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ヌーッティの秘密・後編
4.小熊の妖精ヌーッティ
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「ヌーッティがある事件で亡くなったのよ」
そう切り出すと、ミエリッキは再び話し始めた。
散歩へ出かけた母シヴィと姉のイーリスとマイッキとヌーッティであったが、途中で末っ子のヌーッティが迷子になってしまった。
ヌーッティがいないことに気づいたシヴィは2匹の小熊を引き連れて、息子を探した。
探していると、突然、森の外れにある急流のほうから小熊の悲鳴が聞こえてきた。
シヴィとイーリスとマイッキたちは急いで悲鳴の聞こえてきた方へ向かった。
すると、矢が突き刺さり、手足が毒に冒され、四肢を刃で切り刻まれて血を流して倒れている小熊がいた。
それはヌーッティであった。
倒れ伏すヌーッティに駆け寄ったシヴィは警戒しながら周囲を見渡した。
シヴィは「ヌーッティを傷つけたのは誰か⁈」と叫んだ。
ややあって、岩陰から1人の老人が出てきた。
その男性はポホヨラに住む盲目の狩人マルカハットゥであった。
シヴィは、なにゆえ幼い小熊のヌーッティに矢を放ったのか、刃で切り裂いたのか問いただした。
盲目の老人マルカハットゥは憤りの表情で、
「私の大事な水蛇にいたずらをしたから射貫いてやったのだ。切り刻んだのだ!」
語気荒く言い放った。
無礼な物言いのマルカハットゥに対して、シヴィはさらに激昂し、
「森の守護者の子どもであると知ったうえで射貫いたのか? 次代を担う幼子で、森の守り手となる子であると知った上で切り裂いたのか?」
叫ぶように尋ねた。
だが、傲慢なマルカハットゥは激情に駆られたシヴィを見下して、鼻で笑った。
「そんな子ども水蛇の毒が回って死ねばいい! 傷口から血が流れ出て死ねばいい!」
度を超したマルカハットゥの言葉を聞いたシヴィは、盲目の狩人に襲いかかった。
けれども、マルカハットゥは魔術で大気を操ると、シヴィの手をかわして、一瞬のうちに逃げ去ってしまった。
シヴィたちは追いかけて報復することすらできなかった。
魔術を使って治癒を施すには、もう手遅れであった。
ただ、呼吸が弱くなっていくヌーッティを看取ることしかできなかった。
やがて、ヌーッティの呼吸が、心音が止まった。
シヴィと姉たちは深い悲しみに落とされたのであった。
「ヌーが死んじゃったヌー? でも、ヌーは生きてるヌー⁈」
思考が混線しているヌーッティがミエリッキに尋ねた。
「まだ、話の先があるのよ」
ミエリッキは酷く動揺しているヌーッティの頭をそっと撫でると、再び語り始めた。
ヌーッティが亡くなってから幾日も幾月が経っても、シヴィと姉たちの悲しみは深まるばかりであった。
悲しみに打ちひしがれるシヴィは、死界を統べ光と影を司る存在であるユマラに、天空をたゆたう存在ウッコに、そして、人間と魔法を繋ぎとめ世界を支える存在ヴィロカンナスに祈った——私の命を捧げる代わりに、ヌーッティを蘇らせて欲しい、と。
三者は話し合い、シヴィの祈りを叶えることを約束した。
ただし、死したシヴィの魂を冥府トゥオネラの奥の奥に封印することを条件として。
シヴィはその条件をのみ、残される2匹の子どもたちのこと、生き返ったヌーッティのことを親友のミエリッキに託し、命を捧げた。
そして、
「シヴィが亡くなったのち、ヌーッティは小熊の妖精として蘇ったのよ」
「ミエリッキ。どうして妖精として蘇らせたの? 熊としてでなく」
ミエリッキが話し終えたタイミングでトゥーリが質問をした。
「残念だけど、熊として蘇らせることは不可能だったのよ。なぜなら、熊として蘇らせることは世界の規則を逸脱することだから、彼らにもできなかったというわけ」
「蘇ったヌーッティがどうして今まで私たちの前に姿を現さなかったの?」
今度はマイッキが尋ねた。
「妖精であるヌーッティは、森の女王や守護者となる姉たちとは一緒に暮らすことができないのよ。これも世界の理のひとつなの」
「ヌーッティの背丈が小さくなったのも、妖精として蘇ったときの影響なのでしょうか?」
イーリスがミエリッキの目を見据えた。
ミエリッキはひとつ頷き、
「違うわ。私が三者に頼んだのよ。大きな世界を見て欲しくて、旅にうってつけの小さな背丈にしてって」
深い困惑の面持ちのトゥーリとイーリスとマイッキに反して、ヌーッティはきょとんとした表情を浮かべていた。
「ミエリッキの話は半分うそだヌー」
「ヌーッティ、自分のことなんだよ。ちゃんと受け止めて」
気落ちした様子のトゥーリがヌーッティを諭すように言った。
「ヌーが死んじゃったとか、そういうことは覚えてないヌー。けど、『大きな世界を見て欲しくて、旅にうってつけの小さな背丈にしてって』っていうのは、ちょっと違うヌー」
ヌーッティの言葉にミエリッキの顔が強ばった。
「じゃあ、どういうこと?」
トゥーリがヌーッティに訊いた。
「ミエリッキがヌーと遊ぶのを嫌になったんだヌー」
