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縮まる二人の距離
しおりを挟む暗闇から浮上するように目を覚ますと、誰かの手が私の手を握っていた。
温かな体温を感じる。
彼女はつきっきりで看病してくれていた様で、疲れてそのまま眠ってしまったようだ。
彼女の寝顔を見つめていると、うっすら目元が赤くなっている事に気付いた。
泣いたのか?
刺されてからの記憶がない。
あれからどれくらいたったのだろう?
彼女の様子を見る限り、私はかなりの長い時間眠っていたのかもしれない。
眠る彼女の頬に触れると、彼女はビクッとして目を覚ました。
もう少し寝顔を見ていたかったんだがな···。と残念に思いつつも、ずっと触れたかった彼女を目の前にして我慢なんてできなかった。
「エリック···やっと目を覚ましたのね?あれから5日も眠り続けていたから心配していたのよ···?良かった···目が覚めて···。」
エレノアの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちた。
彼女の目元を傷つけないように優しく触れ、そっと涙を拭う。
「エレノア···泣かせてしまってごめんね。」
私はゆっくり体を起こしてベッドに腰かけると目の前に置いてある椅子をポンポンと叩く。
「エレノア、こっちへ来て一緒に話そう?」
エレノアは素直に私の目の前の椅子に腰かけた。
しばし見つめ合うと、エレノアは何か覚悟を決めたように話し始める。
「私は···エリック···いえ、王太子様に謝らなければならないことがあります···。私は本物の“エレノア”じゃありません。私はこことは全く違う世界の人間で、名前は優理花と言います。私はあの階段から落ちた事故の後突然、エレノアの体に憑依してしまったんです。今までずっと貴方を騙し続けてしまってごめんなさい···。ずっと真実を偽ってきた私に···貴方と婚約を続ける資格はありません。どうか···婚約を破棄して下さい。どんな処罰も受け入れる覚悟です。しかし···私の家、両親には罪はありません。私一人の責任です。どうか罰するのなら私だけを罰して下さい···お願いします。」
私は頭を深く下げる。
しかし、エリックからの反応がなく、私の背に冷や汗が流れる。
しばらく無言でいた彼がようやく口を開く。
「優理花···すまない。婚約は破棄しない。君の事はなんとなく気付いていたんだ。頭を上げてくれるかい?その事も含めて話をしよう。」
エリックの優しい声音に驚き顔を上げると、エリックは私を優しい眼差しで見つめていた。
どうして···?
「私は···ずっと貴方を騙していたんですよ?どうして···どうして婚約破棄して下さらないんですか···?」
私は頭が混乱していた。一国の王太子を騙していたのだ。私は打ち首になるだろうと腹をくくっていた。
しかし、エリックは気付いていた?
気付いていて私の側にいたの···?
訳がわからない。どうして···?
