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ヌーッティとアレクシ

3.秘密のビスケット

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 勢いよく部屋へ入って来たリュリュに、ヌーッティたちの視線が集まった。リュリュは3人に見つめられ、眉間に皺を寄せた。
「何が起こったというのです?」
 リュリュはヌーッティたちへ歩み寄りながら尋ねた。
「真犯人はリュリュだヌー!」
 アレクシ姿のヌーッティがリュリュを指さした。
「はあ?」
 リュリュは訝る。トゥーリは足にしがみつくヌーッティを見やり、
「待って。まだ、リュリュがやったって証拠ないでしょ」
 興奮するヌーッティを落ち着かせるような口調で、諭すように言った。
「わたくしには何がなんだかわかりませんわ」
「知っているさ。ぼくを大好きなきみが、ぼくをこんなわけのわからない小熊の妖精にすることはないって」
 ヌーッティ姿のアレクシは、リュリュに向かってウインクをひとつ飛ばした。
「やめなさい、ヌーッティ。気持ち悪いですわ」
 リュリュはアレクシのウインクを言葉で一刀両断した。
「ち、違うよ! ぼくだよ! ぼく!」
 そうだと気づいて慌てたアレクシは自身を指さし、リュリュに目一杯主張した。だが、リュリュは首を傾げるだけであったが、
「それ、詐欺師っぽいから止めなよ、アレクシ」
 トゥーリの言葉を聞いてはっとした表情になった。
「もしかして、ヌーッティがアレクシで、アレクシがヌーッティに⁈」
 リュリュに交互に見られているヌーッティとアレクシは頷くと、振り返って窓のほうを見た。
「ベッドサイドテーブルに置いておいたビスケット……誰が食べたのですか?」
 リュリュの質問で、トゥーリが足元にいるヌーッティを見た。
「まさか、また拾い食いしたの?」
 アレクシ姿のヌーッティがびくりと体を震わせた。
「ヌーッティだけではありませんわ。ビスケットは2枚あったはずですわ」
 リュリュとトゥーリとヌーッティは、そっぽを向けて口笛を吹いているヌーッティ姿のアレクシを見た。
「アレクシ?」
 トゥーリの低い声でアレクシの口笛が止まる。
 アレクシがゆっくりと顔をトゥーリへ向ける。
「えっと……いやぁ、あのぉ……」
 顔が青ざめていくアレクシの肩をトゥーリはぽんっと叩くと、
「ちょっと廊下へ出て話そうか?」
「ごめん! ごめん! たしかに食べた! だから、その握った右手を下ろしてくれ!」
 アレクシはあっさりと白状した。
 トゥーリは怯えるアレクシからリュリュへ顔を向け直すと、
「そのビスケット、食べるとどうなるの?」
「食べた2人の人格が入れ替わりますわ」
 リュリュは頬に手を当てて重い溜め息を吐いた。
「なんで、リュリュはそんなビスケットを作ったヌー?」
 アレクシ姿のリュリュが尋ねると、リュリュの表情が強張った。トゥーリとヌーッティとアレクシがじっとリュリュを見据える。リュリュの目が泳ぐ。
「リュリュ?」
 トゥーリの冷たい目がリュリュを捉える。
「えー……、本日は雪日和ですわねぇ……」
 リュリュの声が静まった部屋に溶け消えた。
 だが、沈黙に耐えきれなくなったリュリュが、
「ちょっとした出来心ですわ! ヌーッティとわたくしを入れ替えてみようかと……」
 トゥーリに向かって謝った。
 そんなリュリュに構うことなくヌーッティが笑みを浮かべた。
「世界一可愛いヌーになりたかったんだヌー!」
「違います」
 リュリュが即座に否定した。
「わたくしは、ただ、トゥーリ様ともっと一緒にいたくて……」
 トゥーリは右手を額に当てて、うな垂れた。
「それで、どうすれば元に戻るの?」
「わかりませんわ。調合したのはアキですもの」
「え⁈」
 突然出てきたその名前に、トゥーリたちは驚きの様相を顔に出した。
 そこへ、
「リュリュ。あの薬草どうした?」
 アキが部屋へ入って来た。
 驚きの表情のトゥーリたちは一斉にアキを見た。
 あの薬草とは何か。ヌーッティとアレクシは元に戻ることができるのか。すべてはアキに委ねられたのであった。
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