上 下
60 / 159
ヌーッティの7日間ダイエット

1.ヌーッティと250グラムのポテトチップス

しおりを挟む
 ある初夏の昼下がり。
 開けっ放しの窓の外から流れ込む草花の匂いが、アキの部屋に充ちる。
 トゥーリは勉強机の上で動画を視聴し、その背後、ベッドの上では、ヌーッティが大きなポテトチップスの袋の中に、頭から腰まですっぽりと入っていた。
 がさがさ、ぽりぽりぽりぽり。
 ごそごそ、ぽりぽりぽりぽり。
 ヌーッティのポテトチップスを食べる音が部屋中に響く。
 間断なく続くポテトチップスを食べる音が止んだのは、トゥーリが3分ほどの動画を視聴し終えたときであった。
 トゥーリが後ろを振り返り、ポテトチップスの袋を見て驚いた。
「ヌーッティ! 250グラムのポテトチップス、全部食べちゃったの⁈」
 慌てて立ち上がったトゥーリへの、ヌーッティからの返答はなかった。
 トゥーリは、ヌーッティが食べ終えて寝入ってしまったのではないかと思い、机からベッドに飛び移るとポテトチップスの袋へ駆け寄り中を覗き込んだ。
 しかし、ヌーッティの姿はなかった。ポテトチップスもなかった。細かなポテトチップスのかけらまで、跡形もなく食べ尽くされていた。
 トゥーリは不可解と驚きの混じった表情を浮かべた。
 そこへ、がたんとベッド下から音がした。
 トゥーリはベッドの端に行き、下を、床を見た。
 すると、ヌーッティがビスケットの箱を抱えてベッド下から這い出てきた。
「ヌーッティ! ポテトチップス全部食べちゃったの?」
 トゥーリが、ビスケットの箱を開けているお腹の膨れたヌーッティに声をかけた。
「食べちゃったヌー。トゥーリは食べないって言ってたから全部食べたヌー。おいしかったヌー」
 ヌーッティは、幸せそうな微笑みを湛えた表情をトゥーリに向ける。
「そうじゃなくって、250グラムもあったんだよ? ひとりで全部食べないようにってアキから言われてたでしょ?」
「あ。忘れてたヌー」
 朗らかに言ってのけたヌーッティを見て、トゥーリは溜め息を吐いた。そして、気づいた。ヌーッティがビスケットを出して食べ始めていることを。
 ぼりぼりとビスケットを両手で食べるヌーッティの顔を見ていたトゥーリの目が、ヌーッティの大きく膨れた腹に向けられた。
「ねえ、ヌーッティ」
 ヌーッティはビスケットを頬張りながら、トゥーリに視線を移す。
 呆れ果てたトゥーリはひとこと、
「お腹、出過ぎじゃない?」
 ヌーッティのお腹を指さして、指摘した。
 言われてヌーッティは自身のお腹を見る。
「出てないヌー。ヌーの体型はさしゃだヌー」
「『さしゃ』じゃなくて『華奢』ね。っていうか、本当に出過ぎてるよ? またポットにはまって出られなくなるよ?」
 トゥーリはベッドから床へ下りると、ヌーッティに歩み寄る。
「もうポットにははまらないヌー。ポットに入らないから大丈夫だヌー」
 そう答えてビスケットを1枚、また1枚と食べていく。
「3回同じこと言って、3回ポットにはまったでしょ?」
 ヌーッティのもとに来たトゥーリは、ヌーッティのお腹を手で触る。すると、ぼよんぼよんと大きくヌーッティのお腹が揺れた。
「ほら、食べ過ぎだって。お昼ごはんだって、おかわりしてたのに。そんなんじゃ、アキからもらったヒーロー服が着られなくなるよ?」
「ちゃんと着られるから大丈夫だヌー!」
「じゃあ、着てみてよ」
「いいヌー! ちょっと待つヌー!」
 ヌーッティは手に持っていた食べかけのビスケットを食べるとベッド下へ行き、アキからもらった大好きなドラマのヒーローが着ている衣装と同じ服を引っ張り出してきた。もちろん、服はアキのお手製で、ヌーッティのサイズに仕立ててある。
 ヌーッティは黄色のボディスーツに足を入れ、服を引っ張り上げた。ところが、
「ヌー⁈」
 お腹のところで服がつかえてしまい、上に引っ張り上げられなかった。強引にちょっとでも引っ張り上げようものなら、びりっと破れそうであった。
「これはヌーの服じゃないヌー!」
「ヌーッティ以外誰も着ないよ」
 ヌーッティの顔が青ざめていく。
 トゥーリは呆れた眼差しでヌーッティを見据えると、
「これが真実だよ」
 淡白な声色で告げた。
 同時に、ヌーッティが沈痛な悲鳴を上げた。


 数分後。
 床に伏せ、さめざめと泣いているヌーッティの隣で、
「食べ過ぎには注意だよ」
 トゥーリはヌーッティの肩をぽんと励ますように叩いた。
「やるヌー」
 ヌーッティがぽつりと呟いた。
 トゥーリは訝る。
 がばっとヌーッティが起き上がると、
「ダイエットするヌー!」
 両手を突き上げ、そう宣言した。
「トゥーリ!」
 ヌーッティに名前を呼ばれたトゥーリは首を傾げる。
「トレーナーになって欲しいヌー! ヌーは1週間でもとの筋肉質な肉体に戻ってみせるヌー! だから手伝って欲しいヌー!」
 こうして、ヌーッティのダイエットが始まったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いたずらてんしとうれしいのほし

戸波ミナト
絵本
いたずらてんしはうっかり弓矢でサンタさんをうちおとしてしまいました。 サンタさんは冬の国にプレゼントを届けに行くとちゅうです。 いたずらてんしはいたずらのおわびにプレゼントくばりをてつだいます。

あこがれチェンジ!

