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トゥーリとヌーッティのなにげない日常
トゥーリとヌーッティのお誕生日大作戦
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小人の女の子トゥーリと小熊の妖精ヌーッティには、人間の友だちが一人いる。
名前はアキ。日本からフィンランドのヘルシンキへ引っ越してきた、日本人とフィンランド人のハーフ。好奇心旺盛なわりに人見知りがちな十四歳の男の子である。ヘルシンキにある祖父母の家に引っ越してきて間もないアキは、いつも一人で本を読んでいるか、トゥーリとヌーッティと話をしている。
六月四日のお昼過ぎ。アキが外出した後のこと。
トゥーリとヌーッティは部屋の壁に掛かっているカレンダーをじーっと見ていた。
「もうすぐだね」
トゥーリがぽそりとヌーッティに話しかけた。
「もうすぐだヌー」
ヌーッティは腕を前で組みながらトゥーリに答えた。
「十日まであと七日だね。もちろんするよね?」
トゥーリは視線だけヌーッティへ向ける。
「お祝いだヌー!」
ヌーッティの返答を聞いたトゥーリは拳を作ると、ヌーッティに差し出した。
それに気づいたヌーッティも拳を作ると、こつんと合わせた。賛成の合図である。
「ケーキを食べて、プレゼントをあげるヌー!」
「ケーキはあげるもの! メッセージカードも忘れちゃだめ!」
トゥーリが楽しさで舞い上がっているヌーッティに注意した。
「それにケーキは作れないよ。作るにしても、アキに気づかれて見られちゃう」
トゥーリの言葉にしょげるヌーッティ。
「だから、アキが一番喜ぶプレゼントをわたしたちで作ろうよ!」
その提案を聞いたヌーッティの顔がぱっと明るくなった。
「作るヌー! でも、なにをつくればいいヌー?」
首を傾げて問うヌーッティに、トゥーリはしばし悩んだ末、
「アキって寝るのが苦手だから眠くなるようなものがいいと思うんだ。つまりね、魔術をかけたハーブを入れた匂い袋を作るの。どうかな?」
「それだヌー! 作るヌー!」
ヌーッティはつぶらな瞳を輝かせ、その案に賛同した。
「作戦名を考えたヌー!」
「作戦名?」
トゥーリの問いにヌーッティは挙手をして答える。
「アキのお誕生日大作戦だヌー!」
捻りのないその作戦名を聞いたトゥーリは溜め息を吐いた。
こうして、トゥーリとヌーッティの共同作戦、その名も「アキのお誕生日大作戦」が始動したのである。
作戦はその日の夜から決行された。
まずは、六月十日までのアキの予定の確認である。
アキが眠りについたあと、狸寝入りを決め込んでいた二人は、そぉっとベッドから出て、ベッドサイドテーブルに向かった。
そこには、アキのスマホが置かれている。
「どうやって開くヌー? ヌーはわからないヌー」
「任せて」
トゥーリはスマホの画面をタップすると、四桁のパスコードを入力する。
すると、ロック画面からホーム画面へと切り替わった。
「な、なんで知ってるヌー?!」
驚くヌーッティに対して、トゥーリは親指を立てて、
「いつも見てるから」
気合いの入った表情で答えた。
トゥーリは手慣れた操作でカレンダーのアプリを開くと、アキの一週間の予定をすべて暗記した。暗記が得意なトゥーリにとっては、このくらい造作もないことである。
用事が済んだトゥーリはスマホを元の状態に戻す。
「誕生日までは、ほとんど外出するみたいだよ。だから、ここでプレゼントを作れるよ」
声を潜め話すトゥーリを、小熊の妖精は怯えていた。
「どうしたの?」
訝るトゥーリにヌーッティは答える。
「アキのスマホを勝手に見たことが、ばれたらどうするヌー?」
「わたしたちがスマホを開いたことを誰も知らなければ、問題はないでしょ?」
しれっとトゥーリは答えた。
ヌーッティは別の意味でもトゥーリに怯えた。
確認を終えた二人はアキの寝ているベッドに潜り込むと、眠りについた。
翌日の午後。
