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食べかけのビスケット
6.真犯人、現る!
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食べかけのビスケットは未だにアキの勉強机の上に置かれていた。本棚から床に落下した本も、リュリュによって引っ掻かれたクッションも、そのままの状態であった。アキが、トゥーリたち4人に話を聴きに行く前と同じ状態が保たれていた。
トゥーリとヌーッティ、アレクシにリュリュは、ビスケットを丸く囲うように勉強机の上に立っている。アキは机の真正面に立ち、トゥーリたちとビスケットを見下ろしていた。
「また食い散らかしたのかい? ヌーッティ?」
最初に口を開いたのはアレクシであった。アレクシは右手を腰に、左手を額に当て、呆れた様子でヌーッティを見やる。
ヌーッティはむっと頬を膨らませてアレクシを見据える。
「ヌーはもっときれいに食べるヌー! それにこのビスケットは変だヌー! 食べられたところにブルーベリーっぽいものが付いてるヌー! アレクシ、かんにんするヌー!」
「『堪忍』じゃなくて『観念』だよ」
ヌーッティの言葉にトゥーリが淡白な口調で訂正を入れる。
「確かにブルーベリーっぽいものが付いていますわ。本当はアレクシなんじゃ……」
リュリュがちらりと、ヌーッティに詰め寄られているアレクシを窺った。
「待った! 待った! ぼくはこれでもブルーベリー愛好者だよ⁈ ヌーッティじゃあるまいし、ビスケットを食べるわけがない!」
慌ててアレクシは身の潔白を主張した。
「そういうことなら、これからは、おやつにビスケットが出ても食べないでヌーに渡すヌー!」
「ヌーッティはちょっと黙ってて」
言いながらトゥーリはヌーッティの手を引っ張って、アレクシから少し離し、
「リュリュ、最近ストレス溜まってる?」
隣に立つリュリュに問いかけた。
「わ、わたくしではありませんわ! わたくしは、ただ、クッションと戯れていただけですわ!」
首を横に振りながら、大きな身振りで、リュリュはトゥーリに主張した。
「引っ掻いちゃだめっていつもアキに言われてるでしょ。アレクシのせいでストレス溜まるのはわかるけど、次からは気をつけて」
トゥーリに注意されたリュリュは、か細い声で「はい」と答えた。他方、アレクシはトゥーリの言葉が腑に落ちないでいた。
「トゥーリ。きみはぼくのことを何だと思っているんだい?」
目を細めて尋ねるアレクシにトゥーリは、
「赤リスストーカーでしょ?」
何を今さらといった面持ちをアレクシに向けた。
アレクシは言い返さなかった。その代わりに、
「トゥーリがビスケットを食べたんじゃないのかい? ぼくたちより、ヌーッティの次に食欲が旺盛だろう? それになにより、床に落ちてる本が気になるしね」
疑いの眼差しでトゥーリを見つめた。
「食べないよ。だって、そういうことしたらアキが困るもん。本を片付けられなかったのは、急いで1階の書斎に行かなきゃだったからだよ。入れ違いにアキが部屋に入って来て……」
そこでトゥーリは言葉を止めた。そして、後ろに立っているアキを振り返って見る。
トゥーリに釣られて、ヌーッティたち3人もアキへ視線を移す。
4人の瞳に、紫色の小さな染みの付いた白のカットソーを着ているアキが映し出された。
「……アキ、部屋に入って来たとき、箱入りのビスケットを持っていなかった?」
トゥーリはじっとアキを見据えて尋ねた。
「えっと……、持ってたよ」
答えてアキはトゥーリから視線を逸らす。
わずかなアキの表情の強張りをアレクシも見逃さなかった。
「その洋服の染みは、もしやブルーベリーの果汁を落としたのかい?」
アレクシの質問でアキの目が泳ぐ。
「そうかな? たぶん」
リュリュはアキを見つめる目を鋭くして、
「ビスケットを持ち部屋に入って来て、さらにブルーベリーを食べていた……」
「つまり、真犯人はアキだヌー!」
ヌーッティはきりっとした顔で、びしっとアキを指さした。
トゥーリたちから注目を浴びているアキは、
「ごめん! おれが食べた!」
両手を合わせて謝った。
