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父親達の思い(国王ミルケル、ランバート公爵side)
しおりを挟む娘が階段から落ちて大ケガをした次の日、私は国王陛下と話をするために登城した。
国王のミルケルとは旧知の仲だが、今日は婚約者エレノア・ランバートの父親として抗議する為に来た。
私は謁見の間ではなく、応接室に通された。
ミルケルはもうすでに応接室で待っていた。
私が室内に入ると、ミルケルは人払いをする。
何を話しに来たのか、もうわかっているようだ。
「ジョシュア。言いたい事はわかっているが、まずは座ってくれ。」
ミルケルは自分の向かい側のソファーへ座るよう促す。
私がソファーに座ると、ミルケルは私に深々頭を下げた。
「今回の事···誠にすまない。愚息がついていながらエレノア嬢があんな事になって···。今回の事だけじゃない。何から何まで彼女を傷つけてしまう結果になってしまった事···本当にすまなかった。」
謁見の間での会話は、すべて記録されてしまう。だからミルケルは、話し合いを応接室にしてくれたのだ。
王族が頭を下げる事は許されないから。
それでも旧友に対して、旧友の娘に対してミルケルは礼儀を通したかったのだろう。私は止めなかった。
私は深く溜め息をつく。
「ミルケル···だから娘を王家にやるのは嫌だったんだ。こんな事になるとわかっていたから···だから私は反対した。」
ジョシュアは唇を噛んだ。
「エレノアは、私の大事な大事な宝物なんだ。エメリアが···私に遺してくれた、ただ一つの宝物だ。それなのに···。あの時も事情が事情だったから反対はしなかった。だが、今もエメリアの最後に会わせてやれなかった事を後悔している。」
ジョシュアは美しい顔を歪めた。
「娘があんな事になるなら、連れ帰るべきだった。エメリアとの最後の時間を奪い、傷つけて娘の心を折るくらいなら···。あの時は私も判断を誤った。だからエリックの愚行も許したんだ。エリックもまた、あの時の被害者だったから···。彼もまた深く傷ついた一人。二人の関係を歪めてしまったのは、私達親の責任だから···だから許したんだ。」
そこまで言うと、ジョシュアはミルケルを鋭く睨む。
「だが、またこんな事になった。二度目はないと言ったはずだぞ?ミルケル。約束が守れないのなら···すぐ婚約を解消するとの約束だったはずだ。」
ミルケルは、何も言う事ができなかった。
「私は、次こそは間違えたくない。もう二度とあんな思いはしたくないからな。私も···エリックが憎いわけではない。旧友の大事な息子で、私も···息子のように可愛いがって来た。」
ジョシュアは、今にも泣き出しそうな悲しげな瞳でミルケルを睨む。
「だからこそ、次はない。エリックがエレノアを大切にするつもりがないのなら···婚約は解消させてもらう。これ以上の譲歩と我慢はできないからな?」
ミルケルは小さく「わかった。」と頷いた。
ジョシュアはそれだけ言うと席を立ち「言いたい事はそれだけだ。」と言うなり部屋を去っていった。
長い付き合いのジョシュアのあんな悲しげな瞳を初めて見た。
怒って当然だ。
ジョシュアは最初から反対していた。
エレノアを婚約者に選んだのは、息子の後ろ楯の為だけではなかった。
ミルケルは、従妹であるエレノアの母、エメリアの事が好きだった。
たぶんジョシュアも知らないだろう。
ジョシュアがエメリアと出会う前からの片思いだった。
ミルケルにとって淡い初恋であり、忘れる事ができない初恋の人。
エメリアの事がずっと好きだったが、自分の恋心に気づく頃には、もう婚約者が決まっていた。
相手はまだ顔も会わせていなかったジョシュアだ。
ジョシュアは年も同じ事もあり、小さな頃から一緒に過ごした大事な親友だった。
エメリアもジョシュアも、ミルケルにとっては大事な大事な存在だった。
だからミルケルは、その初恋を誰にも気づかれないように、自分の気持ちに蓋をして二人が幸せになれるように初恋を諦めた。
エメリアとジョシュアに女の子が生まれたと聞いた時、欲が出た。
せめて大好きだった彼女と大好きな親友の子供と私の息子が結ばれたら···誰にも知られず、誰にも言えなかった秘めた初恋が少しは報われるのではという気持ちもあったのだ。
自分の···そんな我が儘の罰が下ったのだろうか。
自分のそんな我が儘のせいで···大事な二人の子供と自分の大事な息子の二人を深く傷つける結果になってしまったのだから···。
ミルケルは一人深く溜め息をついた。
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