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断罪
しおりを挟む※残忍な描写があります。ご注意下さい。
エリックが目覚めてから半年。
今日は、今回の事件の発端となったユリア・サージェントと、隣国リステバイン王国の公爵子息ルービック・シルスタインとその父親であるギュスタフ・シルスタイン公爵の裁判の日である。
ユリアサージェントに協力した暗殺ギルドは、“王妃様と王太子の婚約者の殺害未遂”の容疑で所属する者すべてが捕縛され、暗殺ギルドは事実上消滅した。
実際に狙われた王妃、婚約者の証言と依頼人のユリア・サージェントが王太子の前で犯行を自白した為、所属していた者は、全て絞首刑を命じられた。
すでに刑は執行されている。
そして今回の件に関して、隣国リステバイン王国は一切関わりがなく寝耳に水の事だったらしい。
すぐにリステバインの国王からの使者が訪れた。
今回の事件に関して、リステバイン王国が企てた事ではなく、シルスタイン公爵家が独断で企てた犯行だと説明と謝罪があった。
リステバイン王国はグレモア王国に誠意を見せる為、シルスタイン公爵家をグレモア王国側で裁く事を許可し、シルスタイン公爵家の領土がグレモア王国に面している事もあり、シルスタイン公爵領と多額の慰謝料を支払う事で和解した。
今回の件により、リステバイン王国とはより強固な友好条約を結ぶ事になった。
隣国リステバイン王国はグレモア王国と長い間戦が絶えなかった。
3年前、リステバイン王国の国王が交代し、やっと休戦条約を結ぶに至る。その時に友好条約も結ばれた。
皮肉な事に、その条約を結んだ時期こそが···エレノアとエリックの関係を歪ませるきっかけになってしまった。
しかし、国王が交代した後もリステバイン王国内は情勢が不安定だった。
反乱分子は有力な貴族達が主だった為、今までなかなか一掃する事が叶わなかった。
どういう巡り合わせかはわからないが、今回の事件がきっかけで、友好条約がより強固なものに変わり、リステバイン王国はグレモア王国から軍事支援を受け、国内の反乱分子を一掃する事ができた。
グレモア王国は、いつ内乱が起き、政権が変わる可能性があるかわからないリステバイン王国の情勢をずっと静観していた。
少しでも情勢が変わるきっかけがあれば支援するつもりではあったが、膠着状態でなかなか手が出せなかったのだ。
反乱分子の筆頭であったシルスタイン公爵家がユリア・サージェントに唆された事で事態が動いた。
グレモア王国とリステバイン王国はこの機を見逃さず、一気に情勢が動いた。
グレモア王国は不安の種だった隣国の情勢不安を解消し、リステバイン王国は国内の反乱分子の一掃に成功し、国内にようやく平和が訪れた。
そんな事情もあり、裁判までに時間がかかってしまった。
グレモア王国史上類を見ない事件だった為か、全貴族が傍聴を希望する事態になり、小法廷で行われる予定だった裁判が急遽大法廷で行われる事になった。
傍聴席には、リステバイン国王マスブレイスと正妃のシスリーナも座っていた。
被告人であるユリア・サージェント、ルービック・シルスタイン、ギュスタフ・シルスタインが入廷すると貴族達がざわざわとする。
「今回の“王妃様と王太子殿下の婚約者エレノア嬢殺害未遂事件”は、あのユリア・サージェントがシルスタイン公爵家を唆して起こした事件らしいですわね。可愛い顔をしてなんて恐ろしい。しかも、一方的に思いを拗らせて思うようにいかないからと王太子殿下まで手にかけようとしたとか···。そのせいで王太子殿下はルービック・シルスタインに腹を刺されて一時危険な状態になったとか···。本当に恐ろしすぎますわ。」
貴婦人達は、扇で口元を隠しながらユリアを侮蔑の目で見る。
「しかし、あんな小娘一人に唆される方も情けない。小娘に唆されたからといって、情報も精査せず、独断で公爵家の私兵団を動かすなど愚の骨頂。さらに友好条約を結んだ国の王妃の宮を兵で取り囲むなど狂気の沙汰としか思えんよ···。まあそのおかげでリステバイン王国は国内の反乱分子を一掃し、我が国は長年悩みの種だった隣国の情勢不安を解消する事が出来たのだから皮肉なものだな。」
