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今世の幸せ
しおりを挟むあの断罪劇の数日後。
私とエリックは、薔薇の咲き誇る王宮の中庭で二人だけのお茶会を楽しんでいた。
「エレノアはあの後から浮かない顔をしているね。裁判に何か不服な事でもあったの?」
エリックは心配そうにエレノアを見つめる。
「いいえ···裁判は全く不服に思う事はなかったわ···。むしろ、ちゃんとそれぞれの罪にあった罰が下されたと思うわ。だけどね···。たぶんユリア嬢は、私が住んでいた世界から転生してきた人間だと思うの···。もし私が、私も転生者である事を告げて話し合えば···。違う生き方がユリア嬢にもあったんじゃないのかな?って思ったの。」
エレノアは困ったような表情を浮かべていた。
「周りは知らない人ばかりで、ユリア嬢もそれなりに苦労もしてきただろうし、寂しさや孤独もあったと思う···。たぶんそれを理解してあげられるのは···この世界で、私だけだったんじゃないかな?って···。もしかしたら、彼女が手を汚さないように彼女を止めてあげる事が出来たんじゃないか?って···考えてしまうの。」
( 彼女は被害者であるというのに···ずっとユリア嬢の事を気にかけていたのか。エレノアが気に入るのもわかる···。心根が真っ直ぐで優しい子なのだな。彼女の心の憂いを拭ってあげたいが···難しいな。)
「優理花は優しいのだな。ずっとユリア嬢の事を気遣っていたのか···。しかし、たぶん君の優しさは少しも彼女には届かなかったと思うよ。彼女は自分の事しか考えない人間だ。人を傷つけても、自分の幸せしか考えない人間だったのだから···。」
エレノアの頬に優しく触れると、エレノアは私の手の感触に少し表情を緩めた。
「君が正体を告げていたら···きっとそれを利用して君を傷つけようとしたと···私は思うよ。優理花とユリア嬢は真逆の人間だから···真逆の人間とはなかなか相入れないものだ。人を傷つけてまで幸せになろうとする人間は···どんな事があってもまた同じ選択をすると思う。この結果はどんな理由があれど彼女が自ら選んだ選択だ。君が傷つく必要はないんだよ。」
私は目の前にいる優理花をそっと抱きしめる。
私の体温を感じて彼女も少し落ち着いたようだ。
彼女は優しすぎる故なのか、自分の心を省みずに、自分で自分を追い込み傷つけてしまうことがある。
本来の責任感の強さや真面目さからなのだろうけど···きっと毎回彼女は傷ついてしまう。
だから私にできるのは···彼女の心の逃げ道を作ってあげる事だろう。彼女自身が傷つかないように···。
私は彼女のこういう不器用な所も愛しいと思う。
優しすぎる彼女を···私が幸せにしてあげたい。
だから、お互いの足りない所はお互いが足し合っていけば良いのだ。
「エリックありがとう。そうよね···。確かにこれは彼女自身が選んだ選択···。私では変えられなかったかもしれないわね···。ダメね···。私いつも終わったことをいつまでも悩んでしまうの。」
優理花の腕に力がギュッと入るのを感じる。
「この世界に来る前もそうだったのに···。私の前の世界でもそうだったの。私の最後は愛していた人に裏切られて死んだのに···彼が悪い人じゃないって信じたかったのね···。彼自身が選んだ選択だったのに···。私ったらバカでお人好しすぎたのね···。」
私の言葉に、エリックは首を横に振り否定する。
「優理花の優しさはちょっと間違うと危ないけれど、美点でもあると思うよ?献身的に人を気遣い信じる事はなかなか簡単にできる事ではない。優理花は自分を責めすぎてしまうことがあるから心配なんだ。自分を許す事も覚えてほしい。君の美点は大事にしつつ、その美点を生かせるように歩んで行こう?」
エリックは優理花の目を見つめ優しく微笑んだ。
「君に足りない事は私が補っていくから···私に足りない事は優理花が補ってくれるかい?一緒に幸せに生きて行けるように模索していこうよ。君は私が必ず守るし絶対幸せにするから。辛い時や不安な時···一人で悩んでしまう時は私に話してほしい。私をたくさん頼ってほしい。」
そう言って優しく微笑むエリックはお日様のように温かい。
「守ってくれるのは嬉しいけど命は大事にしてね?エリックに何かあったら悲しむ人間がここにいるって忘れないで···。」
ギュッとエリックを抱きしめ返すとエリックは嬉しそうに頷いた。
もう私は一人じゃないんだ···。
私を気遣い心配してくれる優しいパートナーがいる。
彼は、何よりも私を大事にしてくれる。
足りないものを与えてくれる。
私もそんな彼を幸せにしたい。
一緒に幸せになりたい。
心の重荷が全て降りたように心が軽くなった。
たぶん久しぶりに心の底から笑えたと思う。
彼と一緒にいる時間はすごく穏やかで幸せだ。
それからエリックと何気ない事をたくさん話した。
好きな食べ物、好きなこと、好きな場所···服の好みから···それはそれはいろんな事を話した。
「優理花はどんな男性がタイプなの?」
エリックがふとそんな事を聞いてきた。
正直に言っても···いいのかしら?
「私ね···前世では同年代の人間にいい思い出がなかったの。だから私年上のオジサマが好きだったわ。気遣いもできて包容力もある···大人な男性と恋愛するのが夢だったの。見た目もちょっと渋めのオジサマってなんだか大人の色気があって素敵じゃない?」
嬉しそうに語るエレノアにエリックは困惑し、頭を抱えた。
さすがのエリックもそれは叶えてあげるのは難しいと思った。
すぐに年が取れるわけはないし、すぐに大人の色気を手に入れるのは無理だ。
エリックは悩みに悩んで一つの考えにたどり着いた。
「優理花の夢を叶えてあげるのはすぐには無理だけど···私を優理花の理想な男性に育てていくってのはどうだい?見た目は···父上の子供の頃に似ているそうだから想像はしやすいと思うんだけど···君の為に、君好みの素敵なオジサマになる努力をたくさんしていくから···それではダメかい?」
困ったように話すエリックに私は驚き、目を丸くした。
エリックはそんな事を真剣に悩んでいたの?
思わずふふっと笑みが溢れてしまった。
私の夢を叶えてくれようとするエリックがとても可愛らしくまた、愛しいと思った。
それに···素敵なオジサマを育成するって素敵なアイデアね。考えてもみなかったわ。
「私···ガタイがいい男性が好きなのだけれど···体も鍛えてくれる?」
私が真剣に話すとエリックも真剣に頷いた。
くだらないことも真剣に考えてくれるエリックが可愛い···。
あんまり意地悪を言ったら可哀想ね。
「ありがとうエリック。私の夢を一生懸命叶えようとしてくれる優しいエリックが大好きよ。私も素敵な女性になるからエリックも私の横で素敵なオジサマになってね。一緒に幸せになりましょう。」
そう言って私からエリックに口付けた。
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ずっと側でエリックを見てきた。
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いつの間にか、私はこんなにもエリックのことが好きになっていたのだなと実感する。
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エリックは本当に日だまりのような温かい人ね。
もう彼なしの人生なんて想像もできない。
私はその幸せを噛みしめながら優しくエリックを抱きしめた。
エリックが顔を真っ赤にするその姿も愛しい。
二人は幸せそうに微笑み合ったのだった。
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