(完結)乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、私オジ専なのでお構いなく

海野すじこ

文字の大きさ
23 / 27

縮まる二人の距離

しおりを挟む


暗闇から浮上するように目を覚ますと、誰かの手が私の手を握っていた。

温かな体温を感じる。

彼女はつきっきりで看病してくれていた様で、疲れてそのまま眠ってしまったようだ。

彼女の寝顔を見つめていると、うっすら目元が赤くなっている事に気付いた。

泣いたのか?

刺されてからの記憶がない。
あれからどれくらいたったのだろう?

彼女の様子を見る限り、私はかなりの長い時間眠っていたのかもしれない。

眠る彼女の頬に触れると、彼女はビクッとして目を覚ました。

もう少し寝顔を見ていたかったんだがな···。と残念に思いつつも、ずっと触れたかった彼女を目の前にして我慢なんてできなかった。


「エリック···やっと目を覚ましたのね?あれから5日も眠り続けていたから心配していたのよ···?良かった···目が覚めて···。」

エレノアの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちた。

彼女の目元を傷つけないように優しく触れ、そっと涙を拭う。

「エレノア···泣かせてしまってごめんね。」

私はゆっくり体を起こしてベッドに腰かけると目の前に置いてある椅子をポンポンと叩く。

「エレノア、こっちへ来て一緒に話そう?」

エレノアは素直に私の目の前の椅子に腰かけた。
しばし見つめ合うと、エレノアは何か覚悟を決めたように話し始める。

「私は···エリック···いえ、王太子様に謝らなければならないことがあります···。私は本物の“エレノア”じゃありません。私はこことは全く違う世界の人間で、名前は優理花と言います。私はあの階段から落ちた事故の後突然、エレノアの体に憑依してしまったんです。今までずっと貴方を騙し続けてしまってごめんなさい···。ずっと真実を偽ってきた私に···貴方と婚約を続ける資格はありません。どうか···婚約を破棄して下さい。どんな処罰も受け入れる覚悟です。しかし···私の家、両親には罪はありません。私一人の責任です。どうか罰するのなら私だけを罰して下さい···お願いします。」

私は頭を深く下げる。

しかし、エリックからの反応がなく、私の背に冷や汗が流れる。

しばらく無言でいた彼がようやく口を開く。

「優理花···すまない。婚約は破棄しない。君の事はなんとなく気付いていたんだ。頭を上げてくれるかい?その事も含めて話をしよう。」

エリックの優しい声音に驚き顔を上げると、エリックは私を優しい眼差しで見つめていた。

どうして···?

「私は···ずっと貴方を騙していたんですよ?どうして···どうして婚約破棄して下さらないんですか···?」

私は頭が混乱していた。一国の王太子を騙していたのだ。私は打ち首になるだろうと腹をくくっていた。

しかし、エリックは気付いていた?
気付いていて私の側にいたの···?

訳がわからない。どうして···?

困惑するあまり、両の目から次から次へと涙が止まらない。

「優理花···泣かないで?君を泣かせたいわけじゃないんだ。落ち着いて···ちゃんと理由を話すから···私の話を聞いてくれるかい?」

エリックはエレノアの腕をグイっと引き、エレノアを抱きしめる。彼女が落ち着くようにポンポンと小さな子をなだめるように背を撫でる。

感情が高ぶり、涙が止まらない彼女が落ち着くまでエリックは優しく優しく大丈夫だと声をかけ続けた。

彼女が落ち着いてきたのを見計らって、エリックは優しく優理花に語りかけた。

「眠っている間に夢を見たんだ。夢でエレノアに会ったよ。彼女が全部教えてくれたんだよ。エレノアに何がおきたのかも、君が何故この世界に来たのかもすべてエレノアが教えてくれた。」