あっけらかんとヌーッティは答えた。
そして、ヌーッティの口から蘇ったあとのことが語られるのであった。
そう切り出すと、ミエリッキは再び話し始めた。
散歩へ出かけた母シヴィと姉のイーリスとマイッキとヌーッティであったが、途中で末っ子のヌーッティが迷子になってしまった。
ヌーッティがいないことに気づいたシヴィは2匹の小熊を引き連れて、息子を探した。
探していると、突然、森の外れにある急流のほうから小熊の悲鳴が聞こえてきた。
シヴィとイーリスとマイッキたちは急いで悲鳴の聞こえてきた方へ向かった。
すると、矢が突き刺さり、手足が毒に冒され、四肢を刃で切り刻まれて血を流して倒れている小熊がいた。
それはヌーッティであった。
倒れ伏すヌーッティに駆け寄ったシヴィは警戒しながら周囲を見渡した。
シヴィは「ヌーッティを傷つけたのは誰か⁈」と叫んだ。
ややあって、岩陰から1人の老人が出てきた。
その男性はポホヨラに住む盲目の狩人マルカハットゥであった。
シヴィは、なにゆえ幼い小熊のヌーッティに矢を放ったのか、刃で切り裂いたのか問いただした。
盲目の老人マルカハットゥは憤りの表情で、
「私の大事な水蛇にいたずらをしたから射貫いてやったのだ。切り刻んだのだ!」
語気荒く言い放った。
無礼な物言いのマルカハットゥに対して、シヴィはさらに激昂し、
「森の守護者の子どもであると知ったうえで射貫いたのか? 次代を担う幼子で、森の守り手となる子であると知った上で切り裂いたのか?」
叫ぶように尋ねた。
だが、傲慢なマルカハットゥは激情に駆られたシヴィを見下して、鼻で笑った。
「そんな子ども水蛇の毒が回って死ねばいい! 傷口から血が流れ出て死ねばいい!」
度を超したマルカハットゥの言葉を聞いたシヴィは、盲目の狩人に襲いかかった。
けれども、マルカハットゥは魔術で大気を操ると、シヴィの手をかわして、一瞬のうちに逃げ去ってしまった。
シヴィたちは追いかけて報復することすらできなかった。
魔術を使って治癒を施すには、もう手遅れであった。
ただ、呼吸が弱くなっていくヌーッティを看取ることしかできなかった。
やがて、ヌーッティの呼吸が、心音が止まった。
シヴィと姉たちは深い悲しみに落とされたのであった。
「ヌーが死んじゃったヌー? でも、ヌーは生きてるヌー⁈」
思考が混線しているヌーッティがミエリッキに尋ねた。
「まだ、話の先があるのよ」
ミエリッキは酷く動揺しているヌーッティの頭をそっと撫でると、再び語り始めた。
ヌーッティが亡くなってから幾日も幾月が経っても、シヴィと姉たちの悲しみは深まるばかりであった。
悲しみに打ちひしがれるシヴィは、死界を統べ光と影を司る存在であるユマラに、天空をたゆたう存在ウッコに、そして、人間と魔法を繋ぎとめ世界を支える存在ヴィロカンナスに祈った——私の命を捧げる代わりに、ヌーッティを蘇らせて欲しい、と。
三者は話し合い、シヴィの祈りを叶えることを約束した。
ただし、死したシヴィの魂を冥府トゥオネラの奥の奥に封印することを条件として。
シヴィはその条件をのみ、残される2匹の子どもたちのこと、生き返ったヌーッティのことを親友のミエリッキに託し、命を捧げた。
そして、
「シヴィが亡くなったのち、ヌーッティは小熊の妖精として蘇ったのよ」
「ミエリッキ。どうして妖精として蘇らせたの? 熊としてでなく」
ミエリッキが話し終えたタイミングでトゥーリが質問をした。
「残念だけど、熊として蘇らせることは不可能だったのよ。なぜなら、熊として蘇らせることは世界の規則を逸脱することだから、彼らにもできなかったというわけ」
「蘇ったヌーッティがどうして今まで私たちの前に姿を現さなかったの?」
今度はマイッキが尋ねた。
「妖精であるヌーッティは、森の女王や守護者となる姉たちとは一緒に暮らすことができないのよ。これも世界の理のひとつなの」
「ヌーッティの背丈が小さくなったのも、妖精として蘇ったときの影響なのでしょうか?」
イーリスがミエリッキの目を見据えた。
ミエリッキはひとつ頷き、
「違うわ。私が三者に頼んだのよ。大きな世界を見て欲しくて、旅にうってつけの小さな背丈にしてって」
深い困惑の面持ちのトゥーリとイーリスとマイッキに反して、ヌーッティはきょとんとした表情を浮かべていた。
「ミエリッキの話は半分うそだヌー」
「ヌーッティ、自分のことなんだよ。ちゃんと受け止めて」
気落ちした様子のトゥーリがヌーッティを諭すように言った。
「ヌーが死んじゃったとか、そういうことは覚えてないヌー。けど、『大きな世界を見て欲しくて、旅にうってつけの小さな背丈にしてって』っていうのは、ちょっと違うヌー」
ヌーッティの言葉にミエリッキの顔が強ばった。
「じゃあ、どういうこと?」
トゥーリがヌーッティに訊いた。
「ミエリッキがヌーと遊ぶのを嫌になったんだヌー」
あっけらかんとヌーッティは答えた。
そして、ヌーッティの口から蘇ったあとのことが語られるのであった。
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