貴族男性達は呆れた様子でシルスタイン公爵とその子息を見た。
ざわざわとしていた大法廷の中は、裁判長が罪状を読み上げ始めたタイミングで静まり返る。
しかし、読み上げられた罪状に貴族達は驚きを見せた。
「被告ユリア・サージェント。其方は王太子殿下を含む、複数の貴族男性に禁忌である洗脳または魅了の魔法を使用した事が王太子殿下から提出された証拠により判明した。そして自らの罪が発覚するのを恐れ家族や使用人を監禁し、脅してサージェント家を乗っ取り、犯罪ギルドから犯罪者を雇い入れ、使用人や家族を言いなりにする為に暴力を振るい、恐怖で支配した。言う事を聞かない使用人を皆の前で惨殺したり、慰み者にしたと、保護された使用人やサージェント家の人間から証言は取れている。」
読み上げられた罪状に場内は騒然とする。
「禁忌の魔法の使用に家族の監禁···犯罪ギルドから犯罪者を雇い使用人を惨殺だなんて···なんて恐ろしいの!?人間のやる事ではないわ。それに禁忌の魔法の使用だなんて···。この国を乗っ取るつもりだったとしか思えないわ!?」
次々に述べられていく罪状に、傍聴していた貴族達の顔色が青ざめていく。
「そしてその歪んだ思いから王妃殿下、王太子殿下の婚約者であるエレノア嬢を亡き者にしようと暗殺ギルドに依頼を出し、隣国リステバイン王国のシルスタイン公爵家を唆し、白亜宮をシルスタイン公爵家の私兵団と暗殺者で取り囲み殺害しようとした反逆行為、王太子殿下の殺害未遂など···数えるだけでもきりのない罪状が上がっている。」
グレモア王国史上類を見ない罪状の多さに、場は静まり返った。
「すべて証拠は揃っているが、反論はあるか?ユリア・サージェント。」
裁判長がそうユリアに問いかけると、ユリアは口を開いた。
「私は何も悪くない!悪いのは全てそこにいるエレノア・ランバート···アンタのせいよ!!アンタが何もしないからエリックは私の事を見向きもしなかった···!アンタがちゃんと悪役令嬢としての役割を果たさないから私はこうしなければいけなかった!!全てアンタが悪いのよ。犯罪者はアンタでしょうが!!」
完全に言いがかりだった。
あまりに支離滅裂で、訳のわからない事を叫ぶユリア・サージェントに皆が呆れた様子で見ていた。
罵られた本人である私も···相手にする気も、反論する気も失せてしまった。
愚かな人間に何を言っても無駄だと思ったからだ。
その様子を見て、ルービック・シルスタインとシルスタイン公爵は呆然として立ち尽くしていた。
「私は···私達は···こんな女の為に人生を棒に振ってしまったというのか···?」
ルービック・シルスタインの口から吐露された言葉を聞いた会場内の人間は、皆呆れた目をルービックに向けた。
その後ルービック・シルスタインとシルスタイン公爵の罪状が読み上げられた。
ルービック・シルスタインとシルスタイン公爵は大人しく罪を認めた。
あまりに自分達が浅慮すぎた事を恥じて、反論できなかったと言う方が正しいだろう。
後日─。
ユリア・サージェントに下された刑罰は禁忌魔法の使用により、その刑は大変残忍で重いものになった。
四肢切断の上首輪に繋がれ、見せしめとして一週間広場に晒された後、火炙りになった。
ずっと見ていた市民の話では、彼女は命が終わるその瞬間まで、自分は悪くない!と罪を認めず最後まで叫んでいたと言う。
そして禁忌魔法の使用が判明した場合、本来であれば一族皆同じ刑に処される所だが、家族も使用人も監禁されて脅され、恐怖に支配されていた事も加味されて、爵位の剥奪と領地の剥奪、財産も没収になった。
当主であるサージェント子爵は、娘の起こした事件の責任を取り、夫婦で炭坑送りになった。
そしてルービック・シルスタインとシルスタイン公爵は広場にて、斬首刑に処された。
シルスタイン公爵家の領地はグレモア王国に吸収され、シルスタイン公爵家の財産とサージェント家の財産は慰謝料として、ランバート公爵家へと支払われた。
こうして事件の幕は閉じた。
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