トゥーリとヌーッティは一階のキッチンの片隅にいた。
キッチンへ来た理由は、ハーブ収集が趣味のアキの祖母が持っているハーブを少し分けて貰おうとやって来たのである。
辺りを注意深く確認すると、二人はキッチンの中央に置かれているキャスター付きの木製のワゴンに飛び乗った。天板の上には、トゥーリたちよりやや小さい透明な円柱のガラス瓶がいくつも並んでいた。それらの瓶の中には様々な種類のハーブが入っていた。
二人は手分けしてお目当てのハーブが入っている瓶を探し始める。
かちゃかちゃとガラス瓶の擦れる音が、誰もいないキッチンに響き渡る。
ほどなくして、
「あった!」
それらのハーブが見つかると少しだけ取り出し、ヌーッティが身体に巻き付け持ってきていたハンカチに包んだ。
ハーブをヌーッティに預けるとトゥーリはワゴンの一段下に飛び降りた。
そこには色彩鮮やかなキッチンタオルが丁寧に折りたたまれ重ねて置かれている。
トゥーリはそれらを物色し、一つのキッチンタオルを手に取る。
薄茶色味がかったベージュの生地に白い小花がたくさん咲いている柄のキッチンタオルであった。
満足そうな顔のトゥーリはヌーッティに声をかける。
「目的は達成したよ。早くアキの部屋へ戻ろう!」
「わかったヌー!」
こうして、二人はキッチンを後にして、アキの部屋へ戻って行った。
キッチンの作業台の上には、悪いことを除ける魔術がかけられた丸い小石と、「Kiitoksia」と青いインクで書かれた紙ナプキンが置かれていた。
部屋へ戻った二人は、それぞれの作業に取りかかる。
裁縫上手のトゥーリはハーブを入れるための巾着作りを、匂いに敏感なヌーッティはハーブの調合をし始めた。
木製のカップに入れてハーブを混ぜていたヌーッティが、一度そのカップをひっくり返し、調合をし直すはめになった以外、作業は滞りなく進んだ。
「トゥーリ! 終わったヌー!」
ハーブの調合が終わると、ヌーッティはトゥーリを呼んだ。
ちょっとした魔術をかけるためである。
森の女主人ミエリッキに呼びかけ、ハーブの効果を高めるために。
トゥーリが愛くるしい声色で詩《うた》を歌い始める。
Mielikki, herää Tapiolasta!
——目覚めよ、森の女主人ミエリッキ!
Mielensä vaivuta unehen!
彼の者に心地よい眠りを!
ハーブが淡い光を放つ。その光はあっという間に収まった。
調合したハーブの香りがほのかに部屋に満ちた。
すでに作り上がっていた巾着の口をヌーッティに広げて持っていてもらうと、トゥーリはハーブが入っているカップを担ぎ持ち、こぼさないように少しずつ入れた。
すべて入れ終えると同じ生地で作ったリボンで巾着の口をぎゅっと閉めた。
「できた!」
トゥーリとヌーッティは笑顔でハイタッチをする。
次に二人はメッセージカードを書き始めた。書き終えたメッセージカードは巾着と一緒に、アキの目の届かないところへ隠した。
準備を終えた二人は作戦決行の日まで気を張って過ごした。
そして、アキの誕生日六月十日がやってきた。
その日、二人は朝から終始そわそわしていた。
「帰ってこないヌー」
「遅いね。もう十九時になるのに」
二人は窓から外を眺めつつ、アキの帰宅を待ちわびていた。
「ちょっと一階に行って様子見てくる!」
窓から飛び降りたトゥーリはドアへ向かって駆け出す。
その時、突然、部屋のドアが開き、ぱっと部屋の電気が点いた。
開いたドアにはアキが立っていた。
「アキ!」
二人の声が重なった。
トゥーリはヌーッティに視線を移す。
視線に気づいたヌーッティは、はっとした顔でひとつ頷く。
それを見たトゥーリは頷いて答える。
作戦決行の合図である。
トゥーリはアキの足下に立つと、デスクを指さした。
「デスクに行きたいの?」
トゥーリは首を縦に振った。
アキは屈むとトゥーリを両手で抱え持ちデスクへ向かう。
トゥーリがアキの両手からデスクの上に飛び降りたとき、遅れてヌーッティがやって来て、トゥーリの横に並んだ。