困惑するあまり、両の目から次から次へと涙が止まらない。
「優理花···泣かないで?君を泣かせたいわけじゃないんだ。落ち着いて···ちゃんと理由を話すから···私の話を聞いてくれるかい?」
エリックはエレノアの腕をグイっと引き、エレノアを抱きしめる。彼女が落ち着くようにポンポンと小さな子をなだめるように背を撫でる。
感情が高ぶり、涙が止まらない彼女が落ち着くまでエリックは優しく優しく大丈夫だと声をかけ続けた。
彼女が落ち着いてきたのを見計らって、エリックは優しく優理花に語りかけた。
「眠っている間に夢を見たんだ。夢でエレノアに会ったよ。彼女が全部教えてくれたんだよ。エレノアに何がおきたのかも、君が何故この世界に来たのかもすべてエレノアが教えてくれた。」
それから優理花に事の経緯やエレノアが話してくれたすべてを話した。
「エレノアはずっと優理花を心配していたよ。エレノアの勝手でこちらの世界に無理矢理連れて来てしまった事を後悔していたのかもしれない。でもきっとエレノアと君が出会わなかったら二人の魂は消滅していた。私は君達二人が出会った事は運命だったのだと思っている。君は偽物なんかじゃない。エレノアも言っていたよ···エレノアと優理花は二人で一人だと···。私もそう思っている。そうじゃなければ···私はこんなにも君を愛さなかったと思うから。」
ギュッと抱きしめる腕が強まった。
「それにもう私は君を愛してしまった···。君がいないと生きていけないほどに優理花···君が好きだ。君がいる白亜宮が敵に囲まれているのを見た時、心臓が止まるかと思った。君を永遠に失うかもと思ったら体が震えた。お願いだから···私から離れようとしないでほしい。君が私を嫌いでないのなら···君も私と同じ気持ちなら···どうか私の側にずっといてほしい。」
エリックの目からも涙が溢れ落ちる。
私を抱きしめる腕が微かに震えているのに気づいた。
私もそっとエリックを抱きしめ返すとエリックの体が微かに震え、さらに抱きしめる腕に力がこもる。
「私····エリックの側にいてもいいの···?私もエリックを好きでいてもいいの···?エリック···私···もエリックが好き···。大好きなの···。」
二人は涙が落ち着くまで抱きしめ合っていた。
涙が落ち着いてきた頃、二人は自然とお互いの顔を見つめ合う。
「エリック···酷い顔になっているわ。」
エリックの目元は赤くなっていた。
「エレノアもね···。たくさん泣かせてしまってごめんね。可愛い目元が真っ赤になってしまった···。」
エリックが優しくエレノアの目元に触れる。
まるで宝物に触れるような優しい手の感触にエレノアは気持ち良さそうに目を閉じる。
スリッと私の手に頬擦りする彼女の姿に一瞬理性を失いそうになった。
エレノアのあまりの無防備さに、胸がドクドクと音を立てる。
(可愛いすぎて···目のやり場に困るな···。いつまで理性が保てるか自信がなくなってきた。)
エレノアは気が済んだのか、目を開きエリックを見つめニッコリと微笑んだ。
エリックの理性は限界だった。
エレノアの両頬に優しく触れると彼女の唇に口付ける。
一瞬驚き目を見開いたエレノアだが、エリックの唇を受け入れ目を閉じる。
エレノアが受け入れた事に気づいたエリックのキスはどんどん深いものへと変わった。
長い時間唇を貪られたエレノアは、呼吸するタイミングがわからず息をプハっと吐き出す。
エレノアの反応に驚いたエリックは唇を離した。
(ファ···ファーストキスなのにディープキスって!?)
前世でも色恋に疎かったエレノアにはもういっぱいいっぱいだった。
キャパオーバーしたエレノアは、顔を真っ赤にして思考を停止させてしまった。
そこで初めてエリックも自身の醜態に気づく。
「エレノア!?ごめん!私は一体なんて事を!?ごめん···嫌だったか···?」
シュンとして反省するエリックを見て、犬が叱られた時の姿を思い出した。
今日のエリックは普段の冷静さが欠けていて、年相応の男の子に見えて可愛らしいと思ってしまった。
「嫌じゃなかったよ···。恥ずかしかったけど···嬉しかった。」
嫌がった様子はなく、恥ずかしそうにプイッと横を向いてしまったエレノアの姿を見て安堵の笑みがこぼれた。
エレノアの手を引き、優しく腕の中に閉じ込める。
そして額に口付けするとそっと体を離し、エリックはエレノアの前に跪いた。
「エレノア・ランバート。貴女を世界中の誰よりも愛しています。私と結婚して下さい。」
夕焼けが二人を照らし出す。
キラキラと夕日に照らされたエリックの姿は神々しく見えた。
「はい···。喜んでお受けします。」
エレノアの返事を聞きガバッと体を起こしたエリックはそのままエレノアを抱きしめた。
そして···夕日に照らされた二人の影は重なる。
まるで夕日が二人を祝福するように、優しく二人を照らし出していた。
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