トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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ヌーッティの秘密・後編

3.森の女主人ミエリッキ

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 エメラルドグリーンに輝く美しい女性が森の奥から姿を現した。
 服装こそ人間が着ている装いと同じではあるが、凛とした神々しい雰囲気をまとわせ、一見して、彼女がただ者ではないことがわかるほどであった。
 その女性に対して、イーリスとマイッキ、そしてトゥーリの3人は深々とおじぎをした。
「私を呼ぶのはイーリス?」
 森の女主人ミエリッキは、頭を垂れるイーリスに向かって話しかけた。
「そうだヌー! イーリスとマイッキが呼んだヌー!」
 1人だけおじぎをしなかったヌーッティが元気よくミエリッキに答えた。
「ヌー? 今、ヌーって……もしかして、ヌーッティ⁈」
 ミエリッキは金色の瞳を丸くして、彼女の膝にも届かない背丈のヌーッティを見た。
「ヌーッティ! ちゃんと挨拶して!」
 横からトゥーリがヌーッティの脇腹を小突いて合図を送った。しかし、
「痛いヌー。ぼうりょくはよくないヌー!」
 ヌーッティはトゥーリの意を汲むことなく、いつも通りの調子で応えた。
「3人とも頭を上げて。そこまでかしこまらなくてもかまわないわよ」
 トゥーリとイーリスとマイッキは頭を上げ、目の前に立つミエリッキを見つめた。
 神話の時代から存在し続けている森の女主人ミエリッキの服装を見たヌーッティが首を傾げた。
「昔みたいな、ひらひらしたドレスじゃないヌー」
「さすがに昔着ていたドレスを今は着られないわ。まあ、特別なときには正装をするけれど、普段はこの格好の方が好きなのよ。それにしても相変わらずね、ヌーッティ」
 ミエリッキは苦笑を浮かべてヌーッティを一瞥すると、今度は視線をイーリスとマイッキに移した。
「それで、何かあったの? 私を呼ぶなんて」
 イーリスとマイッキはこくりと頷いた。
「あなたの亡き親友シヴィの娘として、森の女王イーリスとして教えて欲しいことがあるのです」
「同じくシヴィの娘、森の番人マイッキからもお願いがございます」
 イーリスとマイッキはミエリッキに丁寧な言葉で話しかけた。
「何が知りたいの? 私に何を願うの?」
 ミエリッキは両腕を胸の前で組みながら、イーリスとマイッキに訊いた。
「私たちの弟、この小っちゃな小熊の妖精ヌーッティのことを知りたいのです」
 イーリスとマイッキは、それぞれ手で2人の足元でちょろちょろ動いているヌーッティを指し、ミエリッキに願い出た。
 ミエリッキは首肯すると、
「いいでしょう。そのために私が呼ばれたのだから。私の知る限りのことを教えましょう」
 ミエリッキの返答にイーリスとマイッキ、そしてトゥーリはほっと胸を撫で下ろした。
 それというのも、イーリスやマイッキ、トゥーリよりも上位にいる高貴なる精霊ミエリッキに願うことは、トゥーリたちにとって、それなりに緊張することなのであった。
 1名の例外を除いて。
「ヌーはこのひと苦手だヌー」
 ヌーッティのこのひとことで、トゥーリとイーリスとマイッキ、さらにはミエリッキまでもが呆れたようにため息をこぼした。
 同時にため息をついた4者は気を取り直すと、ミエリッキに促されて、近くの木の根元に腰掛けた。
「具体的にどういった事が知りたいの?」
 ミエリッキがトゥーリたちに尋ねた。
 トゥーリはミエリッキを真っ直ぐに見つめ、
「ヌーッティが、どうして『呪われた小熊』と呼ばれているかです」
 しっかりとした口調で答えた。
 ミエリッキは頬にかかる髪を右手で後ろに流すと、その手を軽く口元に当てた。
「その噂のことね。それなら、ヌーッティが生まれるちょっと前のことから話しましょうか」
 ミエリッキは子どもらに昔話を聞かせるような口調で語り始めた。
 ヌーッティの誕生のことを。
 ヌーッティがなぜ「呪われた小熊の妖精」と呼ばれているのかについて。
 昔むかし、北の森の奥深くにシヴィという熊の女王がいた。
 シヴィは熊の女王であると同時に森の女王でもあり、森に住まうものたちを守る存在でもああった。
 そんな高貴な存在であるシヴィは、精霊や妖精、動物や植物たちから敬われていた。
 また、シヴィには森の女主人ミエリッキという親友がいた。
 2人は仲が良く、満月の夜ごとに酒宴を催していた。
 ある年のこと。シヴィは、人間と魔法を繋ぎとめ世界を支える存在であるヴィロカンナスから、次代を担う子を産むよう告げられ、森に実る苔桃の実を3粒食べ、身ごもった。
 苔桃の実を食べてから半年後、シヴィは3匹の小熊を出産した。
 小熊は女の子が2匹に男の子が1匹。
 シヴィはミエリッキに名付け親になって欲しいと頼み、ミエリッキは3匹の小熊に名前をつけた。
 一番上の子である女の子にはイーリス、二番目の子どもである女の子にはマイッキ、そして、三番目の子どもである男の子にはヌーッティと。
 冬が過ぎ、春が訪れ、小熊たちが巣穴を出て、母であるシヴィと森を散策していたときに悲劇は起きた。
 ミエリッキはそこでひと息吐くと、沈痛な面持ちで口を開いた。
「そこで、ヌーッティが死んだのよ」
 誰もが押し黙った。
 あのヌーッティでさえ沈黙した。
 そして、再びミエリッキは話の続きを語り始めるのであった。
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