー」
 ヌーッティはリボンが並べられている棚をうろうろしながらぼやいた。
「でも、おリボンだけ替えるのは何か違うヌー。やっぱり、紳士らしく裾がツバメっぽい、音楽やってる人が着ている服みたいなのが欲しいヌー」
 店内をちょこちょこと駆け回り、ヌーッティはヌーッティが理想とする服を作るべく——正確には、アキに作ってもらうべく、生地を探し回った。
 それに夢中であったヌーッティは気づくはずもなかった。
 背後からヌーッティをのぞき見る小さな人影に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...