二人はデスクの片隅に置いておいたプレゼントとメッセージカードを取り出す。
そして、
「お誕生日おめでとう!」
プレゼントとメッセージカードをアキへ差し出した。
アキは驚いた表情を浮かべた。
その顔を見た二人は作戦が成功したと思った。
「ヌーとトゥーリがいっしょに作ったヌー!」
アキは手渡された巾着を鼻に近づけた。いい香りがした。ほのかに魔術の匂いも混じっていることにアキは気づいた。
「この匂い袋、魔術かけた?」
トゥーリは頷いた。
「アキ、眠るの苦手そうだから、森の女主人ミエリッキの力を借りたの」
「カードも読むヌー!」
ヌーッティに促され、アキは二人がそれぞれ書いたメッセージカードに目を通す。
トゥーリのカードには彼女らしいメッセージ書かれていた。
ヌーッティのメッセージの最後の一文「Anna paljon salmiakkia, lakritsia ja suklaata minulle! ——ヌーにいっぱい、サルミアッキとラクリッツとチョコをあげるヌー!」に何重にも線が引かれていた。アキは誰によって線が引かれたのかに察しがついていた。
その時、不意にアキの頬を涙が流れ落ちた。
涙をこぼしたアキを見たトゥーリとヌーッティは動揺した。
「ど、どうして泣くヌー?!」
「いやだった?!」
アキは片手で頬についた涙を拭う。
「違うよ。すっごく嬉しいよ」
けれども、二人の不安は払拭されなかった。それというのも、最近、アキは落ち込んでいる様子であったからだ。
アキはひとつ息を吐くと、二人に落ち込んでいる理由を話し始めた。
ホームシック的なのか、この頃、いつも一人でいることが少しつらくなったと話した。その話を聞いた二人は、
「アキはひとりじゃないよ!」
トゥーリの力強い言葉がアキの心に響いた。
「ヌーたちがいるヌー!」
ヌーッティの言葉で、アキはひとりぼっちじゃないと思えた。
アキは二人をそっと手に取り、ぎゅっと抱きしめた。
それからそっと離すと、トゥーリとヌーッティを見つめ、
「ありがとう」
明るさが戻った笑顔でアキは答えた。
トゥーリとヌーッティは嬉しさ溢れる顔になった。
こうして、トゥーリとヌーッティの「アキのお誕生日大作戦」は大成功となったのである。
名前はアキ。日本からフィンランドのヘルシンキへ引っ越してきた、日本人とフィンランド人のハーフ。好奇心旺盛なわりに人見知りがちな十四歳の男の子である。ヘルシンキにある祖父母の家に引っ越してきて間もないアキは、いつも一人で本を読んでいるか、トゥーリとヌーッティと話をしている。
六月四日のお昼過ぎ。アキが外出した後のこと。
トゥーリとヌーッティは部屋の壁に掛かっているカレンダーをじーっと見ていた。
「もうすぐだね」
トゥーリがぽそりとヌーッティに話しかけた。
「もうすぐだヌー」
ヌーッティは腕を前で組みながらトゥーリに答えた。
「十日まであと七日だね。もちろんするよね?」
トゥーリは視線だけヌーッティへ向ける。
「お祝いだヌー!」
ヌーッティの返答を聞いたトゥーリは拳を作ると、ヌーッティに差し出した。
それに気づいたヌーッティも拳を作ると、こつんと合わせた。賛成の合図である。
「ケーキを食べて、プレゼントをあげるヌー!」
「ケーキはあげるもの! メッセージカードも忘れちゃだめ!」
トゥーリが楽しさで舞い上がっているヌーッティに注意した。
「それにケーキは作れないよ。作るにしても、アキに気づかれて見られちゃう」
トゥーリの言葉にしょげるヌーッティ。
「だから、アキが一番喜ぶプレゼントをわたしたちで作ろうよ!」
その提案を聞いたヌーッティの顔がぱっと明るくなった。
「作るヌー! でも、なにをつくればいいヌー?」
首を傾げて問うヌーッティに、トゥーリはしばし悩んだ末、
「アキって寝るのが苦手だから眠くなるようなものがいいと思うんだ。つまりね、魔術をかけたハーブを入れた匂い袋を作るの。どうかな?」
「それだヌー! 作るヌー!」
ヌーッティはつぶらな瞳を輝かせ、その案に賛同した。
「作戦名を考えたヌー!」