柚木ゆず
児童書・童話
 ねえねえ。『アコヘン』って知ってる?  カッコよかったり、キラキラしてたり。みんなにも、憧れの人っているよね?  そんな人になれちゃうのが、アコヘンなの。  こんな人になりたいっ! そんな気持ちが強くなると不思議なことが起きて、なんとその人とおんなじ性格になれちゃうんだって。  これって、とっても嬉しくって、すごいことだよね?  でも……。アコヘンには色んな問題があって、性格が変わったままだと困ったことになっちゃうみたい。  だからアコヘンが起きちゃった人を説得して元に戻している人達がいて、わたしもその協力をすることになったの。  いいことだけじゃないなら、とめないといけないもんね。  わたし、陽上花美! パートナーになった月下紅葉ちゃんと一緒に、がんばりますっ!

テムと夢見の森

Sirocos(シロコス)
児童書・童話
(11/27 コンセプトアートに、新たに二点の絵を挿入いたしました♪) とある田舎村の奥に、入ったら二度と出られないと言われている、深くて広い森があった。 けれど、これは怖い話なんかじゃない。 村に住む十才の少年テムが体験する、忘れられない夢物語。

ほんのとびら

田古みゆう
児童書・童話
ある問題を解決してほしくて、森でふくろうを探していた、子ザルのもん吉。 そんなもん吉の前に、小さな車に乗って、リスのリーさんが現れた。 物知りなふくろうを探しているのだが、知らないかともん吉が尋ねると、そのふくろうは、リーさんの先生だと言う。 しかし、先生は、年老いてしまったので力になれない。代わりに、自分が力になると、リーさんは言う。 そして彼は、もん吉に、3冊の本を薦めてきた。 しかし、もん吉は、本を全く読んだことがない。 興味がないからと断るが、リーさんは、「絶対に気に入るはずだから」と言い切る。 果たして、もん吉は、本を気にいるのか? そして、問題はリーさんによって解決されるのか?

グリフォンとちいさなトモダチ

Lesewolf
児童書・童話
 とある世界(せかい)にある、童話(どうわ)のひとつです。  グリフォンという生き物(いきもの)と、ちいさな友達(ともだち)たちとのおはなしのようなものです。  グリフォンがトモダチと世界中(せかいじゅう)をめぐって冒険(ぼうけん)をするよ!  よみにくかったら、おしえてね。 ◯グリフォン……とおいとおい世界《せかい》からやってきたグリフォンという生《い》き物《もの》の影《かげ》。鷲《わし》のような頭《あたま》を持《も》ち、おおきなおおきな翼《つばさ》をもった獅子《しし》(ライオン)の胴体《どうたい》を持《も》っている。  鷲《わし》というおおきなおおきな鳥《とり》に化けることができる、その時《とき》の呼《よ》び名《な》はワッシー。 ◯アルブレヒト……300年《ねん》くらい生《い》きた子供《こども》の竜《りゅう》、子《こ》ドラゴンの影《かげ》。赤毛《あかげ》の青年《せいねん》に化《ば》けることができるが、中身《なかみ》はかわらず、子供《こども》のまま。  グリフォンはアルブレヒトのことを「りゅうさん」と呼《よ》ぶが、のちに「アル」と呼《よ》びだした。  影《かげ》はドラゴンの姿《すがた》をしている。 ☆レン……地球《ちきゅう》生《う》まれの|白銀《はくぎん》の少《すこ》しおおきな狐《きつね》。背中《せなか》に黒《くろ》い十字架《じゅうじか》を背負《せお》っている。いたずら好《ず》き。  白髪《はくはつ》の女性《じょせい》に化《ば》けられるが、湖鏡《みずうみかがみ》という特別《とくべつ》な力《ちから》がないと化《ば》けられないみたい。 =====  わからない言葉(ことば)や漢字(かんじ)のいみは、しつもんしてね。  おへんじは、ちょっとまってね。 =====  この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。  げんじつには、ないとおもうよ! =====  アルファポリス様、Nolaノベル様、カクヨム様、なろう様にて投稿中です。 ※別作品の「暁の荒野」、「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 =====

アイの間

min
児童書・童話
中学2年生の雪。 思春期の彼には、色々と考えることがあるみたいで…。

アルバム

ジュネーブ
絵本
胸に焼ける景色 あなたは何を感じたか?

命令教室

西羽咲 花月
児童書・童話
強化合宿に参加したその施設では 入っていはいけない部屋 が存在していた 面白半分でそこに入ってしまった生徒たちに恐怖が降りかかる! ホワイトボードに書かれた命令を実行しなければ 待ち受けるのは死!? 密室、デスゲーム、開幕!

処理中です...