トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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ヌーッティとアレクシ

4.始まりのビスケットと終わりのジェリー

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 ヌーッティたち4人の視線は部屋へ入って来たアキに注がれた。
「アキだヌー! 犯人だヌー!」
 ヌーッティはアキを指さして泣き叫んだ。
 アキは怪訝な顔つきでアレクシ姿のヌーッティを見やる。
「何でアレクシはヌーッティの真似してんの?」
「まねじゃないヌー! ヌーがアレクシでアレクシがヌーになっちゃったヌー!」
 ヌーッティは床をぽかぽか叩きながらアキに訴えた。
 アキは、アレクシ姿のヌーッティの言葉をゆっくりと反芻しながら自身のうちに溶け込ませていく。それから間がややあり、はっとした表情になると、
「もしかして、2枚のビスケット食べた?」
 アレクシ姿のヌーッティへ問いかけた。
 涙をたたえるヌーッティは頷いた。
 沈黙が訪れた。
 同時に、アキの顔から血の気が引いていった。
 そして、
「人格、入れ替わった⁈」
 ヌーッティたち4人は頷いて答えた。
 アキは額に手を当ててうな垂れた。
「捨てようと思ってたのに、まさか……、いや、それより……」
 独り言ちるアキをトゥーリは見上げると、
「どうすれば2人は戻るの?」
 心配な面持ちで尋ねた。
「1週間は元に戻れないんだよ」
 重い溜め息をこぼすアキを見つめているトゥーリは、
「そもそも、なんでその薬草を持っていたの?」
 訝って尋ねた。
「イルマリネンさんから預かっていたんだよ。彼がしばらく旅行に行っている間の管理を任されてて、その、面白かったから薬草を使ってビスケットを作ったんだけど……まさか、こうなるとは」
 アレクシ姿のヌーッティは首を横に振りながら、
「ヌーは1週間もこのままヌー?」
 震える声で尋ねると、アキはこくりと頷いた。
「他に手はないのかい?」
 ヌーッティ姿のアレクシがアキに訊いた。
「手荒な方法なら1つだけ、ある」
 アキの言葉で、ヌーッティとアレクシの顔に明るさが灯った。
「やるヌー! 教えて欲しいヌー!」
「試してみる価値はある! どうすればいい?」
 嬉々とした2人を見つめているアキは眉間に皺を寄せると、
「外部から強い力を2人同時に加えると戻るんだけど……」
 ちらりとトゥーリを見た。
 トゥーリはヌーッティの手を強く掴み、リュリュがアレクシの体をがっしりと捉えて動かないようにした。
「ようするに、強い力を2人に同時に加えればいいんだよね?」
 トゥーリの言葉にアキは頷いた。
 それを見てからトゥーリは身体を半身捻ると、
「歯を食いしばれ!」
 ヌーッティの頭をアレクシの頭に力一杯ぶつけた。
 ヌーッティとアレクシの2人の断末魔のような叫びが部屋と廊下に響き渡ったのは言うまでもない。

***

「痛かったヌー」
 ヌーッティはおでこを撫でながら涙目でアキとトゥーリに訴えた。それは、ようやくヌーッティがヌーッティに、アレクシがアレクシに戻ってからのこと。
「とばっちりもいいとこだ」
 アレクシが赤く腫れた頭に手を当てながら愚痴った。
「管理が甘かったのは悪いと思っているけれど、ビスケットが部屋にあるからって拾い食いしないようにな」
 アキは言って溜め息を吐いた。
 こうして、無事(?)に元に戻ることができたヌーッティとアレクシであったが数日後、ヌーッティはアキの部屋で綺麗な翡翠色をしたジェリーのようなお菓子2つを見つけた。
「おいしそうだヌー」
 よだれを垂らしているヌーッティの手がジェリーに伸びる。
 その後のヌーッティのことは誰も知らない。
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