こうして、食べかけのビスケットの犯人がアキであると判明した。だが、トゥーリたちには気にかかることがあった。それは、
「どうしてヌーッティたちに聴き回っていたヌー? 今ならかつ丼を出してあげるヌー」
ということであった。
机に収まっていた椅子を引き出し座ったアキは、
「どうしてって、部屋に戻って来たら、本棚から本が落ちてるし、気に入ってたクッションはぼろぼろになってたし、机の上はビスケットのかすが残ってたし。それならと思って、ビスケットを食べた容疑者を探すふりして、部屋を散らかしたのが誰かを突き止めようとしたんだよ」
事情を聞いてトゥーリは溜め息吐く。
「それならそうと言ってくれればいいのに」
「そうですわ。トゥーリ様のおっしゃるとおりです。なぜ最初から言わなかったのですか?」
リュリュの質問にアキは、
「そう言ったら、この4人のうち何人かは正直に名乗り出ないだろ?」
彼らの性格を把握しているアキらしい返答であった。
「でもでも、疑われたヌーたちはちょっと嫌な気持ちになるヌー」
ヌーッティは困った様子でアキを見た。
「ごめんな。でも、ヌーッティはいつもビスケットやお菓子をつまみ食いし過ぎだから、そこは直そうな」
アキは謝りつつも、ヌーッティの悪癖をたしなめた。
「さてと、ちょっとキッチンに行ってくる」
椅子から立ち上がりつつ、アキは告げ た。
「手伝う?」
トゥーリがアキに訊いた。アキは手をひらひら振って大丈夫だよと答えた。
「今回のお詫びに、ブルーベリーとチーズのマフィンを作って来るよ。一緒にお茶にしよう」
トゥーリたちの顔がぱっと明るくなった。
「ヌーがお手伝いしてあげるヌー!」
嬉しそうに弾んだ声でヌーッティが名乗り出た。
「仕方ないなぁ。ブルーベリーのためにぼくも手を貸そう」
アレクシは喜びを潜めるように言ったが、表情からその感情を隠すことはできていなかった。
「クッションのこともありますし、わたくしもお力添えしましょう」
リュリュは笑顔をアキへ向けた。
「アキ! 私も手伝うよ。でも、これでおあいこだよ」
言ってトゥーリはにこりといたずらっぽく笑った。
そして、アキたち5人は、仲良く一緒にキッチンへ向かったのである。
今日のおやつはアキお手製のブルーベリーとチーズのマフィン。温かな紅茶を淹れて、5人のティータイムが始まるのであった。
トゥーリとヌーッティ、アレクシにリュリュは、ビスケットを丸く囲うように勉強机の上に立っている。アキは机の真正面に立ち、トゥーリたちとビスケットを見下ろしていた。
「また食い散らかしたのかい? ヌーッティ?」
最初に口を開いたのはアレクシであった。アレクシは右手を腰に、左手を額に当て、呆れた様子でヌーッティを見やる。
ヌーッティはむっと頬を膨らませてアレクシを見据える。
「ヌーはもっときれいに食べるヌー! それにこのビスケットは変だヌー! 食べられたところにブルーベリーっぽいものが付いてるヌー! アレクシ、かんにんするヌー!」
「『堪忍』じゃなくて『観念』だよ」
ヌーッティの言葉にトゥーリが淡白な口調で訂正を入れる。
「確かにブルーベリーっぽいものが付いていますわ。本当はアレクシなんじゃ……」
リュリュがちらりと、ヌーッティに詰め寄られているアレクシを窺った。
「待った! 待った! ぼくはこれでもブルーベリー愛好者だよ⁈ ヌーッティじゃあるまいし、ビスケットを食べるわけがない!」
慌ててアレクシは身の潔白を主張した。
「そういうことなら、これからは、おやつにビスケットが出ても食べないでヌーに渡すヌー!」
「ヌーッティはちょっと黙ってて」
言いながらトゥーリはヌーッティの手を引っ張って、アレクシから少し離し、
「リュリュ、最近ストレス溜まってる?」
隣に立つリュリュに問いかけた。
「わ、わたくしではありませんわ! わたくしは、ただ、クッションと戯れていただけですわ!」
首を横に振りながら、大きな身振りで、リュリュはトゥーリに主張した。
「引っ掻いちゃだめっていつもアキに言われてるでしょ。アレクシのせいでストレス溜まるのはわかるけど、次からは気をつけて」
トゥーリに注意されたリュリュは、か細い声で「はい」と答えた。他方、アレクシはトゥーリの言葉が腑に落ちないでいた。
