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ヌーッティの7日間ダイエット
1.ヌーッティと250グラムのポテトチップス
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ある初夏の昼下がり。
開けっ放しの窓の外から流れ込む草花の匂いが、アキの部屋に充ちる。
トゥーリは勉強机の上で動画を視聴し、その背後、ベッドの上では、ヌーッティが大きなポテトチップスの袋の中に、頭から腰まですっぽりと入っていた。
がさがさ、ぽりぽりぽりぽり。
ごそごそ、ぽりぽりぽりぽり。
ヌーッティのポテトチップスを食べる音が部屋中に響く。
間断なく続くポテトチップスを食べる音が止んだのは、トゥーリが3分ほどの動画を視聴し終えたときであった。
トゥーリが後ろを振り返り、ポテトチップスの袋を見て驚いた。
「ヌーッティ! 250グラムのポテトチップス、全部食べちゃったの⁈」
慌てて立ち上がったトゥーリへの、ヌーッティからの返答はなかった。
トゥーリは、ヌーッティが食べ終えて寝入ってしまったのではないかと思い、机からベッドに飛び移るとポテトチップスの袋へ駆け寄り中を覗き込んだ。
しかし、ヌーッティの姿はなかった。ポテトチップスもなかった。細かなポテトチップスのかけらまで、跡形もなく食べ尽くされていた。
トゥーリは不可解と驚きの混じった表情を浮かべた。
そこへ、がたんとベッド下から音がした。
トゥーリはベッドの端に行き、下を、床を見た。
すると、ヌーッティがビスケットの箱を抱えてベッド下から這い出てきた。
「ヌーッティ! ポテトチップス全部食べちゃったの?」
トゥーリが、ビスケットの箱を開けているお腹の膨れたヌーッティに声をかけた。
「食べちゃったヌー。トゥーリは食べないって言ってたから全部食べたヌー。おいしかったヌー」
ヌーッティは、幸せそうな微笑みを湛えた表情をトゥーリに向ける。
「そうじゃなくって、250グラムもあったんだよ? ひとりで全部食べないようにってアキから言われてたでしょ?」
「あ。忘れてたヌー」
朗らかに言ってのけたヌーッティを見て、トゥーリは溜め息を吐いた。そして、気づいた。ヌーッティがビスケットを出して食べ始めていることを。
ぼりぼりとビスケットを両手で食べるヌーッティの顔を見ていたトゥーリの目が、ヌーッティの大きく膨れた腹に向けられた。
「ねえ、ヌーッティ」
ヌーッティはビスケットを頬張りながら、トゥーリに視線を移す。
呆れ果てたトゥーリはひとこと、
「お腹、出過ぎじゃない?」
ヌーッティのお腹を指さして、指摘した。
言われてヌーッティは自身のお腹を見る。
「出てないヌー。ヌーの体型はさしゃだヌー」
「『さしゃ』じゃなくて『華奢』ね。っていうか、本当に出過ぎてるよ? またポットにはまって出られなくなるよ?」
トゥーリはベッドから床へ下りると、ヌーッティに歩み寄る。
「もうポットにははまらないヌー。ポットに入らないから大丈夫だヌー」
そう答えてビスケットを1枚、また1枚と食べていく。
「3回同じこと言って、3回ポットにはまったでしょ?」
ヌーッティのもとに来たトゥーリは、ヌーッティのお腹を手で触る。すると、ぼよんぼよんと大きくヌーッティのお腹が揺れた。
「ほら、食べ過ぎだって。お昼ごはんだって、おかわりしてたのに。そんなんじゃ、アキからもらったヒーロー服が着られなくなるよ?」
「ちゃんと着られるから大丈夫だヌー!」
「じゃあ、着てみてよ」
「いいヌー! ちょっと待つヌー!」
ヌーッティは手に持っていた食べかけのビスケットを食べるとベッド下へ行き、アキからもらった大好きなドラマのヒーローが着ている衣装と同じ服を引っ張り出してきた。もちろん、服はアキのお手製で、ヌーッティのサイズに仕立ててある。
ヌーッティは黄色のボディスーツに足を入れ、服を引っ張り上げた。ところが、
「ヌー⁈」
お腹のところで服がつかえてしまい、上に引っ張り上げられなかった。強引にちょっとでも引っ張り上げようものなら、びりっと破れそうであった。
「これはヌーの服じゃないヌー!」
「ヌーッティ以外誰も着ないよ」
ヌーッティの顔が青ざめていく。
トゥーリは呆れた眼差しでヌーッティを見据えると、
「これが真実だよ」
淡白な声色で告げた。
同時に、ヌーッティが沈痛な悲鳴を上げた。
数分後。
床に伏せ、さめざめと泣いているヌーッティの隣で、
「食べ過ぎには注意だよ」
トゥーリはヌーッティの肩をぽんと励ますように叩いた。
「やるヌー」
ヌーッティがぽつりと呟いた。
トゥーリは訝る。
がばっとヌーッティが起き上がると、
「ダイエットするヌー!」
両手を突き上げ、そう宣言した。
「トゥーリ!」
ヌーッティに名前を呼ばれたトゥーリは首を傾げる。
「トレーナーになって欲しいヌー! ヌーは1週間でもとの筋肉質な肉体に戻ってみせるヌー! だから手伝って欲しいヌー!」