それから優理花に事の経緯やエレノアが話してくれたすべてを話した。

「エレノアはずっと優理花を心配していたよ。エレノアの勝手でこちらの世界に無理矢理連れて来てしまった事を後悔していたのかもしれない。でもきっとエレノアと君が出会わなかったら二人の魂は消滅していた。私は君達二人が出会った事は運命だったのだと思っている。君は偽物なんかじゃない。エレノアも言っていたよ···エレノアと優理花は二人で一人だと···。私もそう思っている。そうじゃなければ···私はこんなにも君を愛さなかったと思うから。」

ギュッと抱きしめる腕が強まった。

「それにもう私は君を愛してしまった···。君がいないと生きていけないほどに優理花···君が好きだ。君がいる白亜宮が敵に囲まれているのを見た時、心臓が止まるかと思った。君を永遠に失うかもと思ったら体が震えた。お願いだから···私から離れようとしないでほしい。君が私を嫌いでないのなら···君も私と同じ気持ちなら···どうか私の側にずっといてほしい。」

エリックの目からも涙が溢れ落ちる。
私を抱きしめる腕が微かに震えているのに気づいた。

私もそっとエリックを抱きしめ返すとエリックの体が微かに震え、さらに抱きしめる腕に力がこもる。

「私····エリックの側にいてもいいの···?私もエリックを好きでいてもいいの···?エリック···私···もエリックが好き···。大好きなの···。」

二人は涙が落ち着くまで抱きしめ合っていた。

涙が落ち着いてきた頃、二人は自然とお互いの顔を見つめ合う。
「エリック···酷い顔になっているわ。」

エリックの目元は赤くなっていた。

「エレノアもね···。たくさん泣かせてしまってごめんね。可愛い目元が真っ赤になってしまった···。」

エリックが優しくエレノアの目元に触れる。

まるで宝物に触れるような優しい手の感触にエレノアは気持ち良さそうに目を閉じる。

スリッと私の手に頬擦りする彼女の姿に一瞬理性を失いそうになった。

エレノアのあまりの無防備さに、胸がドクドクと音を立てる。

(可愛いすぎて···目のやり場に困るな···。いつまで理性が保てるか自信がなくなってきた。)

エレノアは気が済んだのか、目を開きエリックを見つめニッコリと微笑んだ。

エリックの理性は限界だった。
エレノアの両頬に優しく触れると彼女の唇に口付ける。

一瞬驚き目を見開いたエレノアだが、エリックの唇を受け入れ目を閉じる。

エレノアが受け入れた事に気づいたエリックのキスはどんどん深いものへと変わった。

長い時間唇を貪られたエレノアは、呼吸するタイミングがわからず息をプハっと吐き出す。

エレノアの反応に驚いたエリックは唇を離した。

(ファ···ファーストキスなのにディープキスって!?)

前世でも色恋に疎かったエレノアにはもういっぱいいっぱいだった。

キャパオーバーしたエレノアは、顔を真っ赤にして思考を停止させてしまった。

そこで初めてエリックも自身の醜態に気づく。

「エレノア!?ごめん!私は一体なんて事を!?ごめん···嫌だったか···?」

シュンとして反省するエリックを見て、犬が叱られた時の姿を思い出した。

今日のエリックは普段の冷静さが欠けていて、年相応の男の子に見えて可愛らしいと思ってしまった。

「嫌じゃなかったよ···。恥ずかしかったけど···嬉しかった。」

嫌がった様子はなく、恥ずかしそうにプイッと横を向いてしまったエレノアの姿を見て安堵の笑みがこぼれた。

エレノアの手を引き、優しく腕の中に閉じ込める。
そして額に口付けするとそっと体を離し、エリックはエレノアの前に跪いた。

「エレノア・ランバート。貴女を世界中の誰よりも愛しています。私と結婚して下さい。」

夕焼けが二人を照らし出す。
キラキラと夕日に照らされたエリックの姿は神々しく見えた。

「はい···。喜んでお受けします。」

エレノアの返事を聞きガバッと体を起こしたエリックはそのままエレノアを抱きしめた。

そして···夕日に照らされた二人の影は重なる。

まるで夕日が二人を祝福するように、優しく二人を照らし出していた。





しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...