「トゥーリ。きみはぼくのことを何だと思っているんだい?」
目を細めて尋ねるアレクシにトゥーリは、
「赤リスストーカーでしょ?」
何を今さらといった面持ちをアレクシに向けた。
アレクシは言い返さなかった。その代わりに、
「トゥーリがビスケットを食べたんじゃないのかい? ぼくたちより、ヌーッティの次に食欲が旺盛だろう? それになにより、床に落ちてる本が気になるしね」
疑いの眼差しでトゥーリを見つめた。
「食べないよ。だって、そういうことしたらアキが困るもん。本を片付けられなかったのは、急いで1階の書斎に行かなきゃだったからだよ。入れ違いにアキが部屋に入って来て……」
そこでトゥーリは言葉を止めた。そして、後ろに立っているアキを振り返って見る。
トゥーリに釣られて、ヌーッティたち3人もアキへ視線を移す。
4人の瞳に、紫色の小さな染みの付いた白のカットソーを着ているアキが映し出された。
「……アキ、部屋に入って来たとき、箱入りのビスケットを持っていなかった?」
トゥーリはじっとアキを見据えて尋ねた。
「えっと……、持ってたよ」
答えてアキはトゥーリから視線を逸らす。
わずかなアキの表情の強張りをアレクシも見逃さなかった。
「その洋服の染みは、もしやブルーベリーの果汁を落としたのかい?」
アレクシの質問でアキの目が泳ぐ。
「そうかな? たぶん」
リュリュはアキを見つめる目を鋭くして、
「ビスケットを持ち部屋に入って来て、さらにブルーベリーを食べていた……」
「つまり、真犯人はアキだヌー!」
ヌーッティはきりっとした顔で、びしっとアキを指さした。
トゥーリたちから注目を浴びているアキは、
「ごめん! おれが食べた!」
両手を合わせて謝った。
こうして、食べかけのビスケットの犯人がアキであると判明した。だが、トゥーリたちには気にかかることがあった。それは、
「どうしてヌーッティたちに聴き回っていたヌー? 今ならかつ丼を出してあげるヌー」
ということであった。
机に収まっていた椅子を引き出し座ったアキは、
「どうしてって、部屋に戻って来たら、本棚から本が落ちてるし、気に入ってたクッションはぼろぼろになってたし、机の上はビスケットのかすが残ってたし。それならと思って、ビスケットを食べた容疑者を探すふりして、部屋を散らかしたのが誰かを突き止めようとしたんだよ」
事情を聞いてトゥーリは溜め息吐く。
「それならそうと言ってくれればいいのに」
「そうですわ。トゥーリ様のおっしゃるとおりです。なぜ最初から言わなかったのですか?」
リュリュの質問にアキは、
「そう言ったら、この4人のうち何人かは正直に名乗り出ないだろ?」
彼らの性格を把握しているアキらしい返答であった。
「でもでも、疑われたヌーたちはちょっと嫌な気持ちになるヌー」
ヌーッティは困った様子でアキを見た。
「ごめんな。でも、ヌーッティはいつもビスケットやお菓子をつまみ食いし過ぎだから、そこは直そうな」
アキは謝りつつも、ヌーッティの悪癖をたしなめた。
「さてと、ちょっとキッチンに行ってくる」
椅子から立ち上がりつつ、アキは告げ た。
「手伝う?」
トゥーリがアキに訊いた。アキは手をひらひら振って大丈夫だよと答えた。
「今回のお詫びに、ブルーベリーとチーズのマフィンを作って来るよ。一緒にお茶にしよう」
トゥーリたちの顔がぱっと明るくなった。
「ヌーがお手伝いしてあげるヌー!」
嬉しそうに弾んだ声でヌーッティが名乗り出た。
「仕方ないなぁ。ブルーベリーのためにぼくも手を貸そう」
アレクシは喜びを潜めるように言ったが、表情からその感情を隠すことはできていなかった。
「クッションのこともありますし、わたくしもお力添えしましょう」
リュリュは笑顔をアキへ向けた。
「アキ! 私も手伝うよ。でも、これでおあいこだよ」
言ってトゥーリはにこりといたずらっぽく笑った。
そして、アキたち5人は、仲良く一緒にキッチンへ向かったのである。
今日のおやつはアキお手製のブルーベリーとチーズのマフィン。温かな紅茶を淹れて、5人のティータイムが始まるのであった。
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