こうして、ヌーッティのダイエットが始まったのである。
開けっ放しの窓の外から流れ込む草花の匂いが、アキの部屋に充ちる。
トゥーリは勉強机の上で動画を視聴し、その背後、ベッドの上では、ヌーッティが大きなポテトチップスの袋の中に、頭から腰まですっぽりと入っていた。
がさがさ、ぽりぽりぽりぽり。
ごそごそ、ぽりぽりぽりぽり。
ヌーッティのポテトチップスを食べる音が部屋中に響く。
間断なく続くポテトチップスを食べる音が止んだのは、トゥーリが3分ほどの動画を視聴し終えたときであった。
トゥーリが後ろを振り返り、ポテトチップスの袋を見て驚いた。
「ヌーッティ! 250グラムのポテトチップス、全部食べちゃったの⁈」
慌てて立ち上がったトゥーリへの、ヌーッティからの返答はなかった。
トゥーリは、ヌーッティが食べ終えて寝入ってしまったのではないかと思い、机からベッドに飛び移るとポテトチップスの袋へ駆け寄り中を覗き込んだ。
しかし、ヌーッティの姿はなかった。ポテトチップスもなかった。細かなポテトチップスのかけらまで、跡形もなく食べ尽くされていた。
トゥーリは不可解と驚きの混じった表情を浮かべた。
そこへ、がたんとベッド下から音がした。
トゥーリはベッドの端に行き、下を、床を見た。
すると、ヌーッティがビスケットの箱を抱えてベッド下から這い出てきた。
「ヌーッティ! ポテトチップス全部食べちゃったの?」
トゥーリが、ビスケットの箱を開けているお腹の膨れたヌーッティに声をかけた。
「食べちゃったヌー。トゥーリは食べないって言ってたから全部食べたヌー。おいしかったヌー」
ヌーッティは、幸せそうな微笑みを湛えた表情をトゥーリに向ける。
「そうじゃなくって、250グラムもあったんだよ? ひとりで全部食べないようにってアキから言われてたでしょ?」
「あ。忘れてたヌー」
朗らかに言ってのけたヌーッティを見て、トゥーリは溜め息を吐いた。そして、気づいた。ヌーッティがビスケットを出して食べ始めていることを。
ぼりぼりとビスケットを両手で食べるヌーッティの顔を見ていたトゥーリの目が、ヌーッティの大きく膨れた腹に向けられた。
「ねえ、ヌーッティ」
ヌーッティはビスケットを頬張りながら、トゥーリに視線を移す。
呆れ果てたトゥーリはひとこと、
「お腹、出過ぎじゃない?」
ヌーッティのお腹を指さして、指摘した。
言われてヌーッティは自身のお腹を見る。
「出てないヌー。ヌーの体型はさしゃだヌー」
「『さしゃ』じゃなくて『華奢』ね。っていうか、本当に出過ぎてるよ? またポットにはまって出られなくなるよ?」
トゥーリはベッドから床へ下りると、ヌーッティに歩み寄る。
「もうポットにははまらないヌー。ポットに入らないから大丈夫だヌー」
そう答えてビスケットを1枚、また1枚と食べていく。
「3回同じこと言って、3回ポットにはまったでしょ?」
ヌーッティのもとに来たトゥーリは、ヌーッティのお腹を手で触る。すると、ぼよんぼよんと大きくヌーッティのお腹が揺れた。
「ほら、食べ過ぎだって。お昼ごはんだって、おかわりしてたのに。そんなんじゃ、アキからもらったヒーロー服が着られなくなるよ?」
「ちゃんと着られるから大丈夫だヌー!」
「じゃあ、着てみてよ」
「いいヌー! ちょっと待つヌー!」
ヌーッティは手に持っていた食べかけのビスケットを食べるとベッド下へ行き、アキからもらった大好きなドラマのヒーローが着ている衣装と同じ服を引っ張り出してきた。もちろん、服はアキのお手製で、ヌーッティのサイズに仕立ててある。
ヌーッティは黄色のボディスーツに足を入れ、服を引っ張り上げた。ところが、
「ヌー⁈」
お腹のところで服がつかえてしまい、上に引っ張り上げられなかった。強引にちょっとでも引っ張り上げようものなら、びりっと破れそうであった。
「これはヌーの服じゃないヌー!」
「ヌーッティ以外誰も着ないよ」
ヌーッティの顔が青ざめていく。
トゥーリは呆れた眼差しでヌーッティを見据えると、
「これが真実だよ」
淡白な声色で告げた。
同時に、ヌーッティが沈痛な悲鳴を上げた。
数分後。
床に伏せ、さめざめと泣いているヌーッティの隣で、
「食べ過ぎには注意だよ」
トゥーリはヌーッティの肩をぽんと励ますように叩いた。
「やるヌー」
ヌーッティがぽつりと呟いた。
トゥーリは訝る。
がばっとヌーッティが起き上がると、
「ダイエットするヌー!」
両手を突き上げ、そう宣言した。
「トゥーリ!」
ヌーッティに名前を呼ばれたトゥーリは首を傾げる。
「トレーナーになって欲しいヌー! ヌーは1週間でもとの筋肉質な肉体に戻ってみせるヌー! だから手伝って欲しいヌー!」
こうして、ヌーッティのダイエットが始まったのである。
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