「作戦名?」
トゥーリの問いにヌーッティは挙手をして答える。
「アキのお誕生日大作戦だヌー!」
捻りのないその作戦名を聞いたトゥーリは溜め息を吐いた。
こうして、トゥーリとヌーッティの共同作戦、その名も「アキのお誕生日大作戦」が始動したのである。
作戦はその日の夜から決行された。
まずは、六月十日までのアキの予定の確認である。
アキが眠りについたあと、狸寝入りを決め込んでいた二人は、そぉっとベッドから出て、ベッドサイドテーブルに向かった。
そこには、アキのスマホが置かれている。
「どうやって開くヌー? ヌーはわからないヌー」
「任せて」
トゥーリはスマホの画面をタップすると、四桁のパスコードを入力する。
すると、ロック画面からホーム画面へと切り替わった。
「な、なんで知ってるヌー?!」
驚くヌーッティに対して、トゥーリは親指を立てて、
「いつも見てるから」
気合いの入った表情で答えた。
トゥーリは手慣れた操作でカレンダーのアプリを開くと、アキの一週間の予定をすべて暗記した。暗記が得意なトゥーリにとっては、このくらい造作もないことである。
用事が済んだトゥーリはスマホを元の状態に戻す。
「誕生日までは、ほとんど外出するみたいだよ。だから、ここでプレゼントを作れるよ」
声を潜め話すトゥーリを、小熊の妖精は怯えていた。
「どうしたの?」
訝るトゥーリにヌーッティは答える。
「アキのスマホを勝手に見たことが、ばれたらどうするヌー?」
「わたしたちがスマホを開いたことを誰も知らなければ、問題はないでしょ?」
しれっとトゥーリは答えた。
ヌーッティは別の意味でもトゥーリに怯えた。
確認を終えた二人はアキの寝ているベッドに潜り込むと、眠りについた。
翌日の午後。
トゥーリとヌーッティは一階のキッチンの片隅にいた。
キッチンへ来た理由は、ハーブ収集が趣味のアキの祖母が持っているハーブを少し分けて貰おうとやって来たのである。
辺りを注意深く確認すると、二人はキッチンの中央に置かれているキャスター付きの木製のワゴンに飛び乗った。天板の上には、トゥーリたちよりやや小さい透明な円柱のガラス瓶がいくつも並んでいた。それらの瓶の中には様々な種類のハーブが入っていた。
二人は手分けしてお目当てのハーブが入っている瓶を探し始める。
かちゃかちゃとガラス瓶の擦れる音が、誰もいないキッチンに響き渡る。
ほどなくして、
「あった!」
それらのハーブが見つかると少しだけ取り出し、ヌーッティが身体に巻き付け持ってきていたハンカチに包んだ。
ハーブをヌーッティに預けるとトゥーリはワゴンの一段下に飛び降りた。
そこには色彩鮮やかなキッチンタオルが丁寧に折りたたまれ重ねて置かれている。
トゥーリはそれらを物色し、一つのキッチンタオルを手に取る。
薄茶色味がかったベージュの生地に白い小花がたくさん咲いている柄のキッチンタオルであった。
満足そうな顔のトゥーリはヌーッティに声をかける。
「目的は達成したよ。早くアキの部屋へ戻ろう!」
「わかったヌー!」
こうして、二人はキッチンを後にして、アキの部屋へ戻って行った。
キッチンの作業台の上には、悪いことを除ける魔術がかけられた丸い小石と、「Kiitoksia」と青いインクで書かれた紙ナプキンが置かれていた。
部屋へ戻った二人は、それぞれの作業に取りかかる。
裁縫上手のトゥーリはハーブを入れるための巾着作りを、匂いに敏感なヌーッティはハーブの調合をし始めた。
木製のカップに入れてハーブを混ぜていたヌーッティが、一度そのカップをひっくり返し、調合をし直すはめになった以外、作業は滞りなく進んだ。
「トゥーリ! 終わったヌー!」
ハーブの調合が終わると、ヌーッティはトゥーリを呼んだ。
ちょっとした魔術をかけるためである。
森の女主人ミエリッキに呼びかけ、ハーブの効果を高めるために。
トゥーリが愛くるしい声色で詩《うた》を歌い始める。
Mielikki, herää Tapiolasta!
——目覚めよ、森の女主人ミエリッキ!
Mielensä vaivuta unehen!
彼の者に心地よい眠りを!
ハーブが淡い光を放つ。その光はあっという間に収まった。
調合したハーブの香りがほのかに部屋に満ちた。
すでに作り上がっていた巾着の口をヌーッティに広げて持っていてもらうと、トゥーリはハーブが入っているカップを担ぎ持ち、こぼさないように少しずつ入れた。
すべて入れ終えると同じ生地で作ったリボンで巾着の口をぎゅっと閉めた。
「できた!」
トゥーリとヌーッティは笑顔でハイタッチをする。
次に二人はメッセージカードを書き始めた。書き終えたメッセージカードは巾着と一緒に、アキの目の届かないところへ隠した。
準備を終えた二人は作戦決行の日まで気を張って過ごした。
そして、アキの誕生日六月十日がやってきた。
その日、二人は朝から終始そわそわしていた。
「帰ってこないヌー」
「遅いね。もう十九時になるのに」
二人は窓から外を眺めつつ、アキの帰宅を待ちわびていた。
「ちょっと一階に行って様子見てくる!」
窓から飛び降りたトゥーリはドアへ向かって駆け出す。
その時、突然、部屋のドアが開き、ぱっと部屋の電気が点いた。
開いたドアにはアキが立っていた。
「アキ!」
二人の声が重なった。
トゥーリはヌーッティに視線を移す。
視線に気づいたヌーッティは、はっとした顔でひとつ頷く。
それを見たトゥーリは頷いて答える。
作戦決行の合図である。
トゥーリはアキの足下に立つと、デスクを指さした。
「デスクに行きたいの?」
トゥーリは首を縦に振った。
アキは屈むとトゥーリを両手で抱え持ちデスクへ向かう。
トゥーリがアキの両手からデスクの上に飛び降りたとき、遅れてヌーッティがやって来て、トゥーリの横に並んだ。
二人はデスクの片隅に置いておいたプレゼントとメッセージカードを取り出す。
そして、
「お誕生日おめでとう!」
プレゼントとメッセージカードをアキへ差し出した。
アキは驚いた表情を浮かべた。
その顔を見た二人は作戦が成功したと思った。
「ヌーとトゥーリがいっしょに作ったヌー!」
アキは手渡された巾着を鼻に近づけた。いい香りがした。ほのかに魔術の匂いも混じっていることにアキは気づいた。
「この匂い袋、魔術かけた?」
トゥーリは頷いた。
「アキ、眠るの苦手そうだから、森の女主人ミエリッキの力を借りたの」
「カードも読むヌー!」
ヌーッティに促され、アキは二人がそれぞれ書いたメッセージカードに目を通す。
トゥーリのカードには彼女らしいメッセージ書かれていた。
ヌーッティのメッセージの最後の一文「Anna paljon salmiakkia, lakritsia ja suklaata minulle! ——ヌーにいっぱい、サルミアッキとラクリッツとチョコをあげるヌー!」に何重にも線が引かれていた。アキは誰によって線が引かれたのかに察しがついていた。
その時、不意にアキの頬を涙が流れ落ちた。
涙をこぼしたアキを見たトゥーリとヌーッティは動揺した。
「ど、どうして泣くヌー?!」
「いやだった?!」
アキは片手で頬についた涙を拭う。
「違うよ。すっごく嬉しいよ」
けれども、二人の不安は払拭されなかった。それというのも、最近、アキは落ち込んでいる様子であったからだ。
アキはひとつ息を吐くと、二人に落ち込んでいる理由を話し始めた。
ホームシック的なのか、この頃、いつも一人でいることが少しつらくなったと話した。その話を聞いた二人は、
「アキはひとりじゃないよ!」
トゥーリの力強い言葉がアキの心に響いた。
「ヌーたちがいるヌー!」
ヌーッティの言葉で、アキはひとりぼっちじゃないと思えた。
アキは二人をそっと手に取り、ぎゅっと抱きしめた。
それからそっと離すと、トゥーリとヌーッティを見つめ、
「ありがとう」
明るさが戻った笑顔でアキは答えた。
トゥーリとヌーッティは嬉しさ溢れる顔になった。
こうして、トゥーリとヌーッティの「アキのお誕生日大作戦」は大成功となったのである。
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